41.逢坂社長はスゴイです
「下着業界の最大手は含まれない。うちと競合するライバル会社は、主に5つだ。ひとつめは……」
次々に会社名を告げられ、ちひろはまたしてもアワアワしてしまう。
(混乱しちゃう……! 初めて耳にする会社名ばかりだわ。覚えきれない!)
「絞り込む商品は、やはり一番売上高の高いアイテムであるブラとショーツだろうな。その次に単価の高い補正下着、単価は低いが枚数がでるレッグウェアといったところか」
「あ、ありがとうございました」
なんとか会社名と商品ジャンルを暗記し、慌てて席に戻って紙に書き写す。
(ええと……これで合っているかな……自信がないから、自分で調べてみよう……)
ちひろは会社名をひとつずつ、パソコンで検索して調べた。
(ふう……大丈夫みたい。じゃあオフィシャルサイトから閲覧してみようかな。まずは商品を覚えなきゃ)
ちひろは午前中いっぱいかけて、サイトを隅々まで目を通した。
その姿を、まわりは一線引いた距離から見ている。
特にひとりの女性は、忌々しいといった恨みがましい目つきでちひろを見てきたが――
当の本人は一切気づかず、ひたすらサイトを閲覧していた。
§§§
ちひろは逢坂の秘書となってから、一分一秒たりとも無駄にできない日々を送っている。
逢坂は驚くほど精力的で、行動的で、チャレンジ精神に溢れていた。
誰かが提案した無理そうなアイディアでも、面白いと思ったら彼は実行した。
行き詰まった社員がいたら、彼の持つ豊富な知恵と経験で突破口を提案する。
けして過剰に手伝うわけではない。
あくまでも助言するというスタンスで、社員に自信をつけさせてくれる。
そして宇宙人かと思えるくらいに賢い。
大袈裟かもしれないが、ちひろからしたら異次元の頭の良さだと思えるときがあった。
たとえば――
「このデータ、アクセス数と転換率の計算式が間違っているな」
「あっ……は、はい。ええと……」
最近になって、やっと表計算ソフトの小難しい計算式を覚えたちひろは、油断するとすぐに数式を間違えてしまう。
その都度逢坂が指摘してくるのだが、その発見速度が神がかり的なのだ。
自分が作成したデータなのに、どこが間違っているのかちひろ本人ですらわからないというのに。
「逢坂社長。すぐ間違いに気がつくなんてすごいです」
ちひろが素直に感嘆すると、逢坂はあたりまえという顔を返してきた。
「この程度で何を言っているんだ」