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命がけの冒険はなおも続く

「ここからは疫病ステージになります。敵から菌をもらわないようにしましょう。ウイルスが体内に侵入した場合、治療不可能な病にかかることもあります。死亡につながるリスクもあるので気を付けましょう」

 雷ステージをクリアしたと思ったら、次は疫病ステージか。クスリは大きな溜め息をついた。一度死んだら終わりなのに、一撃死の設定が多すぎやしないか。

 RPGでは異常状態を完全治療するための「ばんのうやく」が定番だ。毒、石化といった異常状態を一瞬で治すことができる。クスリの世界にも用意してほしかった。

 建物内の最初の説明版には、「2040年に流行したコナロンウイルスコース」と書かれていた。2020年に世界で大流行し、多くの人間を死に至らしめたコロナウイルスのナとロを入れ替え、後ろに「ン」を付け足しているので、実態はコロナウイルスと同じなのではなかろうか。

 クスリは冷静を保とうとしたものの、手足の震えを止めることはできなかった。身内がコロナウイルスの犠牲者になったのだ。

 新幹線に乗車中の出来事だった。コロナウイルスにかかっていると知りながら、22歳の大学生が自宅に帰るために乗車した。祖父は隣の席に座っていたため、コロナウイルスに感染することとなった。

 祖父はすぐさま容態が急変し、病院へと運ばれた。三日後には心肺停止の状態となり、数時間後に死亡が確認された。死後の検査において、コロナウイルスのPCR検査で陽性だと判明した。

 コロナウイルスで陽性反応を示したため、最後の顔合わせを許されなかった。幼児の頃からお世話になってきた、祖父にお別れをいえないのは寂しかった。

 殺人鬼となった女性の名前は報道されていない。祖父を殺されたにもかかわらず、女性を訴えられないのは法の不備としかいいようがない。誰も始末しないのなら、自分の手で闇に葬ってやりたい。

 案内板の説明によると、コナロンウイルスを発症した敵だけでなく、40度近い熱を発症したインフルエンザの患者なども出現するらしい。現代社会であの世に旅立てばいいのにと思われる人間を送り込んでくるあたり、ゲームのあくどさを感じる。人間を使い捨て感覚で扱っている。

 現実世界では天国にいけと思っていたとしても、決して口外はしない。周囲が同じ意見であったとしても、当人の前では絶対にいってはならないという暗黙の了解がある。

 疫病コースはいたって普通そうに見えた。突然と表れた敵が、コナロンウイルスの菌を持っていることになりそうだ。

 ゲーム業界としては、こういうタイプを発売したいと考える企業はありそうだ。実際にやるとブーイングを浴びかねないので、自粛しているにすぎない。バイオハザードが大ヒットしたように、いかれた敵を倒すゲームはヒットしやすい傾向にある。

 クスリが上に向かって進んでいると、「コナロンウイルスにかかった人間が現れた」と表示された。堂々と表示するあたり、ゲームらしいといえる。現実なら差別されるのを恐れて、公表するのをためらうところだ。人間社会はそういったところに敏感だ。 

 生身の人間なので、剣で切り落とせば一撃で倒せる確率は高い。それにもかかわらず、クスリは攻撃をすべきか大いに悩んだ。装備している武器にウイルスが付着すると、全体に広がっていく可能性は高い。全ての武器だけでなく、アイテムまでも使い物にならなくなってしまいかねない。

 クスリは宿屋で「しゅりけん」を入手したのを思い出した。こちらを使用することで、ウイルスの媒体の侵入を防げるのではなかろうか。

 クスリは「コナロンウイルスにかかった人間」に「しゅりけん」を投げつけた。生身の人間は真っ二つに割れ、血しぶきを上げていた。

 一滴すら返り血を受けないように、俊敏な動きで遺体から離れた。死後もウイルスを体内に持っている可能性は否めない。

 コナロンウイルスを発症した敵が複数体現れたらどうなるのか。攻撃をしてこなくとも、近くで咳をするだけで感染力を持つ。ウイルスの感染力としてはかなり高い。

 コナロンウイルスにかかっても、プレイヤーの身に危険が及ばなければいい。致死率はせいぜい数パーセントなので、生き残る確率の方が圧倒的に高い。20代なので、死ぬようなことはないだろう。

 コナロンウイルスを隠して宿を利用しようかなと思っていると、警告文が発せられた。

「コナロンウイルスを発症した場合、宿の利用を三〇日間制限されます」

 2020年に流行したコロナウイルスよりも、強力な菌なのかなと思った。コロナウイルスならおおよそ2週間で療養を解除される。

 宿の利用を制限されると、食事をとれなくなる。非常用の肉なども補充不可となる。

 おなかペコペコ、盗賊を配置したのは、疫病コースのための布石だったのか。仮にコースをクリアできても、おなかを満たせなくすることで死の世界へと誘導する。敵を倒すことだけが、ゲームの醍醐味ではないと訓示しているかのようだ。

 クスリは左折しようとすると、新たな敵が出現した。

「コナロンウイルスにかかった人間が3体出現した」

 クスリの危惧していたことが起きてしまった。1ターンで逃げない限り、確実に菌を移されることになる。

 敵の容姿を見ると、年代の可愛い女の子だった。現実世界なら喜んでお相手したいタイプといえる。

 ゲーム内に誘惑要素を組み込むあたり、人間の思考をよくわかっていらっしゃる。敵との戦闘だけでなく、心の中にある理性との闘いにもなりそうだ。

 美女を倒してしまうのは惜しいけど、こちらとて死ぬわけにはいかない。かわいい女だからと
いって油断していては、現実世界の彼女と会えなくなる。

 退散しようとするも、「このゾーンの敵からは逃げられません」と表示された。製作者側は簡単に逃亡されないよう、プログラムをいじったのかな。用意周到にゲームを作っている。
気を取り直して、「こうげき」コマンドを選択。「しゅりけん」を使用しなければならない場面なのに、美女の顔を間近で見たいという本能を抑えられなかった。敵にもかかわらず、100点満点の容姿をしていた。

 女性に近づけば近づくほど、美しさはより強調されることとなった。倒すのではなく、現実世界でお相手したかった。こういう場所で対峙してしまったことを嘆いた。

「クスリの攻撃。コナロウイルスにかかった人間1は倒れた」

 仲間を攻撃されたことに激怒したのか、美女に変化が見られた。女は二面性を持つといわれているけど、まさにその通りといえた。

 人間2は懐に忍ばせておいたと思われる短剣を取り出した。人間3はより威力の高そうなバクダンらしきものを所持していた。

 妖怪の仮面をかぶった美人はこちらに近づいてきた。「消え失せろ」とつぶやいたのち、短剣を首筋めがけて鋭く振り下ろしてきた。

「クスリは45のダメージを受けた」

 致命傷を負わせたにもかかわらず、生存していることに度肝を抜かれていた。生身の人間から確実に一撃死だけど、クスリはRPGのキャラクター。剣を首筋に刺されたくらいでは死亡しない。

 人間3は爆弾を投げようとする前に、手元で爆発してしまった。時限装置付きの爆弾は、攻撃するまで持たなかったようだ。

「人間3の爆弾が爆発。人間2、人間3はあの世に旅立った」

 何ともお粗末な結論だ。あっけない幕切れに、クスリは拍子抜けしてしまった。コナロンウイルスの感染リスクを下げられたことを、ラッキーだと捉えるようにしよう。

 エリアを進んでいると、新しい敵と遭遇することとなった。

「強烈なインフルエンザ菌を持つ人間」が3体出現した。

 コロナウイルスよりも年間の死者が多いとされているインフルエンザか。こちらも感染するわけにはいかない。

 インフルエンザを発症しているためか、あからさまに足取りが重たそうだった。立つことすらままならず、寝そべっている人間もいた。

 敵は歩くことすらままならないのか、攻撃をしてこなかった。戦闘シーンにてひたすら咳を繰り返していた。

 容易に倒せるだろうけど、コナロンウイルスと同じく血しぶきなどで感染するリスクもある。クスリはコナロンウイルスにかかった人間と戦ったとき同様に、「しゅりけん」を投げつけた。

 急所を捉えると、インフルエンザ菌を持つ人間は絶命した。爺だったためか、何の感情も湧かなかった。美女のときはわずかばかりの同情心もあったけど、くたばりかけの老人は死んで当然だと思った。生産性のない高齢者のせいで、若者は苦労を強いられている。治療できない病気にかかって、次々とくたばってくれれば未来の若者のプラスになる。

 インフルエンザにかかった敵の攻撃速度は遅かった。クスリは簡単にかわすことに成功した。

 クスリは手裏剣をインフルエンザにかかった敵2に投げつける。こちらもあっけなくあの世に直行した。生身の人間だけあって、耐久力は極めて低かった。

「インフルエンザにかかった敵3」は、何もすることなく息絶えてしまった。生命力がつきたらしく、あの世に送り込まれた。

 コナロンウイルス、インフルエンザに敵からはおそらく菌をもらっていないと思われる。このまま進んでいけば、病原菌を体内に入れずに終わることができそうだ。

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