力の果実
「………………」
その日れいは、話し相手の魔木から貰った実を眺めながら、ふと思いついたことについて考えていた。
「………………これは余剰分の栄養や力を外部に保管するための知恵」
そう。魔木の実とは、余剰分の栄養や魔力を無駄にせず保管するための装置でもあるのだ。それが濃ければ濃いほどより美味となってくる。動物で言えば脂肪のようなものだろうか。
そして、現在れいは成長し過ぎている力を非常に持て余しており、それの対処法を考えていた。
「………………しかし、同じ物を造ろうとすれば栄養を何処からか持ってこなければならないので、同じ物ではなく参考程度にするとしまして」
れいが持て余しているのは力だけなので、魔木と同列には語れない。とはいえ、力だけを固めるだけでも十分意味があるだろう。それか独自の貯蔵装置を創造してもいい。
そこで方向性は見えてきたので、後はれいの大きすぎる力を貯蔵出来る装置が本当に創れるのかどうかだ。主に容量の問題だが。
「………………」
れいは考えると、とりあえず試作機でも創ってみるかと結論を出した。
そういうわけで、最初は力を貯蔵するというのがどういった感じなのかを知るために、小さな貯蔵装置を創造する。容量も見た目以上にあるようにしたので、この辺りも検証していきたいところ。
一瞬で創造したのは、高さ一メートルほどの円筒形の物体。直径は三十センチメートルほどなので、大きさだけで言えば、抱えれば持ち運び出来るだろう。
見た目はくすんだ銀色で、何処となく安物感がする。重量は十キロちょっとぐらいなのでそこそこ重い。
そんな円筒形の上にれいが手を載せると、一気に力が持っていかれた感覚がした。それでもれいにとっては微々たる量ではあったが、確かに力を移すことに成功した。次は容量と保存性について調べていかなければならない。
まずは容量だが、この辺りは想定通り。更に効率性を上昇させて容量を増やす案も出来ているので、そちらは問題なさそうだ。とはいえ、れいの力が大きすぎて、数を用意しても直ぐに一杯になりそうだが。そちらは装置を保管する場所の広さ次第だろう。
次に保存性。装置のみの時間を早めてみて、保存性はどうだろうかと検証していく。とりあえず目標は千年だ。そう思い時を進めたが、七百年を過ぎて八百年も目前といったところで、力が漏れてきた。量としては微々たるものであったが、それでも力が漏れた時点で失敗である。
まずは保存性の追求からとして、れいはそちらに集中していく。その結果として、一日掛けて一万年までなら力が漏れることなく保存が可能な容器が誕生した。時の経過による内容量の減少もかなり抑えられている。
そこまでいけば、次はその保存装置の保管場所を創っていく。世界の拡張は力を大いに消耗してくれるので、必要ならばどんどん活用していきたいところ。なので、れいは一気にハードゥスを拡張していく。新しく拡張した部分は全て保存装置の保管場所とする予定。
保存装置もかなり大きな物を用意し、創った場所に空の保存装置を創造しては並べていく。ズラリと並ぶその光景は、圧巻の一言であった。
そこまで終えたところで、大分力を消耗出来たので作業を止める。力がほぼ完全に回復したら再開の予定。
それから数時間程度で力が戻ってしまったので、並ぶ保存装置に力を移していく。れいはかなり成長していたようで、用意した保存装置の数パーセントが一回で満杯になってしまった。このままでは用意した保存装置は直ぐに満杯になってしまうだろう。
なので、次にれいが挑戦するのは、力の果実の創造。といっても食べるわけではない。こちらはほぼれいの趣味だ。
れいは自身の力を手のひらの上で圧縮していく。圧縮して圧縮して圧縮していく。これ以上不可能ではないかというほどに力を圧縮した後、外皮となる部分は更に力を使って完成させる。そうして完成させたのは、少なくともネメシスとエイビス以上でなければ近寄れないほどの力を秘めた果実。
見た目は立派な果実だ。そこから感じる圧倒的な力を除けば。
だが、それでもれいにとっては少し休憩した際に回復した程度の力でしかない。本当に困ったものである。
とりあえずそれを食べてみると、それだけで大量の力が体内を駆け巡っていく。味の方は美味しい水、もしくは美味しい空気といったところだろうか。味はあるし確かに美味しいのだが、物足りないというか食べたけど食べてないというか、味があるけど味気ないといった感じ。
「………………味付けでもしてみますか」
味付けというよりも、こちらは土台の形成だろうか。力のみだと、まるで調味料のみが用意されているような感じなのだ。やはりそれを使用する素材というのが必要なのだ。
魔木の実の場合は、力が栄養を熟成させて味に深みを与えてくれる。この辺りは力の質によって味の深さが変わってくるようで、古い魔木ほど味が深く、より美味な実に仕上がっている。
そういうわけで、それを参考にしているので、やはり力を昇華させる栄養もしくはそれに代わる土台が必要だろう。どうしようかとれいは思案した後、濃縮させた力が味に変換されていくような仕掛けを施していく。こうしておけば、圧倒的過ぎる力も時と共に和らいでいくだろう。そうすれば、もしかしたら力の再注入も可能かもしれない。
そんなことを考えつつ、魔木の実をはじめとした食べ物を解析して得た情報を基に、実が美味になるように計算してから、変換する味の方向性を決定していく。ついでに幾つかバリエーションを用意する。
そうして出来た果実の時を進めてみると、しっかりと美味しい実になっていた。ちなみに力の再注入も一度だけならある程度は可能なようだが、二度目は実が破裂した。
実が破裂すると、力が周囲に一気に拡散して大変なことになってしまう。周囲に何も無い場所で実験していたので被害はなかったのは幸いか。
実の熟成の為に時を進めるのにも結構な力を使うので、実を一つ一つ丁寧に作れば、当面の間は何とか凌げそうな気がしてくる。それに保存装置も加わるので、これで別の手段を考える猶予が生まれたことだろう。