第10話 こ、これは、鬱必須の闇堕ちエンドフラグ!
しかし薄汚れた天井が視界に映りこみ、まだ悪夢の続きだろうかと左右を窺い見る。
「こ、ここは……?」
ローゼマリアの寝床は、シルクのシーツにフカフカのクッションが並ぶ、豪華な天蓋つきベッドのはず。
それなのに、どうしたことか背中がとても痛い。
自分の意思で、両足と両腕を動かすことができず、もうなにがなんだかわからなかった。
(これは悪夢の続きなの……?)
婚約パーティで断罪され、やってもいない罪を背負わされて――
あまりの精神的ショックに、途中で意識を失ったような気がする。
(あのあと、どうなったのかしら……?)
なりゆきがわからないが、ローゼマリアにはわかっていることが確実にひとつだけあった。
鉄格子で遮られたカビ臭い石牢の中。
(まさかと思うけど……いえ、やはり、そのまさかだわ……)
ローゼマリアは、ようやく事態を悟ることができた。
この状況は、悪役令嬢ローゼマリアの断罪イベントの続きであると――
「救国の聖乙女と10人のフォーチュンナイト」には、家庭用ゲーム機の全年齢バージョンと、PC用の18禁バージョンがある。
(さっきは、18禁版と全年齢向けの通常版のどちらかわからなかったけど、これは……)
どこからかガチャガチャと金属音がして、ローゼマリアの身体がビクリと震えた。
「目が覚めたようだぜ。へへへ……」
「意識のない女を犯すのは面白くないからな」
おそるおそる下品な声がした方向へ首を捻る。
鉄格子の向こうに、顔中に脂の浮いた丸々と太った男と、ガリガリに痩せているガニ股の男が立っていた。
(モブ牢番兵!)
18禁バージョンでは悪役令嬢ローゼマリアのバッドエンドが鬱必須の凌辱まみれで、ある意味人気を博していた。
(こ、これは、18禁バージョン! 牢獄の中で大きな腹になっても凌辱され続ける、鬱必須の腹ボテ闇堕ちエンドフラグじゃないの!)
ローゼマリアの全身から、冷たい汗が一気に噴き出す。
(う、嘘よっ! あろうことか18禁バージョンの悪役令嬢に転生するなんてっ……! まずい、まずいわ! このままだと……)
モブ牢番兵が、いやらしい笑いを浮かべながら、鉄格子の扉をギギギ……と嫌な音を立てて入ってくる。
慌てて起き上がろうとするが、両手首を荒縄で結ばれているので身体がうまく動かない。
おそらく足首も同じような状態だろう。懸命に身体を動かすが、打ち上げられた魚みたいにバタバタともがくだけだ。
もうローゼマリアは、どうしていいのかわからない。
「こないで! 誰か、誰か!」
モブ牢番兵は涎を垂らさんばかりにニヤニヤし、顔を見合わせると「ニヒヒ……」と笑った。
「おれから先にヤらせてもらうぞ」
「へえ、オイラは兄貴のあとでいいっすよぉ」