第5話 どうやら元同級生アリスに陥れられているようです
アリスはローゼマリアにとって、単なる元同級生でしかない。
ミストリア王都学園は貴族のみが入学を許された、国立の教育機関である。
平民出身のアリスは、宰相が多額の寄付金を上納して強引に入学させたせいか、最初から煙たがられていた。
しかし彼女は、謎の人心掌握術を持っていた。
まず生徒の上層部、生徒会長のユージンを始め、男性の生徒会役員を次々籠絡していったのである。
それだけではない。王都学園の男という男は、みな彼女の取り巻きとなってしまう。
嫉妬に駆られた女性陣が、アリスに度重なる嫌がらせをしていたことを知っている。
彼女たちの怒りを抑えるため、ローゼマリアもなんどかアリスに忠告をした。
(まさかと思うけど、それを嫌がらせだと主張するの?)
「お待ちください。誤解ですわ、それは……」
「この期に及んで往生際が悪いぞ! あれほどアリスに嫌がらせをしておいて誤解だと?!」
どうやらユージンは、ひとの話に耳を傾ける気が一切ないようだ。
この光景を目にして、国王陛下が玉座で呆然としている。その横に座る王妃殿下も同じだ。
玉座の右側には、ローゼマリアの父と母、そしてミットフォード公爵家に与する名のある王侯貴族が、厳しい表情でユージンを見据えていた。
反対側には宰相および、ミットフォード公爵家に敵対する派閥が、ニヤニヤと笑っている。
ミットフォード公爵家当主であるローゼマリアの父ブレンダンが、ユージンに向かって低い声で問いかける。
「王太子殿下。我が娘を愚弄するという行為は、すなわち我がミットフォード公爵家を愚弄するということですぞ。それなりの覚悟があるのでしょうな?」
ミットフォード公爵家は、ミストリア王国内にて絶大な権力を持つ。
そのミットフォード公爵家令嬢であるローゼマリアを個人攻撃するなど、国家の分断を引き起こすことになりかねない。
そんなことはユージンだけでなく、彼の父である国王陛下にだって承知のはずだ。
ブレンダンが放った言葉に、ユージンが一瞬ビクリと身を震わせた。
ところが、アリスが小さな声でなにやら囁くと、とたんに自信を取り戻したかのように笑い出した。
「ははは……! それが濡れ衣ならばな。しかし私には証拠がある」
「証拠ですと?」
ブレンダンが片眉をピクピクと痙攣させ、ローゼマリアに視線を向けてきた。
まったく覚えがない以上、見事なまでに縦巻きロールの金髪を揺らして、頭を左右に振る。
ローゼマリアがアリスに対し、嫌がらせをした証拠など、あるはずがない。
それでもユージンは自信たっぷりに胸を張った。
「そうだ! 証拠をここに!」