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きっと学生や社会人女性は男女混じった飲み会や合コンなんて慣れたものだと思う。でも私は24歳にして初めて参加した合コンに非常に戸惑ってしまう。会社の飲み会ではそれなりに馴染めていても、合コンとなると男の人と何を話していいのかさっぱり分からない。
高校の部活の先輩である幹事の杏子さんに誘ってもらい、自分もそろそろ恋愛したいから参加しようなんて思ったことを後悔し始めていた。
今もすぐ隣に座って私に質問ばかりしてくる中田という男への対応に困っている。
「夏帆ちゃんは休みの日って何してんの?」
「えっと……映画とか海外ドラマを観るのが好きなので……」
「あ、俺も映画観るよー。アクションものとか」
私はアクション映画好きじゃないんだけどな……。
好きではないジャンルに言葉が出なくなる。馴れ馴れしい中田さんの態度にうまく対応できない。中田さんとは絶対に趣味が合わないだろうなと感じて余計に居心地が悪くなってしまった。
助けを求めて回りを見ると、頼みの杏子先輩は離れた席に座って話に夢中だ。
「映画は一人で観に行くの? 友達と?」
「友達と……あとは家でネット配信とか……」
「じゃあさ、今度俺と観に行こうよ。来月公開のアメコミのやつ」
アメコミか……嫌いじゃないけど映画館に観に行くほどでもないし……それに中田さんと観に行くのはちょっと遠慮したいかも。
せっかくこんな私を誘ってくれるのは嬉しいのだけれど、中田さんのような男性は苦手だった。
「中田さ、夏帆ちゃん困ってるから。あんまガツガツすんなよ」
助け船を出してくれたのはもう一人の幹事である杏子先輩の彼氏の和也さんだ。
「可愛い子がいるって言ったのはお前だろー。だからその可愛い子と楽しくお話ししてんだって」
こっちは全然楽しくないんですけど、って言えない私は本当にダメだな……。
杏子先輩たちは結婚することが決まっている。先輩はよく和也さんの愚痴を言うけれど、とても仲が良くて羨ましかった。私もあんな恋人同士になりたいと思うのに。その相手は中田さんではあり得ないから、もう席替えをしたくて堪らない。
そう思っていたとき「遅くなってすいません」と個室のドアを開けて男の人が入ってきた。
「あ、待ってたよ洋輔」
和也さんが歓迎した。
そういえば男性側は一人遅れてくるって言ってたっけ。
「洋輔くんはそこ座って」
杏子先輩の声に従って洋輔と呼ばれた人は私の向かいの席に座った。
「俺の大学の同期生で椎名」
和也さんが椎名さんを女性陣に紹介した。
「椎名洋輔です。遅れてすいません。仕事が遅くなっちゃって」
自己紹介して笑う椎名さんはかなりのイケメンだ。顔のパーツの一つ一つが綺麗に整っていた。
椎名さんは一通り参加メンバーの顔を見渡し、目の前に座る私の顔を見ると笑顔のまま固まった。その不審な動きに私も椎名さんの顔を見た。数秒目が合い続け、その綺麗な目を向けられることに耐えられなくなった。
「あの、何か?」
「どこかで会った?」
「え? えっと……」
「名前教えて」
「え?」
「君の名前、教えて」
笑顔から一転して真顔で私の名前を聞いてくる。まるで責められているようで焦ってしまう。
「あ、えっと……北川夏帆といいます……」
「北川……夏帆……」
椎名さんは変わらず私の顔を見たまま名前を呟いた。
「何? 洋輔くん、夏帆ちゃんがどうかした?」
杏子先輩も他の人も不思議そうな顔で椎名さんを見ている。
「あのさ、前に会ったよね?」
「え?」
「俺と君、前に会ってる」
「えっと……」
椎名さんの言葉に戸惑った。彼とは今が初対面のはずだし、こんなかっこいい人と会っていたら忘れることはないと思うのだけど。
「えっと……すみません、覚えてないです。どこでお会いしましたか?」
「覚えてないか……」
椎名さんは一瞬悲しい顔をした。
「なに、洋輔くんさ、夏帆ちゃんが気になる?」
中田さんは笑って椎名さんをからかうけど、目が笑っていなかった。
「………」
椎名さんは黙りこんでしまった。気まずい空気になってしまったが、中田さんは椎名さんから目を逸らして私に再び構いだした。
「夏帆ちゃんはOLさん? 土日休みかな?」
「そうです。事務職です……」
「会社どこにあるの?」
「古明橋です……」
「オフィス街だね」
「はい……」
中田さんの質問責めにうんざりする。
椎名さんは横に座る女の子と楽しそうに話している。横を向き女の子の顔をちゃんと正面から見ている。
横顔もかっこいいな。
そうして時折私と目が合う。そのうち中田さんよりも椎名さんの視線を向けられる方が辛くなってきた。
私、椎名さんとどこで会ったっけ? 和也さんの同期生ということは年上だから学生の時は被ってないし……。どこで会ったのか、もう一度椎名さんに聞いてみようかな。
「……ちゃん、夏帆ちゃん!」
「は、はい!」
中田さんに話しかけられても気付かなかった。
「大丈夫? 酔った?」
中田さんは首をかしげ、私の顔を覗きこんだ。
「いえ、大丈夫です……」
「そうだよね、もっと飲みな。これ全然飲んでないじゃん」
中田さんは私の前にあるグラスを指差す。最初に頼んだビールをなかなか飲めないままでいた。ドリンクメニューを持つと中田さんは私により近くくっついて座ってきた。
「この苺のカクテル美味しそうだね。頼んであげるよ」
「あ……りがとうございます……」
私はグラスを空けようとビールを少しずつ飲んだ。
ふと視線を感じて顔を上げると、また私を見る椎名さんと目が合った。更に居心地が悪くなって、新しくきたカクテルも一気に飲んだ。
お開きになり店の外に出ると火照った体に夜風が気持ちよかった。ふらついて頭がぼーっとする。
結局中田さんに何杯も飲まされてしまった。次々に飲み物を頼んでくれて、断るのも悪い気がしてしまったのだ。
「カラオケ行く人は俺についてきてー」
和也さんの後ろに何人かついて歩き出していた。私は体調が優れないし、明日は出勤日だからこれで帰るつもりだった。
「夏帆ちゃん二次会行く?」
お店の前で杏子先輩に声を掛けられる。
「すいません杏子先輩、私は帰ります」
「そっか。今日はありがとね。夏帆ちゃんは楽しめた?」
「はい、とっても楽しかったです」
楽しかったというのは嘘だけど、初めて合コンを経験できたのはよかった。先輩には感謝だ。
「じゃあまた式のときね」
「先輩のウエディングドレス楽しみにしてます!」
「ありがとう! じゃあね」
私は先輩と別れて駅まで歩き出した。