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緊張しながらもロイヤルファミリーに、自分が過去に撮影した写真を見せながら、その時の戦局やそこに暮らす人たちがどんな状況だったのかを説明していく。

誰もが真剣に真理の説明に耳を傾け、そして王太子妃のシャーロットは時折、眦に浮かぶ涙を拭っていた。

折々で国王や王太子が真理に的確な質問を挟んでくる。

それに答えながらも真理は、腰の落ち着かないそわそわした感情に振り回されていた。

なにしろ、第二王子が熱のこもった眼で自分を見つめているのだ。

質問も何もなく行儀悪く片肘をテーブルについて手を頬に当てながら、ただただ真理を見つめてくる。

【ハロルド】の写真のファンなのであろうが、こんなに見つめられると居心地が非常に悪くて、真理は努めて第二王子の方を見ずに国王陛下達と話しを続けた。


予定時間がそろそろ終わろうという時、国王は非常に満足げに口を開いた。

「ミス・ハロルド、今日は非常に有意義な時間に感謝する。我が国の国防を考えると軍は維持をし続けていかねばならぬというのが我の考えだ」

真理は真っ直ぐに国王陛下を見つめた。

ロイヤル・ドルトン王国の軍の最高司令官は国王陛下だ。
長い歴史と伝統と誇り、格式を持っている。

他国からは「国王陛下の軍」と呼ばれ、多国籍軍に加わらず、独立して各国と協力体制を取っているのが特徴だ。

「陛下、それはもちろん理解しております」

真理の言葉に深く国王は頷いた。

「だが21世紀の今、攻撃をし血を流す戦いが必要だとも我は思わない。対話で解決するべきだ。暴力で何も解決しないのは過去の歴史が物語っている」

国王は過去に思いをはせるような眼をした。

「貴方の写真は、戦禍の中で生きる民の命の尊さが強く伝わってくる。命が重いと分かっていても、大義のために我々が軽んじ犠牲にしてきたことだ。だから我は貴方の写真に誓おう。命令を出すときに、その先に血と涙を流す命があるということは必ず思い出すと」

朗々と静かな部屋に国王の言葉が響いた。

真理は不意に胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
一国の元首にこのように言ってもらえるとは思わなかったのだ。

「国王陛下、身に余るお言葉にございます」

真理の返事に満足したように、笑みを返され場が和んだ。

隣に座っていた王太子も続ける。

「本当に貴女の写真は苛烈な現実の中に慈悲深さがあると感じる。こんな日常があってはならない。
誰にも涙も血も流させない、このグレート・ドルトンだけでなく、平和な世界を作れるよう対話での外交を強化していきたいと思う。今日は本当に感謝する」

近い未来に国を背負って立つ王太子の真摯な言葉と隣に立つ妃の笑顔が心に染みる。
その言葉にも真理は感謝の言葉を述べた。

終了時刻がきたのだろう、補佐官が口を挟んだ。

「ミス・ハロルド。本日は誠にありがとうございます。時間になりましたので勉強会はこれで終了させていただきます」

「はい」

重責から解放されると思い、立ち上がりながらこっそり安心した瞬間、次に補佐官が言った言葉に真理はギョッとした。

「ではこの後は感謝の気持ちといたしまして、本日の勉強会を主催致しましたクリスティアン殿下より、王宮内をご案内させていただきます。庭園にお茶のご用意もしましたので、どうぞお寛ぎください」

「えっ!!そんな!!恐れ多い!!」

聞いていない、そんな予定は言われてなかった!

動転して、今まで何1つ喋らなかった第二王子に視線をやると、大真面目な顔をした王子がそこにはいて。

真理の断りかけた言葉にかぶせるように国王が父親の顔を覗かせて言った。

「クリスは我が家のやんちゃ坊主だ。軍人だがまだまだひよっこでな。どうぞ貴女から戦争の厳しさを教えてやってほしい」

そんな前線に出てる王子に教えることなんて、、、と青くなった真理の顔を面白そうに眺めていた王子は「では、行きましょうか」と手を差し伸べた。

エスコートだ・・・差し出された手を呆然と眺める。
王子の手を取るなんて・・・どうしよう。

でも恥はかかせられないし・・・。

すっと息の飲み込んで、えぇい、ままよ、と真理は第二王子の手に自らの手を重ねたのだった。

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