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戦争前夜

 ハードゥスには意図的に創られた人の大陸がある。そこにはとにかく人が集められ、大陸中に分散させられた。
 その大陸には森や山など自然が豊かで資源も豊富。地下迷宮もほどほどに多く、大陸中に広く分布している。それでいながら、地上にはあまり危険な魔物は生息していなかった。
 つまりその大陸は人の楽園。人が住みやすいように、繁栄しやすいようにとデザインされた大陸で、別の大陸には魔物の楽園も存在している。
 そんな人の楽園だからこそ、時間の経過と共に何処よりも早い発展を成し遂げた。今では大陸中に複数の国家が乱立し、大陸中で人口が爆発的に増えて、国と国との交流も盛んに行われている。争いも水面下で激化しており、武力衝突まで秒読みという場所も何ヵ所かあるほど。
 それでも戦争まで発展しないのは、管理者や管理補佐という監視者の存在が影響している。実際は管理こそすれ干渉はあまりしてこないし、戦争を起こしても何も言われないのだが、それでもその圧倒的な力を目の当たりにすれば、矮小な人はどうしても尻込みするようだった。
 そんな中で管理補佐であるネメシスと偶々話す機会に恵まれたとある街の代表である男は、戦争の可否について質問した。その結果は好きにしろというもので、代表の男はその日から準備に取り掛かる。
 その男が代表を務めている街は、街だと公言しているが、周辺からは国として認識されているほどに発展していた。その為に周辺国とは色々と衝突が多く、表面上は街としていることから、国としての圧力で無理難題を押しつけられることも珍しくはなかった。
 しかし、代表の男は豪胆ながらも怜悧な男で、周辺国からの無理難題も不可能なら堂々と、それでいながら隙を見せないように巧みに突っぱねてみせ、街を更に発展させてみせる。
 それでも一色触発まで緊張が高まっている外交案件もあり、そろそろ武力衝突に発展してもおかしくないという段階まで来ていたのだ。そこにきてのネメシスとの対談が叶い、欲しかった返事も貰えた男は、今後のことを頭の中で組み上げていく。
 一色触発といっても、現在はどの国も戦争というカードを切る勇気がなかった。それもそのはずで、もしも管理者側の誰かの逆鱗にでも触れようものならば、国などあっさりと滅んでしまうのだから。
 その免状とも言える言葉を、代表の男は何処よりも早く手に入れたのだから、この機を逃す手はないというもの。
 現在大陸では、戦争に関する取り決めがまだ固まっていない。戦争が実際に起きていないというのもあるが、様々な世界からやってきた者達の常識と国家としての思惑などが絡み、決めるのに時間が掛かっているのだ。
 それを早急に取りまとめようとする組織もあるのだが、現状は上手くいっていない。それでいながら、各国ともに警戒はしても実際に戦争が起こるとは何処か思っていないようで、意外と隙が多い。
 つまりこれは、最初で最後の絶好の機会と言えた。
 無論、危険もある。このまま何処かの国を奇襲して仮に成功したとしても、それがきっかけで周辺国が結託するという可能性だってある。なので絶対条件として、勝利は当然としても、自分達の損害が軽微でなければならない。相手の力が残っている内はそう易々と手は出せないものだ。男が代表を務めている街は、軍事力も結構高いことでも有名であった。
 その辺りも考え、しっかりと準備を行わなくてはならない。それでいながら他国に気取られてはいけないのだから慎重にもなる。
 そして、とうとう準備が整った。時間を掛けて慎重に行ったおかげで、まだ何処にもバレてはいない。移動も慎重に行ったので、男とその軍勢は見つかることなく、敵国の首都近くに展開を終えていた。
 軍勢が移動の疲れを取るための休憩を終えたのは、そろそろ夜になろうかという時間。男は最初から首都へは夜襲を仕掛けるつもりだったので、もう少しでハードゥス初の戦争の戦端が開かれることになるだろう。

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