第百七話 弱点(Part2)
「集中力?」
「そう、集中力」
茜音は予想だにしなかった答えが返ってきて、思わずオーム返しをしてしまうが、シンからはやはり同じ答えが返ってきた。その答えに茜音は再び頭を悩ませる。
(あれ? この終焔モードって確か、とんでもない集中力で相手の攻撃を全て見切るみたいな能力よね? つまり、集中力が焔の一番の武器……あれ?)
「なるほどね」
「え!?(ハク教官はもうわかったんだ!)」
「……やっぱり」
「え!?」
ハクだけではなく、ソラまでもがシンの言葉の意図に気づいたかのように呟く。しかも、前から考えていたかのような呟きに茜音は驚きで口が塞がらないでいた。
(ま、まさか! ソラちゃんまでもが……少なくともソラちゃんには頭では勝っていると思ってたのに…)
残念そうな表情を浮かべつつも、ソラが一体どんな結論に至ったのか気になった茜音は、早速ソラに焔の弱点について尋ねる。
「ソラちゃん、さっきのシン教官の言葉の意味わかったの?」
「うん」
「へえ(やっぱりそうなんだ……)。あれってどういう意味なの?」
すると、ソラはジェスチャーを交えながら説明する。
「焔の強みが集中力」
ソラは左の掌を上に向ける。
「うんうん」
「そして、焔の弱点も集中力」
次は右の掌を上に向ける。
「うんうん……!」
「つまり」
そして、ソラは強く両手を胸の前で合わせる。それは強みと弱点を組合せるという趣旨のジェスチャーだと、茜音は捉えた。
「つまり!?」
「……」
「……!」
ために溜めまくった後、ソラはドヤ顔でこう言った。
「焔は最強」
(あれこの子こんなバカだったの? もしかしてジョーク……)
そう思った茜音だったが、本人はふざけている様子はなく、ドヤッという効果音がふさわしいぐらいのドヤ顔で、自身の解釈に納得しているようだった。
茜音は一瞬、まだソラも自分と同じようにシンの言葉の意図がわかっていないのだと安心するも、すぐにソラは自分と同じ班なのだと気づき、不安が追いかけてきた。
茜音はこのことは一旦なかったことにしようと何回か首を振り、今度はハクに同じようなことを聞いてみる。
「ハク教官はシン教官の言葉の意味がわかったんですか?」
「んー……詳しいことは分からないけど、つまるところ集中力がとんでもなく高いってところがネックなんじゃないかな」
そう言い、ハクは隣にいるシンの反応を探る。
「流石ハク。正解だよ」
そして、シンは焔の弱点について詳しく話し始めた。
「茜音ちゃんってさ、例えば……授業中とかにボーっとしてて、先生の言ってたことが頭に入ってこなかったり、何度か名前を呼ばれてやっと反応したりとか……そんな経験ない?」
「あー、流石に名前呼ばれてやっとって言うのはそこまでないですけど、ボーっとするのはしょっちゅうでした」
「あれって本来は授業に集中してないっていう捉え方で誰もが見てるわけなんだけど、別の捉え方をすると、授業に集中していないんじゃなくて他のことに集中しているって見方も俺はできると思うんだよね」
「……確かに、ボーっとしてる時は大抵他のこと考えてた気が……」
「それが焔の弱点だ」
「えーっと……つまり、焔の弱点って言うのは高すぎる集中力のあまり、周りが見えない……と」
「うん。そんな感じ」
(えー! めちゃくちゃ回りくどい言い方しといて、答えがめちゃくちゃシンプルッ!? こんなに長々と説明されたからなんかすごく致命的な弱点でもあるかと思ったのに……)
長々とした例え話をしたと思いきや、答えはすごくシンプルなものだったため、消化不良とばかりにモヤモヤした気持ちが、茜音の頭の中に居座り続けた。だが、そこでハクが一つだけ質問をする。その答えが分かった瞬間、茜音の頭からはこのような気持ちは一瞬で吹き飛んだ。
「シン、一ついいかい?」
「どうぞどうぞ」
「……焔の集中力のレベルはどの程度なのかな?」
何やら確信をもってハクはこの質問をシンに投げかける。ハクの含みのある笑みに、シンも同じように笑い返すと、
「みんなー! 少しだけ大きな声出すけど、気にせずに戦闘続けてねー!」
少し離れたところで戦っている四人に向かって、シンは声を送る。当然、四人はまったく返事をしなかったが、シンの言葉はしっかりと届いていた。
ただ一人を除いて。
そして、シンは大きく息を吸い込んだ。
「青蓮寺焔ー!!」
大声というよりも、怒鳴り声に近いような、そんな大きな声を出し焔の名前を叫ぶシン。それは事前に大きな声を出すと言われていても、少しビクついてしまうほどの大声だった。
だが、たった一人だけはそんなシンの大声を気にするそぶりもなく、正確にはまったくなかったかのように戦闘を続ける。それが名前を呼ばれた張本人、青蓮寺焔だった。