ハードゥス名物?
ハードゥスは無数の世界から漂着物が届くので、出自や身分、文化に常識に種族。その他にも色々な価値観で溢れている。特に人はそれを気にするようで、町などではそれに絡んだ諍いが絶えない。
無論、全てが大きな諍いになるわけではないし、ハードゥスに住む者はそういう違いがあるのを念頭に暮らしているので、まずは互いに価値観を確認するという過程を踏むことも多い。そのうえで赦せない場合は口喧嘩ぐらいはあるが、殴り合いはそこまで多くはなく、それ以上となるとたまに話に聞く程度だろう。
しかし、流れ着いて日の浅い者はそうはいかない。特に元々の地位が高い者ほど面倒を引き起こす。ハードゥスでは元の世界の地位など何の役にも立たないというのに。
そして、ある程度文明が発展するまでは、漂着者を案内する各町村には管理補佐が管理者として駐在している。なので、大きなもめ事に発展すると管理補佐が仲裁として間に入り、それでも収まらない場合は管理補佐が直接裁く。
管理補佐が直接裁く事態は滅多に起きないが、それでも起きた場合、管理補佐の裁定は絶対である。それに異論を挿めるのは、同格の管理補佐のみ。れいだと口を挿むとそれは決定になるので、そもそも議論が起きない。
裁かれた側がどれだけ喚こうと、それは無意味なことだ。いや、最悪刑が重くなる。
今回とある町で偉そうに喚きながら牢屋に入れられたのは、どこぞの世界の高位貴族らしい。
その貴族は、たまたま貴族と護衛数人が一緒に来てしまい、傲慢な態度のままエイビスから説明を受けた。美貌の人であるエイビスに、終始自分の女になれだのなんだのと囀ってはいたが、全く相手にしないで説明を続けるエイビスに、無礼だなんだと怒鳴りはしても手を出すまではしなかったので、そのまま町に案内された。
そんな相手である。案内されて直ぐに住民との間に諍いを起こした。それに、もっと自分に相応しい場所を用意しろだのなんだのと案内したエイビスにも噛みつく。
エイビスは欠片も相手にしないが、住民の方はそうはいかなかったようで、最初こそこの世界では元の世界の地位など役には立たないということを諭すように説明していたのだが、愚か者とその愚かな護衛は聞く耳を持たず、ついには得物を抜いて脅しに掛かってしまった。
ハードゥスは苛酷な世界である。町があるといっても、すぐそこに森が広がり、そこには強力な魔物が住み着いている。更に近くには地下迷宮が在り、元々何も無いところから町を築き上げているので文明があまり発達しておらず、基本的に自給自足だ。
そんな逞しい住民達が、たかが得物を抜かれたぐらいで怯えるはずも無く、むしろ殺気立って、抜かないまでもいつでも戦えるように自身の得物に手を掛けているほど。
そこにその町担当の管理補佐がやって来る。管理補佐は傍観を決め込んでいたエイビスに状況の説明を受け、仲裁に入る。
住民側はそれで一応引きはしたが、何も知らない新人達がそれで引くわけも無く、そのまま矛先が管理補佐に向いただけであった。
結果として、新人は全員牢屋送り。住民側は殺気だっても得物を抜かなかったので不問となった。
ただ、そこから元貴族と護衛が喚くので、管理補佐はまず全員を動けないようにするために手足をバキバキに折り、そのうえで動かないように縛って、望み通りに相応しい場所である牢屋まで引きずっていく。
それを見送った後、エイビスは案内する相手が居なくなったのでやることが無くなり、町を出て去っていく。住民達も何事も無かったようにそれぞれの仕事へと散っていった。
それだけハードゥスではこういった諍いは珍しくない話で、それこそ日常の一コマとでも言っていいレベル。世界の違いでの諍いがほぼ無くなった場所は、ハードゥスでは唯一の国ぐらいであろう。
漂着物を受け入れる限り、今後もこういった諍いは無くならないだろうが、そういった諍いが起きるのもまた、ハードゥスならではと言えるだろう。