72時間タイムアウト
「高梨さん、3日間捜査に付き合ってくれてありがとう。もしあの時高梨さんが居なかったらどうなっていたかと思うと、本当にもう・・・」
首だけになった明日菜、吉澤が話しかけてきた。
ふと思い出して俺は鞄の中から買ったアスナの人形を取り出しパッケージを開けた。白い女剣士の人情の頭を外し明日菜と組み替える。背の高さは1/3ほどと小さくなった。
「せっかく買ったの貰っちゃっていいのか?」
「消えてしまうまでの残り時間、少なくても体あったほうがいいでしょうから・・」
「じゃあ、遠慮なく貰っておくな。感謝する。この小さい体も意外と悪くない。」そういうとラジオ体操みたいな屈伸を始めた。
吉澤警部補殺害事件、私の殺人未遂事件はこのまま捜査一課が引き継ぐも、容疑者一部死亡、私の案件は容疑者死亡で送検されるらしく林一家惨殺事件は公安の担当になるようだ。
つまり、私が協力できることはここまでで、後はひょっとしたら、多分必ず呼び出されるらしい。
今後の話を杉田係長から説明受けた。
私は物証の明日菜人形について頭を入れ替えた状態で証拠管理してもらえないか頼んだ。そうしないとその後吉澤さんは証拠品保管室送りにされてしまう。
「高梨さん、コーヒーでも、いやもう昼だからご飯でもご一緒しませんか?」と杉田係長。
時計を見ると一時を少し回っていた。
そろそろ72時間だな。
彼が昇天する時までは一緒にいるつもりだったので快諾した。庁内は地下の大食堂が有名だけど、上階に『カフェレストランほっと』がある。
講堂と武道場が隣接するフロアだ。
やたらと盛りのいいメニューを食べ食後のコーヒーをすすりながら穏やかに「運命の時」を待つ。
「三日間仕事休ませちゃったけど高梨さん大丈夫?」
ああ、仕事・・・そうだ仕事。
日曜半日返上して仕上げたのも水の泡かな。
「もしクビになっちゃたらうちの試験受けなよ。能力者だからいつでも引き抜くよ」と杉田係長が笑いながらいうも眼光は鋭かった。本音かもしれない。
「ところでなんであの時あの場所に居たんですか?」
「ああ、遊園のあそこね。明日菜の残留思念にバラ園の景色があって、バラ園探してて峯岸に教わったのがあそこだったんだ。ところが期間内以外は閉まっててどこか入れるとこあるか周りうろついてたんだ。」
「・・・今思えば教えてくれたのが峯岸だったから俺を処分できる所って考えてたのかもな。」
物証かもしれない明日菜を狙いたいけど吉澤がサイコメトリングするのに持ち歩いてしまっていて狙えない、そこであの場所に誘導して徐に襲わせる・・そんな可能性を示唆した。
☆
「で、なんか感覚的に変化ってあるんですか?」
俺は体から魂が抜けて霊界に旅立つ話を映画やアニメで見たことがあるけどもちろん実体験ではない。
ましてや肉体以外から成仏するなんて初めて聞くし。
フランダースの犬の最終話、ネロとパトラッシュが天使達に導かれ天に召されるシーンくらいだ。
「何が?」
「いや、もうそろそろお迎えが来ちゃう時間ですよね?」
「誰の?」
「吉澤さんに決まってるでしょ!72時間、間も無くでしょ??」
「俺?、逝かねえよ?」
「はいっ???」
「俺、残留思念じゃなくて憑依だもん」
「じゃあずっと明日菜の中に居るんですか?」
「賞恤金(しょうじゅつきん)出るしなぁ、しばらく家でゆっくりするよ。本当はうちの娘大きくなるくらい、出来たら嫁行く時くらいまで居たいけど居れても49日くらいだろうからなぁ」
「じゃあ、家族旅行なんていいですね。」
パトラッシュは延期らしい。
不謹慎ながらあの時どうせ72時間しか無いからって言っていたのは何だったんだと思う。