42話〜書物に書かれし物
ここはルポアール亭の応接室。ルミネアはマグドの治療を終えると、ガルドの側に来た。
そしてルミネアは、ガルドの身体の至る所にある傷を見るなり、
「ガルド様。こんなにも酷い傷を負っていると言うのに、なぜ動くことが出来るのですか?」
「ん?何でと言われてもなぁ。俺にもそれは分からねぇんだが」
「なるほど、分からないのですね。では、話題を変える事にします。……そうそう、もしよければガルド様について、色々とお話を聞かせて頂けないでしょうか」
「それは構わねぇが。そうだなぁ……」
ガルドはそう言い、昔の事を思い出しながら話した。
両親が幼き頃に亡くなり、その日を境に、1人で何でもやらないといけなくなった。
そして、その頃は村長の家の者達が色々とやってくれたが、それ以外は誰も頼れなくなった。
だから、出来るだけ人には迷惑をかけず、自分で出来る事はやり、我慢できる事は我慢してきた事を話し、その後もルミネア達に、自分の生い立ちについて語った。
「そうだったのですね。そんな過去が……。そして、そんな思いをして来たのですね」
「ガルド。そんな事があったから、あんな酷い屋敷に住んでいたのですね」
「ユ、ユリィナ。あーあのなぁ。まぁいいか。確かに、他の者達から見れば、そうなんだろうな。でも、俺にとってはあの家は……」
ガルド達が色々と話していると、ゴルギアスが戻って来た。
そしてゴルギアスは、ガルド達の前まで来ると話し始めた。
「ガルド様は、俺が出した難題を軽々とクリアして戻って来ました」
ゴルギアスは少し間をおき、
「いや、それだけじゃない。あのクロステル様から、マグド王子を救った。経緯は分からないが、これだけの事が出来る者はそうはいない」
そしてゴルギアスはガルドを見ると、
「本当は、もう一つテストしてからと思っていましたが。必要はないようなので、ガルド様にあれを渡しても問題ないでしょう。ただそれは、現在ここにはないのです」
「ないって、どういう事なんだ?」
「はい実は、私どもの手元には、その物のありかを記した書物がごさいます。それをガルド様に渡したいと思っております」
ゴルギアスはルミネアに、その書物をガルドに渡すように言った。
そう言われルミネアは、表紙に剣が地に突き刺さっているように描かれている濃い緑色の、古びた書物をガルドに渡した。
「ガルド様。その書物には、聖剣のありかが記されています」
「ちょ、ちょっと待て!聖剣って……」
「聖剣て噂では選ばれし者にしか、手にする事が出来ないはずでは?」
「ユリィナ。確かにそうだったはず。だけどガルドの実力なら、手にする事が出来るんじゃないかな」
「マリアンヌ。何故そう思うの?」
ユリィナが不思議に思いマリアンヌに聞くと、
「それは、えーっと何でだろね。ただ、なんとなくそんな気がしたからかなぁ」
「マリアンヌ?何か隠しているように見えるけど。まぁ別にいいか」
「その書物に書かれている事は、事実なのか?そうなら聖剣が実在したという事になる。うむ、見てみたいが、俺の素性はバレてしまった。これでは……」
「マグド。みたいなら見ればいいと思うんだけど?」
「ビスカ、簡単に言うが。俺が王子である事がバレた。って事は、時期に城の者が迎えに来るかも知れない。そうなればガルド達と、旅に出ることなどできん」
「マグド王子。それならば、大丈夫だと思いますが」
「ルミネアさん。それはどういう事なんだ?」
「それは、簡単な事です。城の者に知らせなければいいだけの事ですから」
「確かにルミネアさん達が、俺のことを言わなければいいだけの事。だが、クロステルは……」
「クロステル様なら大丈夫でしょう。これだけの事をしたのだから。かなりの脅しを掛けておけば、この事について何も言えないと思いますが」
「ゴルギアス。なるほど、そういう事か」
マグドとゴルギアスが話をしている間、ルミネアから渡された書物を、ガルドは食い入るように見ていた。
「……なるほど聖剣か。この書物には確かにありかが記載されている。だが、気になる事がある」
「気になる事とは?」
ゴルギアスがそう聞くとガルドは、
「何でルミネアさん達が、この書物を持っているのか?そして、どうして聖剣の事を知っているのか?」
「ガルド様、なるほど。しかしながらその発言、何者かに言わされているように思えるのですが、違いますか?」
「そ、それは……」
ガルドはルミネアに言われ慌てた。
そう書物を見ている時、そこにグランワルズが話し掛けてきて、その書物の事について、ガルドに説明していた。
そして、ガルドはグランワルズに言われ、ルミネアに聞いていたのだった。
「言うしかねぇようだな。…………今、確認を取ってみた。大丈夫みてぇだから言うが。その聖剣の事について聞いて欲しいと、俺が契約した神グランワルズに言われた」
「なるほど。そうなると、隠し通せる事ではないようですね。ゴルギアス、どうしましょうか?」
「ルミネア、そうだな。あまりこの話はしたくはなかった。だが言わないとならないだろうな」
そしてゴルギアスとルミネアは、聖剣の事について話し出した。