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魔木の提案

 観光を終えたれいは北の森に居た。そこで話相手の魔木に観光した時の話を語っていく。
 北の森に住まう魔木の数は、最初の町に住民が住み始めた頃から倍ほどにまで増えたが、それでもまだ希少な存在だ。あれから喋られるまでに成長した魔木も生まれたが、それでもまだ三本のみで、希少な魔木の中でも更に希少な存在であった。
 その中でれいの話相手に選ばれているのは、変わらず最初の喋られる魔木のみ。れいは他の二本ともたまに会話をするも、そちらは軽く言葉を交わすだけ。
 れいは観光の話を魔木にしていると、ふと昔の事を思い出した。
 昔、管理者の間でお忍びで自分が創った世界を見て回るというのが流行ったことがあった。今でもそれは続いてはいるが、あれからも色々な流行り廃りがあったので、様々な遊びが蔓延した影響で、お忍びで観て回るという遊びも大分落ちついている。それでも定番の遊びの一つにはなっているが。
 それにあまり興味がなかったれいではあったが、こうして実際に観て回ってみた結果、なるほどと納得した。確かに発展具合を観るのは面白かったし、そこにある営みも興味深いものであった。なので、これはいい暇つぶしになるなと判断する。それに力を抑えての行動なので、世界を観て回るだけでもそれなりの時間が必要だろう。
 そういったことをじっくりと語ったれいに、魔木はしみじみと「それは良かったですね」と口にした。その後に「それでしたら、れい様をそれだけ楽しませた者達に何か褒美を与えてみてはどうでしょうか」と続けた。
「………………褒美、ですか。それも悪くないですね」
 魔木の案に、れいは頷き考える。
「………………とはいえ、あの国の国民全員にとなると少々過剰すぎますから、代表にだけでいいでしょう。丁度加護を与えようかどうか考えていたところです。考えていた方向性とは違いますが、たまにはいいでしょう」
 他にも何かないだろうかと思案したれいは、ついでに地下迷宮攻略を頑張っている褒美も一緒に渡そうと考えた。そうすることで、これからも積極的に地下迷宮を攻略してくれることだろう。
「………………国教の主神という立場も存外役立つのかもしれませんね」
 宗教など興味の無かった話ではあったが、少し近くで様子をみようと思えば、意外と役立ちそうな立場なのだなと思う。元々在っても無くても問題なかっただけに、少し拾い物な感じさえした。
 これからの予定を考えたれいは、必要な物を揃えることにする。
 助言に感謝して魔木と別れると、れいは別の魔木のところへと向かう。
「………………魔木の実は結構評判でしたからね」
 必要かどうかはともかく、念のためにお土産も用意しておこうと思ったれいは、それなりに若い魔木が生えている場所を目指していく。あまりにも熟成した実をもっていくと、耐性が無い分、あまりにも美味しすぎて中毒になりかねない。
 例えば先程までれいが話をしていた魔木だが、あの魔木が付けるほどの実ともなると、ネメシアやエイビスでも覚悟しておかなければ危ないかもしれないというレベル。もっとも、仮に二人が中毒になっても、軽い症状で一時的なものだろうが。
 そこまで考え、ちょっと強化し過ぎただろうかと、れいは非常に今更なことを思った。話し相手なうえに毎回美味しい実もくれるので、礼がてらにたまに強化してあげたりしていたのだが、れいには珍しく少し悪乗りしたのかもしれない。
 もっとも、幾度も強化したといっても実の美味しさを上げることに重点を置いていたので、戦闘力に関してはラオーネ達にさえ及ばないほど。
 だがその結果として、話し相手の魔木が付ける実はれい専用と言えるまでになってしまった。
 れいは目的の魔木の場所に到着すると、そこそこ多めに採取しておく。どうせ直ぐに新しい実を付けるので、仮に全部収穫しても問題ない。この地は栄養豊富なだけではなく、天敵となる存在が居ないのだから。
 実を収穫したれいは、何処からともなく取り出した手提げ籠にそれを一杯に入れて、また何処かに収納する。
「………………ああ、そうだ。何か装備品でも用意しておきましょうか」
 今後とも地下迷宮の攻略が捗るようにと思い、れいは必要そうな装備を幾つか用意する。れいが創造すると加減が難しいので、手元にある漂着した装備品の中から、現在の彼の国で出回っている装備品よりもやや性能が高い物だけを選んでいく。
 魔木の実に装備品数点。これに加護を加えるのだから、国を発展させて楽しませてくれた礼と、地下迷宮を順調に攻略している礼にはなるだろう。そう判断したれいだが、実際は少々過剰である。加護だけでも十分なほどなのだから。
 ただ、礼をする側の受けた物の価値はそれぞれなので、客観的には過剰だろうと、れいにとっては問題ないのだろう。後は与える加護の加減だが、これについては魔木の強化で学んだので問題ない。
 そうして準備が整った時には既に夜になっていたので、れいは朝になるまで待つことにした。

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