第七十四話 攻略??
そして、扉には、何やら文字が書かれている。
「はぁ????なんで?」
扉には、”なぞなぞ”が、”日本語”で書かれていた。
『樽を3つ持っている人の履物はなに?』
本当に、”なぞなぞ”だ。それも、日本語で書かれている。
ダンジョンに日本語が書かれているのもわからないけど、”なぞなぞ”が書かれているのも意味がわからない。
答えの入力は、下の入力パッドにするようだ。
答えは、”さんだる”だと思うけど、”ひらがな”なのか、”カタカナ”なのか、一回だけなのか、複数回なのか、それもわからない。
駄目なら駄目でその時に考えればいいか・・・。
入力パッドに、”さんだる”と”ひらがな”で入力した。
”正解”
そんな文字が、表示される。
”次の問題”
に続いて、合計で5問の”なぞなぞ”に答えた。
徐々に難しくなっていくが、”日本語”を知っていれば、答えられる。
”全問正解”
終わったようだ。
扉のロックが外れる音がする。ノブは無い。
ドアを押してみるが、動きそうもない。
もしかして・・・。引き戸か?
よこにずらすようにする。ドアがスライドする。この世界で初めて引き戸をみた気がする。
そもそも、”日本語”が読めなければ、先には進めない。
引き戸を開けると、奥に続く一本道がある。
通路の左右に扉があるが、押しても引いても横に動かしても開かない。鍵穴もないから、開けるにはトリガーが必要なのだろう。通路を、まっすぐに進む。
魔物の気配はしないし、俺が歩く音しか聞こえない。
どのくらい歩いたのだろう?
後ろを振り向けば、同じ様なドアが並んでいる通路が続いている。
前方にも同じようになっているように思える。攻撃を受けた感じはしない。
ドアに印を付けて歩いてみるが、同じ場所を繰り返しているわけではなさそうだ。同じ時間をかけて戻るのは、何かが違う。このまま、歩いてみる。魔物の気配はしないから、大丈夫なのだろう。
それから、身体強化の魔法や様々な魔法を試しながら歩く。
引き返そうと考えてから、1時間程度歩いたと思う。急に扉が表れた。どうやら終着点らしい。
扉には、ノブが着いている。
古い雑居ビルの事務所とかに使っているような、鉄のドアのようにも見える。
ノブに手をかけるが、怪しい感じはしない。
力を込める。鍵は掛けられていないようだ。
ドアの形状を確認する。押すと開くようだ。
すぐに逃げられる体制になって、ドアを押す。
光が目に入る。懐かしい光だ。
光に目がなれてくると、周りの風景が解ってくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ???????」
/* ---
アルノルトが最下層を目指して進んでいる。
その頃、ウーレンフートでは・・・
--- */
「アルは、まだ来ないのか?」
「ユリウス様。領都に戻らないと、クヌート先生やイーヴァさんたちが困っています」
「・・・」
「ユリウス様。アルノルト様は、ダンジョンを攻略されてます。簡単に帰ってくるとは思えません」
「クリス!」
「領都で、私たちだけができることを・・・。アルノルト様のためです」
「・・・。わかった。クリス。アルのついていく者の選定を頼む」
「終わっております」
「そうか・・・」
クリスは、ユリウスがダンジョンの転移場所を見に行っている最中に、アルバンを呼び出して、アルノルトについていくように指示を出す。本人もそのつもりだったので、問題はなかった。もうひとりの人選もそれほど難しくはなかった。
情報部に所属している、猫族のカルラをアルノルトにつける。アルバンと同い年で丁度いいだろうと判断されたのだ。
ギルベルトは、ウーレンフートに戻ってくると、グスタフに連絡をして、素材の買い取りを依頼した。
全てを、マナベ商会に入金した。アルノルトとの望みとは違うが、ホームの運営を、ダーリオとヘルマンとセバスたちに任せて、自分は金庫番をやると宣言した。上層部や古参の者たちも賛同したので、運営にはなんの問題も発生しなかった。
ウーレンフートに、ギルベルトの商会を移動させて、マナベ商会と敵対するようにした。ホームや商会の上層部は二つの商会とホームに繋がりを認めているが、街や下の者たちには知らせていない。そのために、競争が実際に行われているように見えている。
「ユリウス。クリス。ウーレンフートは任せてくれ、それから、アルバンとカルラの身分は、俺の方で作っておく」
「お願いします。ギルベルト様。私たちが、領都に戻りましたら、ディアナをこちらに向かわせます」
「わかった。俺も準備をしておく」
「ギル。アルの安否がわかったら、連絡をくれ」
「あぁ領都に連絡を入れる」
「頼む」
「ユリウス。クリス。明日の朝に出るのか?」
「いや・・・」
「・・・。ギルベルト様。ユリウス様は、すぐに出るおつもりのようです」
「そうか・・・。護衛を出す。結局、誰も襲いに来なかったから、まだどこかに潜んでいるかもしれないからな」
「はい。お願いします」「いら」「駄目だ!ユリウスは、自分の身分を考えろ!あれだけ、偉そうにアルに言ったのだぞ!お前が生き残らないでどうする!」
「・・・。悪かった」
「それに、クリスの安全は、ユリウスが守るべきことじゃないのか?」
「そうだ」
話し合いの結果、アンチェ/ヤンチェ/ハンフダ/ハンネスが護衛で、領都まで移動することになった。支払いは、領都の予算から捻出する。
「それにしても・・・」
「そうだな」
ユリウスとギルベルトは、ダンジョンに潜っているアルノルトを思い浮かべる。
戦いでは、頭一つ、飛び抜けていると思っていたが、実際に戦っているところを見ると、頭一つではない。
ギルベルトは、自分は商人だからと言い訳をしていたが、アルノルトの戦い方は、そんな言い訳が恥ずかしいと思えてしまうほどだ。勝てないとは思っていた、でも、差を実感してしまったのだ。せっかく、ダンジョンがある街にいるのだから、ザシャが来たら一緒に鍛錬に行こうと考えていた。
打ちのめされたのは、ユリウスの方だ。
実践や経験で、アルノルトが勝っている。その程度の差だと思っていたが、アルノルトの戦い方は、自分の考えが甘かったと思い知らされた。そして、些細な差だと思っていたものが、違ったと解ってしまったのだ。本来なら、ユリウスはアルノルトと同じような強さは必要がない。ユリウスは、英雄と呼ばれるような人物たちを見抜いて使う立場なのだ。クリスは、しっかりと自分の立ち位置をわきまえている。そのために、諜報活動に力を入れ始めているのだ。実際に、クリスが父親から引き継いだ諜報部隊は、下級貴族には網を広げられているのだが、同等の力を持つ上級貴族や他国には諜報の網を広げられていない。今、ライムバッハ辺境伯が残した網の再編と強化を行っているのだが、一定の効果が出始めるまで、最低でも2年は必要だと考えている。密偵となると、何年も前から溶け込んでいなければならない。
ユリウスは、自分の立場は解っているが、アルノルトへの対抗意識が抜けきらなくて、ウーレンフートに逗まっていたのだ。どこか、まだアルノルトがすぐに戻ってきて、領都に一緒に戻ると言い出すのではないかと考えていたのだ。
帰ると決まったら、すぐにでも動き出したい気持ちになっている。
朝になってから出立したほうがいいのは、ユリウスも解っている。しかし、朝になればダンジョンを見に行って、アルノルトが帰ってこないか確認したくなってしまう。自分で解っている。
「クリス!護衛が決まったのなら、出立するぞ!」
「はい。はい。ギルベルト様。何かありましたらご連絡ください」
「わかった」
護衛の4人は、領都まで護衛してから、ザシャを護衛してウーレンフートに戻ってくる。
ギルベルトは、慌ただしく出立するユリウスとクリスを見送った。