第五十六話 模擬戦(後始末)?
両手がなくなって、片目も潰れている。足も腱が切られているから立つのも難しいだろう。
最後に戦った5人以外は、四肢欠損とかにはなっていないと思う。少し傷跡が残る怪我があるかもしれないが、そのくらいは許してもらおう。それに、正式に俺の奴隷になって、話を外部に漏らさない誓約が取れた時に直してもいいと思っている。
「グスタフ殿?」
「マナベ様。やりすぎです」
「どこが?十分、人道的だぞ?」
「人道的が、何を言っているのかわかりませんが、パーティーを潰したのですよ。もう彼らは、使い物にはなりませんよ?」
「そうか?頑張って稼いで、四肢欠損が治る魔法薬を買うか、聖の加護を持つ者に治してもらえばいいだろう?」
「マナベ様・・・。稼げないのが解っていて言っていますよね?」
「へぇそうなのか?身体は残っているのだろう?例えば、オークやゴブリンの苗床に・・・。あぁ男は苗床にならないのだった。申し訳ない」
「貴方は・・・。まぁいいです。それでどうしますか?」
「どうしますか?とは?」
「ランドルとテオフィラとアレミルは拘束して犯罪奴隷になることでしょう。その他の者たちです」
「グスタフ殿。少し待ってくれ、その前に賭け金の清算をしてくれ、特に、商業ギルドのギルドマスターが主催していた賭けに賭けた冒険者たちを優先して分配してくれ」
「安心してください、そちらは思わっています。商業ギルドのギルドマスターと話をつけてあります。マナベ様の勝ち分以外は確保して、支払い始めているはずです」
「そりゃぁ良かった。それじゃ俺は、俺の権利を主張しよう」
ホームは実際にはどうでも良かった。
「ホームの譲渡や、奴隷契約の譲渡、パーティーメンバーの奴隷化ですか?」
「そうだな。そのほかには、途中の倍率を上げた分を大分減らして、60億枚の大金貨を用意してもらう必要があるな。あぁ6億枚の白金貨でもいいぞ!」
グスタフは大きなため息を吐き出した。
「マナベ様。それが無理なことくらいご理解いただけていますよね?」
「そうか?今すぐ用意しろとは言わないぞ?分割払いでもいい。毎月必ず死ぬまで支払い続けさせろ。それが条件だな。まずは、私財の没収と奴らが持っていた権利の剥奪と売却を行ってくれ」
「え?」
「どうせ、誰かが発明した物を商業ギルドに登録して利用料をだまし取っていたりするだろう?それを、発明者に返してやってほしい。死んでいたりした場合には遺族に、遺族が居ない場合は、その権利はこの街の孤児院に渡してくれ。できるよな?」
うやうやしく頭を下げる。グスタフ。
俺が言っている事が解ってくれたのだろう。冒険者ギルドでもこれだけ好き勝手やっていた連中が、商業ギルドでも同じような事をやっていないと考えるのには無理がある。絶対に、特許申請をだまし取っているはずだ。それがわかる書類が残されているかわからないが、訴え出ている人が絶対に居るだろう。
自分が発明した物は子供も同じだ。子供を奪われて黙っている親は居ない。
テオフィラとアレミルが運ばれていくのを見送る。
俺を睨みつけるがすでに奴隷紋が押されている。首輪と手枷と足枷もされていて、逃げる事はできないだろう。
このまま犯罪奴隷として過ごす事になるのだろう。俺が所有する事になっているのは、俺への反抗ができないようにする為だ。そして、グスタフにも権利を付与して尋問させる事にしている。
これで、風通しは良くなるのだろう。
冒険者ギルドは、副ギルドマスターのエフラインが代理でギルドマスターになり、テオフィラの不正を調べるようだ。商業ギルドも王都から来る調査員を待って副ギルドマスターが調査を行うようだ。
「さて、ここまではいいな。グスタフ殿。少し時間を頂いていいですか?」
「なんでしょうか?」
「余人を交えず話がしたい」
「わかりました。それなら、ギルドマスターの部屋でお話をお聞きします」
観客席を見ると2つに別れたギャラリーが居る。
ホクホク顔のギャラリーは昨日親父さんの店に居た者たちだろう。少額でも、倍率が高いからいい結構な収入になっただろう。
明らかに憎悪の感情を向けてくる者も居るが自業自得だ。倍率が低かった事から、かなりの金額を賭けているのだろう。複数に賭けている可能性もある。
グスタフに続いてギルドマスターの部屋に入る。
進められて、グスタフの正面に座る。
本当に護衛も連れていない。
「なんでしょうか?」
「貴方はどこまで今回の件に絡んでいますか?」
「おっしゃっている意味がわかりません」
「わからないですか?それは困りました。私の方針が決められません」
「方針ですか?」
「そうですね。貴方が唯の職員だとは思えません」
「理由をお聞きしてもよろしいですか?」
「それは、お認めになったと解釈しますがいいですか?」
「私に、マナベ様の解釈に異を唱える事はできません」
こりゃぁ簡単にはしゃべらないな。
こちらの考えを先に話して説明しない事には先に進まない。
「わかりました。貴方はあまりにもタイミングが良すぎます」
「タイミングですか?」
「えぇ私がテオフィラやグスタフと揉めるのが解っていたかのようです。違いますか?」
「間違っておりません。
「ありがとうございます。それで?誰からの指示ですか?」
「お答えできません」
「それが答えだという事が解って安心しました」
王家やユリウス関係からの依頼で動いているのなら、俺の事も認識しているはずだ。そんな様子は感じられない。ギルドの上層部・・・。ヘルムートあたりからの話である可能性が高い。
それに、”私たち”という言葉を使った。もしかしたら、ギルド内部に査問委員会のような組織が存在するのかもしれない。それで調査している所に、丁度イレギュラーになりえる人物が来たから都合よく使っただけなのかもしれない。
「マナベ様。私からもお聞きしてよろしいですか?」
「構いませんよ?なんですか?」
「貴方は何者ですか?」
「何を聞きたいのかわかりません。私は、シンイチ・アル・マナベ。ソロで活動している冒険者ですよ。それ以上でも、それ以下でも無いですよ」
「そうですか・・・。少し聞き方を替えます」
「・・・」
「マナベ様。貴方は、今後はどうされるのですか?」
「今後とは?」
「まずは、今回の落とし所です」
「それこそ、私が考える事ではありませんよね?知人に連絡はするかもしれませんが、それだけです」
何も嘘は言っていない。
ライムバッハ家のお膝元でこんな事が行われていた事を、ユリウスたちに知らせないのは俺が後で文句を言われてしまう。俺が関わった事は調べればすぐに解ってしまうからな。そうなるとユリウスはどうでもいいがクリスたちの追求が怖い。
「わかりました。マナベ様。明日のこの時間に再度来ていただく事は可能ですか?」
「なんでだ?」
「テオフィラとランドルとアレミルの資産を抑えて、マナベ様に譲渡するための契約を行います」
「そうだな。わかった。7名を除いた、もともとの奴隷と本日奴隷になった者たちは、このまま帰らせてくれ後日一人一人に会って話を聞く事にする」
「わかりました。手配しておきます」
話は終わりだろうと席を立つ。
「あぁそうだ。グスタフ殿。ヘルムート殿とイーヴォ殿に、エヴァの件では世話になったと伝えてくれ」
「ヘルムート様とイーヴォ殿がどんな方かわかりませんが承りました。ギルドへの依頼としてお受けいたします」
「わかった。依頼料は、後日相談でいいか?」
「かまいません」
グスタフを睨むが、おどけた様子を見せるだけで底が見えない。
「ハハハ。わかった。それでは、また来る。準備ができたら呼び出してくれ」
ギルドマスターの部屋から出て、親父さんの宿に向かう事にする。
宿に着いたらすでに出来上がっている冒険者の数名から絡まれるし、パーティーに誘われるし大変だった。
全員に、俺に勝てたらパーティーに入ってやると言ったら静かになった。まぁ俺に勝てる位の奴なら、俺はパーティーに必要ないだろう。
あと”モテ期”が来たのかやたら美人さんに言い寄られてしまった。
俺はエヴァだけで十分なので、丁重にお断りした。親父さんの店には入りきれない程の冒険者や商人が集まり始めていた。今日の話を面白おかしく吹聴した者が居たようだ。もともと模擬戦はオープンでやっているので、模擬戦が行われたのは多くの人が知っていたのだが、どうせランドルたちが勝って終わりだろうと思っていたらしい。
それが全く逆の結果になったものだから、俺を知らない連中は、俺の事を必死に調べようとしているようだし、知っている者は知っている事を自慢していたようだ。それで、親父さんの店に人が押し寄せてくる結果になったようだ。
騒ぎたくて騒いでいるやつに混じって殺気が籠もった視線を感じるのだが、今日は気にしないでおこう。
どうせ、ダンジョンで襲撃してくるか、一人になった所で襲撃をしてくるのだろう。
料理を作っていた親父さんだったが、すでに材料がなくなってしまって、店に出てきて一緒に飲んでいる。
それでいいのかと思ったのだが、人数が増えてきて俺の一言で、もう飲むと決めたようだ。”今日は、俺のおごり!”どうせあぶく銭が大量に手に入る。それに少しでも味方じゃないにしても、冒険者や商人は街の人間の心象を良くしておいたほうがいいだろう。この程度で関心が買えるのなら安い物だ。アルに、30枚の金貨を渡して清算しておいてくれ、余ったら親父さんに渡してと頼んでおいた。チップをくれと言ってきたから、大銀貨1枚を渡して、後は儲かった冒険者たちからもらえと言っておいた。
アルは、せっせと給仕を行って、懐が暖かくなった冒険者からチップをもらっている。俺の話をして商人からもチップをもらっているのは、商魂が豊かだと言える。
さて、親父さんへの頼み事をするか・・・。ダメと言われる可能性を考えておく必要が有るだろうが、ダメだったときのプランが考えつかない。ダメだった時には、少しではなく困ってしまいそうだ。
「親父さん。まだ頭は冴えているか?」
「この位の酒精でどうこうなるような柔な身体じゃねえ。それで何だ?」
「親父さんに頼み事があるけど、少しいいか?」
「ん?頼み事?」
「あぁお互いの利益になる話だ」
「ほぉ・・・。少し厨房に行くか?」
「えぇ」
親父さんに付いて厨房に入る。
何度か入っている厨房で、親父さんが椅子を進めてくれる。
「それで?」
「親父さん。宿屋を持ちませんか?」
「はぁ?」
「俺、今日の戦いで、ランドルたちが使っていたホームを得るのですが、俺には広すぎますし、維持管理もできません。親父さんがよかったら、ホームを宿屋兼食事処として運営してくれませんか?」
ランドルたちのホームは、ダンジョンの入り口の近くにあるようだ。
それもかなり広い。40名程度が寝泊まりできるようになっていて、1階には食堂も完備されている。ドワーフ(奴隷)も数名居て武器や防具のメンテナンスもしているようだ。正直、そんなところを維持運営できるとはとても思えない。
それに、殆どの者が奴隷だという事も解っている。残りたいと言った者以外は開放しようと思っている。養えるかどうかで言えば養えるだろうけど、無駄なような気がしてならない。自己顕示欲があるのなら、維持しても良いかと思ったが、前世の生活が”起きて半畳寝て一畳”だしこのウーレンフートで骨を埋めるつもりはない。
ここは訓練の為にレベルアップの為に来ているのだ。最終目的は、クラーラを見つけ出して殺す事だ。その足枷にしかならない物をいつまでもホールドしておいてもしょうがない。振り払った火の粉に着いてきた副産物だからありがたくもらっておくが、もらった物を維持するつもりは無い。うまく利用できそうなら利用しておいたほうがいいに決まっている。
「・・・」
「どうですか?俺は、空いている場所に家を建てて、そこに住むので、あとは、親父さんの好きにしてくれて構いません」
「何を言っているのかわかっているのか?」
「えぇ解っていますよ。親父さんをスカウトしているのですよ?」
「俺の好きに・・・と、言っても無理があるだろう?」
「そうですか?それなら、俺に雇われませんか?」
「おっおう。それなら話が聞ける」
「ありがとうございます」
詳細は、後日に現地を見てからという事になったが、今の宿屋も雇われているだけだから、やる事は違わないだろうと言っていた。
今の契約は、すぐに切れるという事なので、基本合意ができたら、親父さんに任せる事にするつもりだ。
細かい事を聞いたのだが、今の宿屋で働いているアルを除く従業員は、親父さんが雇っているので、そのまま連れてきてくれる事になりそうだ。
これで心置きなくダンジョンに潜れる・・・・はずだ。
ホームの改築と基本方針くらいまでは顔を出さないとダメかもしれないな。