(6) 望 ——Nozomi——
この五年間クラスメイトにすらなれなかった彼とは、この先、学年全体の同窓会くらいでしか会うことはないだろう。そんなものが開催されるかどうかも分からないし、自分が、もちろん彼も、参加するのかどうかすら定かではない。
つまり、何かしら自分から積極的なアクションでも起こさない限り、もう一生会えない可能性が高い。そんな相手だ。
そして、出会ってから六回もあったバレンタインで何のアクションひとつも起こせなかった意気地なしに、卒業して離れ離れになってしまったあとに何かができるはずもない。
これは神様が与えてくれた最後のチャンスだろうか。
——美沙子、どうしよう?
高校に入ってからの三年間、結果的には全く頼りにならなかった親友の名を思い浮かべる。
いや。そんなふうに言っては美沙子に怒られる。頼りにならなかったのはわたし自身だ。美沙子から何度尻を叩かれても行動を起こせなかった臆病な自分が百悪い。彼女もきっと本音では諦めていただろう。こいつには何を言っても駄目だって。
それでも、高校生活最後のチャンスと言われた今年のバレンタイン。
あのときも彼女は、一緒にチョコを作ろう、クッキーも焼こうと
まあ純粋にわたしのためだけではなかったようで、彼女はそれを自分が想いを寄せる相手に渡して告白、見事玉砕。健闘を祈る、とLINEを残して数時間姿を消していた。
そして、またもやわたしが敵前逃亡の不戦敗となったことを知っても何も言わなかった。
二人でカラオケに行って、やけ食いの合間にうたって踊った。
ピザに唐揚げ、フレンチフライ、ハニートースト。
それらは実際に食べたものではなくて二人で飛び跳ねながらうたった歌の歌詞だ。実際に食べたものはもっと多い。満腹になって、喉もカラカラになって、最後には吹っ切れた様子の彼女を見て、羨ましくなった。
——美沙子はもう次の恋に進んでいける。それにひきかえ、わたしときたら……。
降って湧いたようなこのチャンス。
たとえ振られたとしても、遠くに行ってしまう相手だ。この先、気まずい思いをしながら顔を合わせなくても済む。
ここで声を掛けることが出来れば結果がどうであれ、近い将来始まるであろうキャンパスライフを新たな気持ちで迎えられるではないか。
——よっ、花の女子大生!
頑張れ、自分。
恋には自粛要請なんか出てないぞ!
そんなふうに盛り上がりかけたところで、自分の身なりを思い出した。
ぼさぼさの髪。
——まずい。
玉葱はいいとしても、こんな格好では会えない。
今、会うわけにはいかない。
大きく膨らんだ風船がいっぺんに
たとえ昨日までわたしに好意を抱いてくれていた相手であったとしても、今の姿を見たら考えを改めてしまうことだろう。
ちょうど本屋の前だったので、慌てて店頭に並んだ雑誌の棚に向かって立つ。
適当に一冊を手に取って広げて顔を伏せ、マスクをした顔をさらに隠した。
少しだけ首を捻って、彼がやって来る方に片方の目だけを向けた。
彼はすぐそこまで近づいていたけれど、幸いにもこちらには気づいていない様子だった。