5話〜駆け落ちの果て{改}
しばらくして、遺体を引き取りに、マルクスの家の者たちが、ディクス村に来た。
マルクスの父親のアレイス=スタンは、遺体を見た後、ガルドに礼を言うどころか暴言を吐いた。
「お前ガルドって言ったな。何故だ!?マルクスが死に、お前のような者が生きている!助ける事も出来なかったと言うのか!!」
「それは……」
ガルドはそう言われ、どう答えていいか分からなくなり、悔しさのあまり拳を強く握った。
あまりにも強く握った為、掌から血がにじみ出た。
「ごめんなさい。悪いのは、私なのです。マルクスを誘い、あの洞窟に行きさえしなければ、こんな事にはならなかったのです」
「ユリィナ様。あなたとマルクスの事は、前々から反対していた。身分や家柄の違い!」
「ですが……」
「ましてや、モルグ家と言えば、貴族の中でも侯爵という高い地位。しかしながら、私は貴族でも低いとされる男爵止まり」
少し間をおき、
「あまりにも、身分が違いすぎる。それに、あなたのお父上も、反対されていたとも、御聞きしていましたが?」
「身分や家柄などは、関係ないと思っています。私はマルクスを、愛していました。マルクスも愛してくれました」
「ああ、こんな話をしていても、マルクスは戻っては来ない」
アレイスは、ユリィナを睨んだ。
「ユリィナ様、マルクスの葬儀には来ないで欲しい。またあなたを、責めてしまうかもしれない」
「しかし、私は……」
その後アレイスは、無言のままマルクスの遺体を、家の者たちと共に運んで行った。
ユリィナはその場で泣き崩れた。
ガルドはその光景を見て、ユリィナがあまりにもふびんに思えた。
「ユリィナ、悪いな。俺はお前の好きな男を、助けてやる事も出来なかった。せめて何か俺に出来る事はねぇか?」
そう言われユリィナはガルドを見た。
「ヒクッ、そ、そうですね。ここで私が泣いていては、あなたに迷惑をかけてしまいます。しかし今更、家には帰れませんし……どうしましょう?」
「帰れねぇって、どういう事だ?」
「それは……先程の話を、聞いていたと思いますが。私とマルクスは、駆け落ちをしたのです」
「おい!ちょ、ちょっと待て!?駆け落ちって……。じゃこれから、どうするつもりなんだ?」
ユリィナは考えた後、辺りをキョロキョロと見渡した。
「そうですね。行くあてもないですし……。そういえば、あなたこそ、これからどうするのですか?」
「俺は訳あって、明日の朝あたり、この村を出て、旅に出るつもりだ」
「まあ、旅に出るのですね。楽しそうですし、私も同行してもいいかしら?」
「本気で言ってるのか?それに駆け落ちしたとはいえ、家の方はどうする?それに、この旅は危険が伴う。お嬢様には無理なんじゃ?」
「私は本気です。駆け落ちを決めた時から、家を出るって決めたのです」
「だがなぁ。……」
「でも旅に出れば、危険が伴うのは当たり前です。それに私は、簡単な魔法であれば使えますので、少しは役には立つと思いますよ」
「女と旅か……まぁ、1人よりは良いのかもな」
「クスクス、そういう事。1人は寂しいですよ」
ユリィナはそう言い、ガルドを覗き込んだ。
ユリィナの顔が、あまりにも近くに来ていた為、ガルドは慌てて、顔をそらした。
「それでユリィナは、これから何処に泊まるつもりだ?」
「そうですね。何処にしましょうか?あっ、そうそう。ガルドの家に泊めてくれませんか?その方が、お金もかかりませんし」
そう言われガルドは慌てた。
「ちょ、ちょっと待て!俺は1人で暮らしている。それに、ユリィナは女だ!それは……やっぱり、流石にまずいだろう」
「ふふふ、別に私は構いません。それに、あなた強そうだし、私の護衛になりそうですしね」
そう言われガルドは頭を抱えた。
「はぁ、仕方ねぇかぁ。だが、俺の家はかなりボロいぞ、それでも良ければ来ればいい」
そう言うと、ガルドは家の方へと向かい、ユリィナは嬉しそうに後を追った。