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北の森にて3

 森と一口に言っても広大だ。
 天に向けて険しく聳えたつ雪山が連なっている広大な場所を中心に、その周囲全てが森なのだから。
 れいはその森を歩きながら、フォレナーレの屋敷の反対側に建つフォレナルの屋敷を目指す事にした。
 フォレナーレの管理する範囲は問題ないらしいので、雪山と森の管理をフォレナーレと半分割しているフォレナルの管理区域の状況について確認すれば、雪山と森の全域の状況の確認としては十分だろう。その後に残り半周するようにして戻ってくれば、見回りとしても十分だ。
 光が幾筋も差し込む森の中を、れいはゆっくりとした歩みで進んでいく。急ぎの用事は無いので問題ない。そもそもれいに掛かれば大抵の用件は直ぐに済む。指導のようにどうしても時間が掛かるものは分身体を出して任せればいいだけ。
「………………やはり生き物が必要ですかね?」
 森の中を歩きながら、れいは周囲を見回してそう零す。静かな森というのはいいものだが、静か過ぎるというのはそれはそれで寂しいものだ。この森には魔蟲の数もそれほど多くはない。
 かといって、何かを創造するというのは躊躇われた。どうしても必要というわけではないのだから。
 そもそもここを歩くのも、れい以外だと管理しているフォレナーレとフォレナルぐらいなので、気にするほどでもないのだが。
 時折遠目に魔物の姿を目にする。ハードゥスの性質を考えれば、この世界では魔物が普通という事になるのだろう。なので、ハードゥスでは魔物を動物という分類に入れても問題なさそうだった。他の世界では、魔物と動物は特殊な力を宿しているかどうかで分けているらしいが、他の世界とハードゥスは違うから関係ない。
 魔物の中でも人に益を与えるのを聖獣とか神獣とか呼ぶらしい。腐敗と発酵みたいなものなのだろう。中にはもう少し厳密に区別している世界もあるようだが、概ねそんな感じ。
 れいは視線を周囲から足下や頭上にも向けてみる。足下はふかふかとした土ではあるが、その下には硬い地面がるのが分かる。
 この周辺は雨が少ないのだが、地下の浅い部分に水が流れているので、木が枯れる事はないのだろう。その分根っこは地下に向いているのか、地表に出ている根っこが少なくて歩きやすい。
 そしてこの木だが、中には魔物に分類されている魔木もあったりする。環境が変わったりして合わなくならない限りは自立歩行はしないらしいが、それでも近づくものは枝をしならせ、根で突き刺し攻撃してくるらしい。それでやられれば魔木の養分となる。
 そんな魔木がここにも何本か存在する。
 れいには攻撃を仕掛けてこないので、生態については情報としてしか知らないが、長い歳月を経た魔木は知能が発達するようで、れいはその内の一本とたまに軽く会話をする事があった。穏やかな老人といった風情で危ない感じはしないが、それはれいが相手だからだろう。
 そんな魔木だが、付けている実は非常に美味しく栄養価が高いという。特に多量の栄養を摂取した魔木ほどその傾向が強いとか。
 その辺りの事をれいが魔木自身に尋ねてみたところ、魔木が付ける実は過剰に栄養を摂取した時にその都度保管するための手段らしく、それ故に一度に摂取した栄養が多いほど、一つの実の栄養価が高くなるらしい。実の多い魔木ほど常に栄養の多いところに生えている証拠なのだとか。
 そういうわけで魔木達にとって魔木の価値は実の数で決まるらしく、その話をしてくれた魔木はとても誇らしげであった。この地はかなり栄養が豊富らしい。
 その時に魔木は折角なのでどうぞと、枝を器用に使って自身に生っている実を一つ採ってれいへと差し出してきた。それを食べたれいは、確かに美味だと納得した。
 その事を思い出したれいは、そういえばと先程フォレナーレが出してきた飲み物を思い出す。あの時飲んだ薄い赤色の飲み物は、もしかしたら魔木の実を絞ったやつだったのかもしれない。れいが貰った実に比べれば味が薄かったような気もするが、あれが成熟すると貰った実ぐらいの味にはなりそうだ。熟すのかどうかは知らないが。
「………………栄養価の違いですかね?」
 何となくあの実はあまり熟すようなものではない気がして、れいは自分なりの予想を口にしてみた。話を聞いた限り、その推測は間違っていないような気がした。
 つまりフォレナーレは、何処かの魔木から実を採取したのだろう。れいが話をする魔木以外にも魔木は生えているのだから。
 それにしても、流石は管理補佐といったところなのだろう。魔木は動かない代わりに、魔物としては結構強い部類に入る。
 まぁ、管理補佐の強さは創造したばかりの頃から既に創造主やラオーネ達クラスなので、そもそもれいや同輩の管理補佐以外には敗ける相手が居ないだろうが。
 なので創造時で言えば、実はフォレナーレ達の方がれいよりも強かったりする。れいは生まれた当初は創造主よりも劣る強さだったのだから。
 そうして長閑な森の散策をしていると、れいへとメイマネから連絡が入る。どうやら住民のことで話があるらしい。とはいえ急ぎではないらしいので、近くに来たら寄って欲しいという事だった。元より近くに行ったら寄っていたので、おそらくこれは軽い催促のようなものなのだろう。まぁ、急ぎではないと言われたのでれいは全く気にしないが。
 そもそも、そのまま用件を話せばいいと思うのだが、れいは余程直接話したい案件なのだろうと思うことにした。
 フォレナーレの屋敷を出て半日ほどして、すっかり辺りが暗くなった頃に森を半周出来たようで、視界にフォレナルの住む屋敷が見えてくる。れいとしてはゆっくり歩いていたつもりだったが、思ったよりも速度が出ていたようで、思いの外直ぐに到着出来てしまった。

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