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雪山にて

 何処までも白く寒いその場所は、れいが創造した世界であるハードゥスに在る漂着物を集めた一角、その北側。
 漂着した雪山を並べたその場所は、元々寒冷な地に設定していたのだが、少し前に季節を導入したので、それに合わせる事にした。といっても、それでも年中寒冷な地なのだが。精々が夏になると若干気温が上がったかも? ぐらいの変化はあるだろうとはいえ。
 そんな場所をいつもと同じ恰好である、フリルの付いた濃紺色の服の上にエプロンのような白い布を縫い付けた服を着用しているれいが歩いていた。
 その足取りはとても自然で、足下に雪が分厚く積もっているなどとは到底思えないほど。
 この地は生き物が棲むには厳しい環境だが、それでもここにも生き物が棲んでいる。といっても、やはり普通の生き物ではないが。
 そもそもハードゥスまで辿り着けるモノというのは、余程存在としての力の込められたモノか、かなりの強運の持ち主ぐらいだろう。強運もまた力ならば、やはり何かしらの強大な力が無いと辿り着く事は不可能ということになる。
 そんな世界に棲んでいるモノが普通な訳がない。だが、ことハードゥスに限って言えば、それが普通に該当するのかもしれないが。
「………………」
 れいは離れた場所に居る存在を一瞥する。襲ってくるでもなく、逃げるでもない。かといってれいを観察しているのかといえば、そんな事はない。敢えて言うなら警戒だろうが、れいにとってはどうだっていい事だ。
 現在れいが行っているのは、単なる見回り。時間がある時は常に漂着物を集めた一角を歩き回っている。
 漂流物を受け入れてかなりの年月が経過したが、今のところ問題らしい問題は起こっていない。少なくともハードゥスでは。
「………………」
 れいは雪山を歩きながらハードゥスの外、つまりは外の世界とそこに創造された別の世界について考える。
 まず外の世界に関しては、危険域に達するまでに問題になっていた漂流物を創造主がハードゥスに押しつけた事で何とかなっている。むしろ現在はその時の勢いのままに成長しているので、今度はやや力が不足するようになっているようだ。不足程度であれば問題は無いので、そちらは時が解決するだろう。
 他の世界については、今でも爆発的に増えている。既にハードゥスの管理者達の交流区域には全員を入れる事が出来なくなったほど。この辺りは事前に対策を取っていたので問題はない。
「………………さて」
 れいは変化について考察してみる。それは問題といえるほどではないのだが、どうやら創造主は創造だけではなく時空にまで手を伸ばしだしたようだ。手始めに自身が創造した世界や管理者の時を操り、早めたり遅めたりしている。特に新しく創造した管理者の時を早めているような気がした。
「………………」
 思考を巡らせたれいは、もしかしたら成長でもさせようとしているのだろうかと思い至る。後進の管理者と黎明期の管理者とでは、既に天地ほどの差が出来ている。これを埋めるのは相当に困難であろう。
 では、後進の管理者の時を早めてみてはどうか。安直だが、時間の差を埋めるという発想で考えればおかしくはない。
 ただ、管理者だけの時を早めたとしても、成長はするが中身はスカスカだ。同じ時間を普通に過ごした管理者に比べればかなり落ちる。
 そこで、創造主は世界の時も早めようとしたようだ。管理者と世界、それぞれを同時に育てるように。
「………………」
 それは間違ってはいないのだろうが、残念ながら創造主は創造以外には大して興味が無かった存在だ。もしかしたら、自身が指示していた指導など忘れてしまったのかもしれない。
 まだ試験的に行っているからか一部の世界のみだが、これが全てに適応されたら指導のシステムは一時的に不要になるだろう。
 そう思いながら、れいは既に創造されていた管理者の方を調べてみる。本当に成長を合わせようと思っているのであれば、もしかしたらそちらの方にも手を出しているのではないかと思って。
 その結果、創造主は他の管理者にも手を出していた。こちらは時を遅くするというもので、古い管理者ほど強力になっていっている。れいにも施そうとした痕跡があったが、れいは自身が管理している世界諸共既に創造主の手から離れているので、その手が届く事はなった。
 他の管理者は時を遅くさせられているようだったが、それも多少遅くなった程度のようで、あまり効果はない。これは創造主は創造に特化した存在なので、時空に関しては大した能力がないという結果なのだろう。
 これから学習して慣れたとしても創造主は成長出来ない存在なので、警戒するに値しない。それでも相変わらずの身勝手さに呆れたので、れいはちょっとした嫌がらせとして、結果として時を僅かに遅くさせられた管理者達の時を戻しておいた。
 管理者達は数が居たからか割と雑だったようで、世界の方には干渉していないというお粗末さ。れいが直ぐに気づかなければ、何かしらの齟齬が生まれていた可能性もあった。
 それに、創造主は既に独立しているれいに対して未だに指示してくる。その姿が何だか間抜けなものだとれいは思う。もしかしたら独立した事に気づいていないのかもしれない。
 れいはかなり成長したので、れいの本体が管理している世界もつくり変えていた。昔であれば一度全てを消してからでなければ出来なかったものだが、今では世界はそのままに、根幹だけを別物に変える事も造作ではない。おかげで世界に開く穴は消滅させられた。
 管轄外の世界にそれを施すつもりはないが、その結果として創造主からの独立を果たした訳である。
「………………何がしたいのやら」
 創造主の行動を思い、れいは思わず困ったように呟く。何も見えていないというか、見ようとしていない。成長は出来ないが学習は出来るはずなのにしようとしない創造主に、れいはせめて同じような存在であるラオーネ達にはしっかりと考える事を教えておこうと思ったのだった。

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