第5章-2 戦闘
ロイヤルリングと史帆の設定によって、適合率は96パーセントになり、センプウの反応速度もあがっている。
そして七福神ロボは、翔太がリモートコントロールによるセミコントロールマルチアジャストの所為で、微少とはいえタイムロスが発生している。
アキトの攻撃が、徐々に毘沙門天の装甲を侵食する。それでも未だに5機残っている。毘沙門天以外へは牽制しかしていないから、翔太がミスでもしない限り破壊できない。
「アキトは想定以上に仕上がってきたな。我による訓練の成果であるのは、論を待たないがな」
「ジン様。それでは操縦訓練の他に、アキトには対人戦闘訓練を開始した方が良いと考えます。お嬢様より弱いとはいえ、多少なりとも身代わりになれるぐらいに鍛えます」
センプウのレーザービームが、毘沙門天の右腕部を直撃した。肩から下の右腕全部が使用不可となる。
「ジン、どうしてアキトは接近戦をしないのかしら? そうすれば、着実に1機ずつ潰せるわ」
「近接戦闘用の武器使用を、我が禁止にした。良いか、風姫。様々な機会で鍛え上げねばならぬ。そう、これはアキトの訓練も兼ねているのだ」
「負けたら私たち、手伝うことになるわ。7日間もよ・・・。リスク対策はできているのかしら?」
攻撃力の半減した毘沙門天にアキトは興味を失ったようだ。センプウのレーザービームが、連射モードで他の4機に襲いかかる。
「風姫よ。先読みとリスク対策を考えるよう教育したのは我だ。無論、抜かりはない」
ジンは言葉を続ける。
「アキトとヘルを20時間連続稼働させる。さすれば、ヤツら2人で5人分になるな。そして彩香と史帆で、1人分の作業を請負わせるのだ。彩香には、その作業分の怒りをアキトの戦闘訓練で発散してもらう。完璧なリスク対策だと自負している」
「流石はジン様です。わたくしの要望も入っているので安心いたしました。あの筋肉ダルマに命令されたストレスだと、相当な戦闘訓練が必要になりますね」
「アキト、死なないかしら?」
風姫の心配を無視して、彩香は自分の希望を口にする。
「ただ7日間ともなると・・・わたくしがストレスに耐えられるかどうかです。思わず筋肉ダルマを、地獄の入口に誘い突き飛ばしてしまうのではないかと心配・・・いいえ、それはそれで愉しみではありますね」
「アキトはアキトで、秘策を準備していたがな・・・。負けるそうになったら発動するだろうが、使う必要はなさそうだ」
ジンは弟子の成長に満足気な笑みを浮かべている。
「勝負あったかしらね」
毘沙門天の左腕にも、センプウのレーザービームの命中判定が下されていた。毘沙門天に興味がなくなっていた訳ではなく、他の4機からの攻撃を警戒して牽制していたのだ。
毘沙門天の攻撃力が激減したのを確認したアキトは、標的を布袋に変更する。滑らかな軌道に、踊るような動作で、センプウは危なげなく戦闘を続けている。
サムライシリーズを操縦する前のアキトなら、手負いを先に完全撃破してから、他の獲物に攻撃をしかける。しかし、センプウには全表索シスがある。七福神ロボの配置が分かれば、いくらでも有効な策がうてる。いくらでも戦術を使える。
コウゲイシを操って模擬戦闘していた頃は、翔太の操っている七福神ロボの配置を推測で補っていた。その時は安全策をとったり、危険だろうと予測できていても賭にでたりして戦っていたのだ。
今のアキトは安全策だけを選択していても、間違いなく七福神ロボに勝てるとジンは確信した。
我は己の指導力に自信を持っていたが、こうも上手く成長されると過信してしまいそうだな。
《翔太ぁあああーーっ! 今こそ、七福神ロボのぉおおお、真実の姿を見せつける時だぞぉおおおおおーーー。往け翔太よ。モード2だっ!》
布袋ロボの堪忍袋からはミサイルだけでなく、何度か訳の分からない武器が取り出されていた。
「ほう、七福神を1ヶ所に集合させようとしているようだな。それに対して、アキトも良い反応をみせている。ようやくサムライに慣れたようだ」
ジンは風姫たち同様ディスプレイに視線を向けているが、戦略戦術コンピューターを通して戦場全体を俯瞰して眺めている。轟雷で牽制射撃という名の嫌がらせをしつつ、七福神が集合する位置を把握したようだな。集合する直前を叩ける位置に、センプウが陣取ろうとしている。
手足のようにセンプウを操縦できるようになって、アキトの頭脳は作戦の立案に全力を傾けられる。頭の良さで考えながら操縦していた時でも風姫を圧倒していたのだ。考えずにセンプウを操縦できるようになった今、敵の動きを予測し罠に嵌めることなど造作もないのだ。
「これで決着だわ」
風姫も直感から、勝負の行方が分かったのだな。
「アキトが勝つ?」
まだ史帆は、戦況を理解できないようだ。徐々に鍛えねばらならぬ。エンジニアの働きが、戦況を左右することもあるのだ。少数の乗組員しかいない現状では、特にそうなのだ。
風姫が笑顔を浮かべ、断言する。
「勝つわ」
《ちょっと、待てぇええええええーっい。七福神ロボが変形合体するのだぞ。これを見ずして何を見るというのだ、アキトォーーー》
《アキトくん。これからが、翔太の最高の見せ場なんだよ~》
『バカか? 戦闘でチャンスを逃すのは、自殺と一緒だぜ』
「模擬戦闘をアトラクションとでも勘違いしているのかしら?」
《アトラクション? う~ん、舞台はクライマックスに突入。乞う、ご期待かなぁ~》
「見たい見たい見たいのだぁあああああ。そして我輩はぁあああああ、宝船と七福神ロボが欲しい、欲しい、欲しいのだぁああああ。その技術、設計思想、ともに我輩の目で確認するに相応しいぃいいいいいのだっ・・・はぁはぁ」
《良いか。そこの変態でマッドな禿頭よ。この宝船と七福神ロボはお宝屋の伝統にして、代々引き継いできたものだぞ。トレジャーハンティングユニットお宝屋と共に、永遠になるのだ》
両腕を組んだ怒り心頭のゴウが、鬼の形相でヘルを睨む。しかしヘルは、威嚇した後に己の欲求を口にする。
「がっ、ふぅうううーーー・・・だから何だというのだぁあ。我輩に寄越すのだ。丁重に分解、分析、解析を実施して・・・」
『ゴウ、何が永遠だよ。それって思いっきり新品だろ』
戦闘中だったが、アキトは突っ込まずにはいられなかったようだ。
その言動は僅かながら、アキトの攻撃を雑にしていた。ジンは、この模擬戦闘で最初の減点だと考えながらも、お宝屋に追加要求するのに利用する。
「七福神ロボの合体まで待つには代価が必要だな。24時間、ユキヒョウの全乗組員が宝船と七福神ロボを心ゆくまで見学させるのだ。これが誓えるなら、待ってやるが?」
『ちょっと待ったぁー。戦っているのはオレだぜ! オレの意志は?』
《うむ、良いだろう。お宝屋の代表である宝剛が誓約する》
『いや、だから、オレの意志は?』
《すでに誓約がなったのだぞ。相変わらず変なところでウルサイな、アキトよ》
ヘルがジンに声をかける。
「ジン」
ジンは顔を動かさず、視線だけヘルに向けた。
ヘルは、宝船と七福神ロボが欲しいと、ジンに視線で訴えている。しかし、どう妥協点を探ったとしても、それは有り得ないのだ。
有り得ないことを有り得ることへと、幾度も実現してみせたため、どうにかなるのではと期待しているらしい。自分の欲望に忠実だからマッドサイエンティストになれるのだろう。しかし評価できるのは才能だけで、人間としては最底辺に位置しているのを、ジンは改めて確認した。。
ヘルの言いたいことを1ミリも誤解せず、きっぱりと、ジンは最後通牒する。
「ダメだ」
『変形合体している最中に攻撃する予定が・・・こんなことなら、リスクをとってでも倒しに行けば良かったぜ』
ぼやきながらもアキトは、可能な事を行い、勝利のために最善を尽くす。
センプウに七福神ロボの周囲を、色々な軌道で飛び回らせている。
直接攻撃は禁止されていても、データ収集とその分析は禁止されていない。というより、そこまでの取り決めはされていない。取り決めにないことは解釈次第であり、解釈の違いを訂正する時間はない。
様々な角度から多岐にわたるデータ収集して、センプウの戦術コンピューターで七福神ロボの攻撃手段、防御の固さを分析していた。
5機の七福神ロボが集まり、翔太が高らかに宣言する。
《七福神ロボォーーー、変形合体。モード2》
寿老人を中心に次々と七福神ロボが合体していく。腕や脚の可動部分が団扇、巻物、帆に覆われた。前部は福禄寿の鶴がガッチリと固定されていて、鋭い嘴と広げた翼が刃物のようだ。下部には、恵比須の2本の腕が肘から先だけ出ていて帆柱と杖を持っている。
攻撃手段のみが可動部分となっている他は、一体化している。
ただし、上部と後部に大きな窪みがある。上部は弁才天が、後部は大黒天が納まりそうな形状だった。
七福神ロボのモード2のコンセプトは突撃艇である。
レーザービームで攻撃しながら、大黒天の米俵ジェットで敵に突撃するのだ。体当りに耐えられるよう可動部は極力なくし覆う。また突撃艇の様々な方向に窪みあり、七福神ロボの推進部が入っている。突撃中でも細かく進行方向を調整して標的を逃さない。
モード2の武装の中で特筆すべきは、備えている全レーザービーム砲をがあれば、どの方向へでも発射可能であること。そして反動は、各所にある推進部で抑え込んだり、姿勢制御に利用することを可能にしていることである。
ただし、毘沙門天の腕が使用不可となり、弁才天が撃破された状態では、レーザービームの発射方向は限られる。
《どうだ、アキトよ。変形合体はぁあああ》
「素晴らしいぃいいいいいーーーーー。我輩の感性を直撃したっ! ど真ん中を突き抜けていったのだぁああああーーーー」
ゴウに共鳴したのかのように、ヘルが魂の叫びをあげた。
「黙れ、ヘル! 我は、お宝屋の無駄な足掻きを存分に愉しみたい。すでに我の目には、お宝屋の唖然とする姿が映っている。しかしな、事実と予想が重なる瞬間を見逃すわけにはいかぬ」
翔太が、いつもの調子で軽口を叩く。
《いやいや、その目が節穴であることを証明してみせるよ》
『随分と余裕あるじゃねぇーか? オレが操縦しているのは、正真正銘の人型兵器、サムライシリーズのセンプウなんだぜ』
センプウは一瞬の遅滞もなく動き続けている。戦術コンピューターがアキトに示している分析結果の情報は芳しくないからだ。弱点はないか探っているのだ。
そしてジンは、センプウの戦術コンピューターの分析結果を、ユキヒョウの戦略戦術コンピューターから入手している。
《まあまあ、アキト。落ち着こうよ。ちなみに、モード1だと1体のロボットになるのさ》
「その情報は、この模擬戦闘に必要かしら? 手加減無用だわ、アキト。さっさと実力差を教えてあげるといいわ」
「お嬢様の言う通りですね。変形合体が完了したのなら、戦闘を再開しなさい」
《ふむ、そうだな。いいかアキトよ、七福神ロボはモード7まであるのだぞ》
「いいから再開しなさい」
宝豪と彩香の相性は、最悪なのかも知れぬな。我は嫌いではないないのだが、元が真面目なメイド長だったからな・・・。
《う~ん、10カウントで良いかなぁ、アキトくん?》
『いいぜ』
《それじゃあ、いくよ~。10、9、8・・・》
センプウと七福神モード2は戦闘再開に向けて、ゆっくりと距離をあけていった。
《2、1、0~~~》
再開の合図とともに、七福神モード2はレーザービーム砲を放ちながら一気に距離を詰めにかかる。それに対してセンプウは、距離を保とうとしながら轟雷を撃ちまくる。
戦闘再開は、派手な砲撃戦から始まったのだった。
《良かった良かった、アキト。まだまだ、面白い芝居を皆に提供できる。1機対1機だから、ミュージカルなんてどうだろうか? 僕らが歌い、七福神・モード2とセンプウが、舞台の端から端まで使って踊るんだ》
模擬戦闘中なのに、翔太は口を開く余裕ができたようだな・・・。
今まで翔太たちは、思考の陥穽に嵌り込んでいた・・・。偶然にも、翔太の能力を存分に発揮できる最適解を選択しやがった。
・・・参ったぜ。
お宝屋は人数が3人なので、7機のコウゲイシ七福神をフルに稼働してトレジャーハンティングしていた。そして戦闘において、数は力である。戦闘力は数に比例するのではなく、指数関数的に増加するのだ。
それ故マルチアジャストスキルで、翔太は七福神を複数機を稼働させ、オレは自分専用のコウゲイシ”オニマル”で模擬戦闘を行っていた。七福神ロボのどれよりも、機体性能ではオニマルが圧倒的に上であった。七福神ロボの機能を隠していたという事情もある。
1機対1機の模擬戦闘では、機体性能と作戦、策略、戦術を駆使して翔太を寄せ付けなかった。
作戦、策略、戦術ならオレが上だ。しかし操縦なら、翔太が遥かに上を行く。機体性能が互角なら、9割がた翔太の勝利に終わるだろうな。なにせマルチアジャストは、機械の性能を限界まで引き出せるんだ。戦闘において、機械と瞬時に適合できることより、機械の性能を限界まで引き出される方が脅威になる。
それに複数機を操縦するということは、複数機の視点と情報を手に入れられるが、決して戦場を俯瞰できる訳ではない。データ処理を行い、情報を整理する。それらを頭脳が有効に使って決断する・・・のは負荷が高すぎる。一度オレも試してみたが、5機を超えると作戦立案に支障をきたした。
操縦では、翔太がオレを遥かに凌駕するが、頭脳なら絶対に、それも圧倒的に優っている。
「ああっ・・・オレが踊るだって? 冗談きついぜ。テメーにダンスを指導してやるよ、翔太」
言い捨てると、アキトは七福神ロボのモード2に意識を集中する。
七福神ロボ5機分の武装が一斉に火を噴く。1機対1機だが、モード2は突撃艇というか、小型強襲揚陸宇宙船の戦闘力がある。アキトは一時たりともセンプウの加速を止めず回避し続ける。
もちろんアキトも轟雷で応戦していて、何発も直撃させている。しかしモード2の防御が堅すぎるのだ。可動部分を殆どなくし、帆などで弱点を覆っただけのことはある。それに翔太は、姿勢制御のための推進装置を巧みに操り、防御力の高い場所で轟雷の攻撃を受けるようにしている。
轟雷はトリガーを引く必要がなく、ロイヤルリングからの命令で即座に発射できる。それにも関わらずだ。
翔太の反応速度と動作予測は、もはや人間業じゃない。
まったくよぉ・・・反応速度と相手の動作予測だけなら、ジンともイイ勝負になるだろうぜ! ジンは人間じゃないけどな・・・。
《翔太よ。七福神ロボの変形合体というクライマックスは終了したんだぞ。ダラダラ遊んでないで早く終わらせるのだ》
《いやいや、ゴウ兄。折角の機会なんだから、モード2の機能を色々と試してみないとね》
翔太の台詞通り、七福神ロボ・モード2には色々な機能があるようだ。
鹿の角が回転しながら的外れな方向に進み、弧を描きながらセンプウへと迫・・・らなかった。
何がしたいのか?
ホントに全機能を試したいだけなのか?
アキトが判断に迷っているうちに、鹿角は推進装置で弧を描きながらモード2に戻っていった。
《それにさぁー、モード2を操縦するのは、すごく楽しいんだよ。モード2の全機能を扱うには、全力全開でないとムリかな?》
ああ、うん。この発言の前半は翔太らしいな。だが後半の台詞は、脅威にしかなり得ない。翔太のスキルを持ってしても、全力で操縦する必要があるというのは、それだけ機能が・・・武装が多いということだ。
果たして、初見で対応できるか?
身構えているアキトに、七福神ロボ・モード2は様々な武器を使用してくる。鹿角の次は鶴の翼が、モード2から回転しながら発射され、また戻る。鶴の嘴が開くと、レーザービームが放たれた。釣り竿レールガンの弾が切れたらしく、弾倉になっていた鯛が泳ぐように・・・ホントに体をくねらせながら、七福神ロボ・モード2から離れる。センプウと七福神ロボ・モード2の中間地点に鯛は陣取って停止した。だが、体はくねらせ続けている。どうやら鯛は、攻撃と無縁らしい・・・。そして色々な形状の砲塔から、様々な威力のレーザービームが放たれている。それらの攻撃は、1撃たりともセンプウの傍を通りはしなかった・・・。
《ああーそうそう、安心して気楽に見ててくれればイイよ。僕が勝利者になるからさ》
七福神ロボ5機が、変形合体して1機になり、5機分の火力がモード2に備わった。その結果モード2は、センプウと比較にならない程の圧倒的攻撃力を手にした。砲撃戦では、アキトの不利を覆すのは無理がある。
命中すればだが・・・。
しかも全長5~60メートルぐらいあり、センプウの数倍はある質量の突撃艇を翔太は軽快に操っている。その機動力は、センプウと同レベルに達している。これで大黒天の米俵ジェットが健在だったら、センプウは機動力でも負けていた。
アキトは翔太の宣言に対して、短く疑問を呈する。
「そうかな?」
勝てる勝てないは別として、いつもなら翔太の勝利宣言を即座に否定するとこだぜ。だが、切り札の存在を気取られてはならない。行動は大胆に、言動は慎重にすべきだな。
機体の戦闘能力の合計値だけで勝敗が決まる。それが正しいかったなら、ジンがデスホワイトと呼ばれることはなかったはずだ。
それは、操縦者に対しても同じだぜ。
反応速度が早く、動作予測が精確でも、無駄な動きが多く、対処法が間違っていれば、勝負には勝てない。それを証明してやる。
《翔太。きっと余裕なんてないよ! だってアキトくんの顔・・・順調に作戦が進行している時の顔になってるの。絶対に今のままじゃダメだよ~。あたしはアキトくんと、惑星ヒメジャノメで7日間のデートがしたいのっ。だから絶対に勝って欲しいからぁ~~》
段々と小さくなる声と口調から、胸の前で手を組んで、祈るようにお願いしている千沙の姿が容易に想像できる。
《ふむ、だがな翔太よ。窮鼠猫を噛む、という言葉があるのだ。アキトがネズミでなく、ナマケモノだったとしても油断するのは良くないぞ》
どっちかというと、オレは勤勉な方だぜ。
《まあまあ、七福神ロボ・モード2なら負けはしないさ》
翔太。戦闘の勝敗は、機体性能やパイロットのスキルだけで決まる訳じゃない。他にも様々な要素が絡み合うんだ。単純化しすぎて検討すると戦況を見誤るぜ。
「どうやってだ?」
アキトは1撃1撃に意味のある攻撃を続けている。悟られないよう適度に、翔太の意識を逸らす攻撃を加えながら、隅へと追い込んでいく。
正六面体に設定された指定戦闘宙域外へと脱出したり、押し出されても負けになるルールなのだ。
そして隅に追いつめられた状態での応戦は、非常にリスクが高くい。なにせ動ける範囲が限られ、攻撃を避けるのは難しいくなるからだ。翻って追い詰めた側は、自由に軌道を描き避けながら、相手に攻撃を加えられるのだ。
センプウは、すでに隅と言って良い位置まで、七福神ロボ・モード2を追い込んだ。
アキトは轟雷の威力を最大にまで引き上げ、苛烈な攻撃を加え始める。
隅に追い込むまでは、轟雷の威力を半分以下に落としていたのだ。砲身の使用不可判定がでたら、主武装がなくなるからだ。
だがな・・・。
七福神ロボ・モード2を追い詰めたんだ。
一気に勝負を決めてやるぜ。
《そうそう、こうやってかな》
翔太の台詞と同時に、七福神ロボ・モード2の一斉攻撃始まった。
レーザービームが無秩序に放たれるが、センプウの腕や脚を掠めるようになっていた。レーザービームの他に、七福神ロボ・モード2の各所から、合計20発以上のミサイルが発射される。
レーザービームの光とミサイルの噴射炎で、アキトの視覚が一杯になる。そして鹿角と鶴翼が回転しながら弧を描き、4方向からセンプウの背後に迫る。
先程までと異なり、センプウの脅威になる攻撃の連続だった。
七福神ロボ・モード2の武器を1回試しただけで、翔太は完全に把握したようだった。それにマルチアジャストのスキルを全力全開で発揮し、防御しながらも全ての攻撃手段を繰り出している。
《どうかな、アキト。七福神ロボ・モード2と僕の全力は》
翔太の声は、ホントに愉しそうだった。
全力全開でマルチアジャストのスキルを使うことなど、今まで翔太にはなかったのだろう。
センプウはミサイルをすべて轟雷で破壊した。しかしセンプウの四肢にレーザービーム当たり、使用不能と判定される。
《ふっはっはっははーーー。どうやら、勝負があったな。アキトよぉおおお》
センプウの背中に、鹿角と鶴翼の計4枚が命中する。
《やったぁ~。惑星ヒメジャノメでアキトと7日間デートなの~》
ゴウと千沙に対して、彩香は冷たい声音を奏で、切って捨てる。
『お宝屋とは、やはりバカなのですね』
『うむ、そのようだな。そして終わりだ。往け、アキト』
ジンの言葉に応えるよう、アキトは強烈なGの中で肺腑より声を絞り出し、勝利を宣言する。
「そうだっ! 終わりだぜ、翔太っ」
鹿角と鶴翼は手打鉦に傷一つ付けられず、センプウを更に加速させる結果に終わる。
《いやいや、僕の全力で・・・。あれあれ?》
《どうしたのだ、翔太っ》
七福神ロボ・モード2は、まったく動かない。
センプウの轟雷から放たれた無数のレーザービーム全てが、七福神ロボ・モード2を捉え撃墜判定が下ったのだ。
『アキトの勝ちだわ』
『お宝屋の身の程知らずが証明されたようですね』
《アキトくんとの7日間デートがぁ~》
『うむ、アキトの考えた切り札が有効だったようだな。翔太とやら、汝の健闘を称え、我が惑星ヒメジャノメで少し手解きしてやろう』
《いやいや、それじゃあ罰ゲームだよね?》
『汝らはヒメジャノメ星系で7日間、我らの下僕となったのだ』
『ジン様、ご褒美を与えてどうするのです?』
お宝屋とジン達が心温まる交流を深めている間、アキトは一言も言葉を発していないかった。
『どうしたのかしら? アキト、早く戻ってきなさい。少しは褒めてあげるわ』
《アキトくん、どうしたの~》
「・・・」
《アキトくん・・・、アキトくん・・・。アキトく~ん~》
千沙が泣きそうな声を出した。
『今、行くわ。待ってなさい』
風姫は、異常を察知し行動に移したのだった。