第5章-1 戦闘
『アキトくんが会いに来てくれたの。やったぁ~』
「いや、違う」
笑顔のまま、千沙の表情が固まった。
『僕たちが主役を演じるに相応しい舞台へと戻ってきたんだね。歓迎するよ、アキト。さあ、宝船という劇団で、ヒメジャノメ星系という舞台で、僕たちはスポットライトを浴び・・・』
踊るように語る翔太は何時までも語っていそうな雰囲気を醸し出している。アキトは途中で話を遮った。
「いや、それは違う」
翔太は左手を胸に、右手を開いて上に伸ばした不自然な態勢で固まった。
その隙に、ゴウが割り込む。
『宝船の待遇の方が良いと分かって、戻りたいと考えたのだな。アキトの気持ちはよく分かるぞ。一度は袂を分った我らだが、志を同じにする同士であることに変わりはない。アキトよ。俺は、お前を許すぞぉおおお』
ゴウという名の筋肉ダルマの癖に、素早い動きも出来るとは反則だぜ。
暑苦しさは、相変わらずだが・・・。
だから、アキトは冷たく言い放つ。
「いや、それは全く違う」
久しぶりにディスプレイ越しにみる宝3兄弟は、まともだった。だが、言ってる内容のバカらしさは、安定のお宝屋だが・・・。
「汝らに問おう。我が所業を阻む者か? それとも協力する者か?」
『ケースバイケースですよ~』
『臨機応変だね。なにせ人生は、どこで交錯するのか? どのような立場で相対するのか? まさに筋書きのない舞台に・・・』
ゴウが、翔太の前に体を割り込ませ
『お宝屋代表として問いに答えようぞ。いいかぁあー、俺たちは行き当たりばったりで往く。そもそも協力するもなにも、要請を受けていないし、契約もしていない』
ゴウのヤツ、ジン相手に言い切りやがったぜ。
バカか? いや、バカだな。
『だが、アキトは返してもらう』
「ダメね。アキトは私の下僕だわ」
「ちょっと待てや、2人と・・・」
その時ユキヒョウのディスプレイに、横座りしているスペースアンダー姿の千沙が大写しになった。
『あたしもアキトくんが望むなら、そのプレー受け入れてもいいよ・・・。だから、だから戻ってきて欲しいの・・・。お宝屋はアキトくんの家で、あたしたちは家族なのに・・・』
千沙の目から、涙が一滴零れ落ちる。
オレは複雑な表情で告げる。
「千沙・・・オレは解ったぜ・・・いや、見えてる」
お宝屋のカメラが、どうして映像をアップにしているのか理解した。
『なに?』
「楽屋裏が見えてんぜ」
様々な舞台装置があった。
まさに楽屋裏だった。
千沙の周囲の照明光度をゆっくり落とし、相手に気づかせない。
それと、涙を誘発する揮発性の刺激物を、気流に乗せてたんだろう。
『翔太、カメラの設定は?』
『いやいや、ゴウ兄が宝船の担当だよ』
『うむ、アキトよ。やり直しを要求するぞ』
「ジン様。滅ぼしましょう。せめて、あそこに映っている暑苦しい筋肉ダルマだけでも」
さっきから彩香のゴウに対する態度が、余りにも強硬だった。
何かあったのか? いや、あったんだろうなぁー。
『確かに俺はキミからの交際を断った。そこのジンにも、己が泥をかぶれば丸く収まるのならば、己の心を滅してでも行う。それが紳士というものだ、と教えられた。ならばキミからの誹謗中傷も甘受するともっ!』
ああ、絶望的にヤバイぜ。
賭けても良いが、アンドロイドの彩香が交際を申し込むことはない。絶対にワザと勘違いしてるうちに、頭の中で自分に都合の良いストーリーへと変換したに決まってる。
彩香さんの表情が凄いことになってる。
マジでゴウ殺されるかもな。
「ほう、良い度胸だ。汝らには教訓が必要らしい。実力差というものを骨の髄まで染み込むぐらい、じっくりたっぷり教えてやろう」
ジンが邪悪な笑みを浮かべている。
「ちょっ・・・」
ジンの話に口を挟もうとして、本日2度目の風姫の風によってアキトは吹き飛ばされた。
「感謝するが良い」
壁へと吹き飛ばされたアキトは、空中でもがくような無様を晒すことはなかった。
『うむ、それならばルールは、こちらで提示するぞ』
アキトは床に近い方の右脚の膝を曲げ、足裏を接地させる。右足を軸に体を捻り半回転、両手で床を捉え体が倒立に近い状態になった刹那、腕に力を加える。
壁に両足から着地、膝のバネで勢いを殺しきる。
充分にためた膝のバネの力で斜め上方向へと壁を蹴り、アキトは軽やかに床に着地した。
「殺す気かぁあぁあ?」
振り向きざま風姫に怒声で抗議すると、タイミング良くジンの台詞が聞こえた。
「よかろう」
「良くねぇー」
瞬時に反論するも、ゴウとの会話だと思い出しアキトは口を噤むんだ。
『1人対1人。兵器は宇宙船以外の実機を使用。攻撃の有効判定はお互いの戦略戦術コンピューターで実行。勝敗条件は、どちらかが行動不能、もしくは完全破壊』
「勝利者への報酬は・・・」
「船だ! 我輩は、あの船が欲しいぃいぃいいいい。あの船以外の報酬は、考えられないのだぁあぁあああ」
「ヘルさん。宝船がなくなったら、お宝屋は帰れなくなる」
このメンバーの中で、史帆が一番常識的らしい。
「我輩には関係ない」
知ってはいたが、ヘルに常識という文字は存在しない。
『お宝屋は、もちろんアキトを要求するぞ』
「オレはモノじゃねぇー。それにゴウ、船賭けてどうすんだ? トレジャーハンティングできなくなんぜ」
『いやいや、アキト。僕は負けないよ。主人公はゴウ兄に譲ったけど、脚本は僕が書いたのさ』
「ほう、大きくでたものだな」
「ジン様、賭けなど必要ありません。滅ぼしましょう」
『翔太、頑張ってね。あたしのアキトくんを取り戻して欲しいの』
「アキトは私の下僕だわ。誰にも渡さないからねっ」
千沙のブラウンの瞳と、風姫の碧眼が交錯し、何やら妖しい雰囲気を醸し出している。
「そういや風姫。なんでオレを吹っ飛ばした」
「ジンの戦いに水を差そうなんて、不遜すぎるわ」
「ホントは?」
「愉しくなりそうなのに止めようだなんて、あり得ない行為だわ」
射貫くような視線を千沙から外さずに、凛とした声で風姫は明るく話す。
風姫に対抗するよう千沙も視線を外さない。しかし、既に言葉もでないほど必死なようだった。みんなを信じようとする優しく綺麗な心を持つ千沙には、ルリタテハの破壊魔の相手は厳しいのだろう。
「ヘル、何処に行くのだ?」
「もう我慢できん。我輩の船にするため、乗り込むのだぁあぁああああああ」
全員が思い思いに話始め、もう収拾がつかない状況に陥っていた。
話し合いという名の雑談が2時間以上に亘って行われ、漸くアキトVS翔太で勝負する事が決まった。
そして報酬は、ヒメジャノメ星系に到着してから7日間のお手伝い券・・・勝った方は負けた方に、仕事を協力させられる権利となったのだ。
話し合い終了から、更に2時間後。
アキトVS翔太の模擬戦闘開始まで、15分後に迫っていた。
ジンに装備の提供を承諾させ、換装にヘルを手伝わせ、ようやくセンプウの出撃準備が整った。センプウのコクピットで、アキトは立ったままの状態で体を固定された。クールメットを被りコクピットを閉じる。機体内部の全面がディスプレイになり、情報はクールメットに半透明で映し出された。
模擬戦闘モードへと設定変更し、アキトはユキヒョウの戦略戦術コンピューターを選択する。お互いの戦略戦術コンピューターが、命中及び損害を判定する。
しかしジンは、お互いの戦略戦術コンピューターでも判定するダブルチェックが必要だなと宣い。そこにジンの性格の悪さというか、強かさが窺える。
損害判定に???要な七福神ロボの武器のスペックのデータを、お宝屋から提供させて???いて、ジンの方は通常のレーザービームライフル”雷”の武器スペックを渡したのだった。
演習モードへと切り替えた瞬間、風姫の凛とした声が鼓膜に響く。
《1対1のはずだわ。なんで7機も布陣しているのかしら? お宝屋とは言葉を違える卑怯なトレジャーハンティングユニットなのかしら?》
演習モードと模擬戦闘モードとの最大の違いは、戦闘相手とも会話が可能になることだ。つまり敵陣営との通信が繋がった状態での戦闘である。
『俺は、1人対1人と言ったぞ。何を問題としているのか、まったく理解できぬなぁ』
『私はセンプウででるわ。ジンも出撃し・・・』
『風姫よ、落ち着くが良い。アキトが話していたが、お宝屋の次男は7機を1人で操縦できるそうだ』
《そうそう。そしてアキトは、僕に勝ったことがないんだよね》
「正しい説明をしろよ、翔太。4機相手までならオレの方が強い」
《いやいや、その場合でも僕の勝率は、30%ぐらいあったよね。それにさ、僕が5機を操縦したら、勝率は100%だったかな》
「そん時は、3機撃墜したぜ」
『それではダメでしょう。お宝屋は7機なんですよ』
彩香は、即座にダメ出しした。
『最新鋭のサムライでジンの訓練を受け、死線すらも乗り越えてきたわ・・・。だから・・・、やっぱり無理かしら? 無理そうね』
風姫は冷静に検討し、あっさりと結論を出した。
戦意が萎んでいくぜ。味方ならオレの戦意を高揚させたり、応援するべきだ。
「ふぅ・・・出撃するぜ」
《頑張ってぇ~。アキトく~ん》
オレを応援するのは、敵のはずの千沙だけかよ。
「勝ってもイイのか、千沙?」
ゆっくりとした口調だが、即座に答える。
《う~ん、それは困る~》
そうだよなぁ・・・。
ホントの味方が欲しいぜ。
ユキヒョウの格納庫のハッチが開き、アキトの乗るセンプウが格納庫から出撃した。
4本のオプションスラスターを装備し機動力を上げ、両手に幽黒レーザービームライフル”轟雷”を持つ。そして背中に手打鉦を装備している。これで背後からのレーザーなら防げる。
しかし手打鉦の所為で、背中のメインエンジンが使用できなくなる。ほぼ機動力に変化はなく、的が大きくなる分不利になる。
『7機を1人で操縦するなんて、非常識』
史帆の呟きに風姫は思考を刺激された。
『ジン。お宝屋はどうやって、1人で7機を同時に操縦するのかしら?』
《僕はマルチアジャスターなのさ》
翔太は風姫の疑問に対して間髪入れずに、核心から少しずらした答えを返した。
『聞いたことないわ』
《ふっはっはっははーーー。翔太以外には存在しないだろうな。これぞ、お宝屋の血の成せる業ぞ》
《いやいや、ゴウ兄。存在するかも知れないし、これは遺伝でもないからさ》
彩香は丁寧な口調であるが、猜疑心一杯の声音で断定するように訊く。
『本当は戦術コンピューターが操縦するのではないでしょうか?』
『なんだとぉおおおーーー。それでは、すでにお宝屋は負けているのだなぁあ。我輩を宝船に乗船させ、全ての技術を晒すのだぁあああああ』
「うっさいぜ、ヘル。翔太は7機でも10機でも戦闘可能だ。ただ単に、目的地へと編隊を組んで進むだけなら、100機でも200機でも操縦できる特殊人間なんだ」
『脳の改造手術かしら?』
『薬?』
『お宝屋という、人外の血の成せる業でしょう』
『おおぉおぉおおおおーーー。なんと異能の存在ということなのかぁああああ。是非、我輩に解析させて欲しいぃいいい。いや、絶対に解析するぅううううーーー』
《な、んだと・・・。そうだったのか、翔太。いつの間に異能を手に入れたんだ?》
《知らなかった・・・》
《とうとう・・・バレてしまったよ、アキト。これは、アキトと2人だけの秘密だったんだ。アキトと僕は、ある惑星で禁断の大蛇の肉を口にし、覚醒したんだよ。覚醒には個人差があってね。僕はルーラーリングからの適合率が向上し、アキトはエンジニアとして才能が著しく向上したんだ。僕は向上した適合率を滝行や瞑想などの修行により、マルチアジャストというスキルにまで昇華させたのさ》
「もっともらしいウソを吐くなっ! オレは大蛇に丸飲みされた上、その肉で食中毒になったんだ。トレジャーハンティングで1日に2度死にそうになったのは、初めてだったぜ」
《えっ・・・トレジャーハンティング以外では、1日に2度以上死にそうになったの?》
「ルリタテハの踊る巨大爆薬庫と一緒にいるんだ。どうやっ・・・」
『素晴らしいぃいいい。なんと素晴らしいぃいいいーーー。その大蛇の肉は残ってないのか? 分析してみせる。きっと精神感応ダークマター”オリハルコン”が脳に滞留しているに違いない。おおぉおおお、我輩としたことがぁあああーー。アキトの脳というサンプルがあるではないか、早速解析せねばなら・・・』
ヘルの妄言を千沙が遮る。
《アキトくんは、実験動物じゃないのっ!》
《そんなことは、絶対に許さんぞ。俺が貴様を葬り去ってやる》
ゴウは激昂し、声を荒げた。
『これ以上、迷走しないようにっ!』
厳しい口調で、彩香は全員を黙らせた。
センプウが戦闘宙域に到着し、アキトは戦闘開始準備を整えた。
翔太と同様の特殊人間と誤解されたままでは堪らないので、風姫たちに事実を教える事にした。
「マルチアジャストは、大蛇の肉を食べる前から持っている翔太のスキルだぜ」
《良かった良かった、どうやら誤解は解けたようだね・・・。そうそう、僕はいたって普通の人間さ》
『いい加減にしてくれないかしら。不愉快だわ、面白屋劇団さん。さっさと勝負を開始しなさい。アキトに勝てないから開始を引き延ばしてるのかしら?』
《あれあれ、さっきは”無理そうかしら”って言ってたよね?》
「御託は、いらねーぜ、翔太。戦闘開始だっ!」
センプウのオプションスラスターを全開にし、宝船へと針路をとり一直線に加速する。
《油断するな、翔太よ。アキトは、サムライシリーズのセンプウを操縦しているぞ》
《了解だよ》
翔太は短く返答した。
それは、七福神ロボのセミコントロールマルチアジャストの影響である。流石に7機を操縦し、戦闘状態となっては、いつもの軽口を叩く余裕がないのだろう。
「ゴウ。アドバイスは反則だぜ」
《アキトくん、このぐらいは応援のうちだよ~》
『まったくだ。汝は我の指導を受けたのだ。そのぐらい叩き伏せてみせよ、アキト。良いか翔太とやら、センプウの背中に装備した手打鉦は、宇宙戦艦の主砲ですら弾き返す』
「ジィィィィーーンーー。なんてこと、敵に教えてんだぁああああ?」
七福神ロボは、半球陣の構えで前進してくる。
半球陣の底を”福禄寿”と”寿老人”で護って中央突破を防ぎ、上下左右に展開した”毘沙門天”、”弁才天”、”恵比須”、”布袋”、”大黒天”で攻撃を仕掛けるつもりか?
センプウを包み込みたいのが、見え見えだぜ。
そう1機対7機では、半球陣への対抗策手段が全くない。
翔太の才能”マルチアジャスト”により、瞬時にマシンと適合する。1機あたりコンマ数秒だけコントロールして、次の機体を操縦する。戦場を様々な角度から把握できる。
1人が7機を操縦するため、コミュニケーションせずとも連携した攻撃・防御が可能なのだ。
そしてオレは、惑星コムラサキでの七福神ロボの戦闘を知ってるぜ。ユキヒョウに残っていた戦闘記録から、コウゲイシの性能を把握している。その性能を加味したとしても、戦闘用のセンプウと、作業用のコウゲイシでは戦闘力に差がありすぎる。
・・・とでもアキトは考えているかな?
いやいや、いやいや。新造七福神ロボは、以前とは比較にならない程の戦闘力を持っているからね。もはや、人型兵器さ。
さてさて、センプウの攻撃力と、圧倒的な機動力を活かして中央突破するか? それとも、半球陣に包み込まれないようにし、局所的優位をつくりだす位置取りで、全機を削りきるつもりか?
安全策は、半球陣に包み込まれないようにすること・・・。
いやいやアキトの好みと、戦闘力の差を勘違いしていることから想像するに、中央突破だね。
そうそう。アキトなら、これ一択に決まってるさ。
アキトが宝船に乗船してた頃、何度も模擬戦闘をしたけどね。その時に良く使った戦法で応じれば、七福神ロボの戦闘力を誤認識しやすいだろうさ。
アキトは福禄寿と寿老人の真実の姿を知ったけど、防御専用のコウゲイシだったと認識してるよね。そのまま巧く誤解させるには、福禄寿と寿老人を惑星コムラサキでの戦闘と同じ様に僕が動かせばイイ。これで、二重三重の錯覚からなる罠の出来上がりだよ。
鹿と合体した”寿老人”は宝船の帆柱を両手で持ち、鹿の口に団扇と巻物をつけた杖が突きでている。
杖に結びついていた経巻の端を鶴に咥えさせ、”福禄寿”は巻物を広げて防御壁とする。
いずれも防御用の装備として使うさ・・・最初の内はね。
帆柱と杖はレーザービーム砲なんだよ、アキト。
ああ、そうそう。最高の舞台で、悲劇のヒーローを演じさせてあげよう。中央突破を防ぎきり、半球陣を ”大黒天”が米俵ジェットで、いつものように包囲してあげるよ。それで最高の舞台の完成さ。
舌の良く回る翔太だが、セミコントロールマルチアジャストの所為で、口を開く余裕はない。しかし舞台を調えることには余念がない。それが、翔太だった。
リモートコントロールで次々と機体を変更して操縦する為に、翔太は極限まで集中力を高めている。翔太は真剣な眼差しを7つのディスプレイに向け、ルーラーリングに全神経を注いでいるはずだぜ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。全力で勝機をつかみに行く。
翔太は7機を操り、戦術を駆使して戦うつもりだろうが、作戦の読み合いなら負けはしない。そして操縦技術の差は、機体性能と特訓の成果で埋まるはずだぜ。
半球陣に突入する前に、削れるだけ削るぜ。
アキトの駆るセンプウは、大黒天に狙い澄まし、轟雷の一撃で撃墜したのだ。
《バカな・・・あれがサムライの・・・軍用の武装の性能だというのか》
ゴウの呻きと同時に、弁才天にも撃墜判定が下った。アキトの先制攻撃が功を奏したのだ。
弁才天には、もう片方の轟雷を連射モードにして牽制射撃し、往く手を阻んだ。全8発の誘導ミサイルの模擬弾を一斉発射したのだった。この模擬ミサイル弾は、スラスターの横に装備できるオプションからアキトが自分で選択していた。
『アキトは、相手の手の内を知り尽くしているようだな』
《それは俺らも一緒だぞ。そして七福神ロボは、5機も残っているのだ。それに比べてアキトの武装はどうだ? 雷2挺ではないのか? 翔太の圧倒的才能の前に、散り去れ、アキトッ!》
《散り去ったら駄目だよ。ゴウにぃ~》
《そうか・・・それは、そうだな。良し往け、翔太よ。アキトを葬り去ってしまえっ!》
葬り去られてたまるか? こっちは惑星シュテファンで死にそうな目にまであって鍛えられてるんだぜ。
《葬り去ったら、もっと駄目だよぉ~》
『アキト、さっさと面白屋劇団を叩きのめすのよっ! 手加減は必要ないわ』
「まったく風の妖精姫は、物騒だよな。そんなんだからルリタテハの破壊魔なんて、2つ名をつけられんだぜ」
七福神ロボが5機に減ったからといって、楽になる訳じゃないんだぜ。翔太のマルチアジャストで怖いのは、瞬時にマシンに適合するとこじゃない。マシンの隅々まで把握し、性能を限界まで引き出せるところにある。
4機ぐらいまでなら、翔太の動きを予測して作戦を立てられる。5機以上だとパラメータが多くなりすぎて、まったく読めなくなる。
『失礼だわ。アキトの分際でっ!』
『アキトの分際で??』
史帆だけが疑問をもってくれたようだった。
『アキトのルビは下僕だわ』
『・・・なるほど』
納得するのかよっ!
心の中で突っ込んでおいた。
オレには、口を開く余裕がなくなっていたからだ。
新造七福神ロボの性能は凄まじく、牽制射撃と回避で手一杯になっていた。福禄寿と寿老人の防御力が高く、中央突破は予想通り不可能だった。その所為で、今や上左右前からの攻撃にさらされている。
上から毘沙門天のレーザービームが降り注ぎ、左から恵比須の釣り竿レールガンの乱れ撃ち、右からは布袋が堪忍袋の口を広げミサイル攻撃を受ける。後退しながら、雷の性能で判定されている2挺の轟雷で毘沙門天を集中的に攻撃する。
無論、中央突破が目的と思わせる為であり、それが、いつもの作戦なのだ。
突破できれば良し、できなければ翔太に同士討ちさせる為に・・・。
だが、今回は勝手が違った。
福禄寿と寿老人に、強力な攻撃手段があったからだ。スナイパー用の大型レーザービームライフルを持っていたのだ。
このため牽制射撃と回避しかできず、後退を余儀なくされていた。
『ジン様の特訓を受けているにも関わらず、この体たらく・・・。訓練を倍以上に致しましょう。わたくしは、最近アキトに甘くしていたと猛省しています』
どこがだっ?
《あたしならアキトくんを、すっっっごく甘やかしてあげるから~。いつでも、お宝屋に戻ってきていいよぉ~》
千沙は甲斐甲斐しく世話をしてくれる。甘やかしてるつもりかも知れないが、緊張を解くとオレの命が危険になる。
『彩香、大丈夫だわ。アキトは負けたりしないから・・・。負けたら、ジンは訓練量を3倍にはするわ。それと私と彩香で、アキトに対人戦闘訓練をしてあげましょう』
『それは良い考えです、お嬢様。それで行きましょう。わたくしは早速対人戦闘訓練のメニューを検討しますね』
彩香の声は弾み、とても嬉しそうである。
「色々とよぉ、気楽に言ってくれるぜ」
オレはジンの教え通り、全索表シスで翔太5機の配置を確認しつつ、正面ディスプレイも視界入れ、サムライシリーズ2つの視覚情報を交互にみる。詳細情報はクールメットに半透明で映し出されている。
コウゲイシの限られた情報だけだったなら、既に負けていただろう。
楕円軌道を基本にし、回避機動を楽に取れるよう動く。命中しそうでいて、全く命中する気配がない。
翔太ぁあああーーー。
今日こそ、1機対7機で勝たせてもらうぜっ!
アキトの魂の叫びは、音声として口からはでなかった。もし音声になっていたら、ユキヒョウ乗組員の少なくとも3人は、1機対5機でも勝利したことないとのツッコミを入れただろう。
もちろん3人とは、風姫、ジン、彩香である。