第三話 VII
「どこに行ったのよ………」
すっかり日が落ちた住宅街で、天姫は一人途方に暮れていた。紅白の家まで来たはいいものの、本人が不在だったらしい。
「流石に家主がいない家に入るのはまずいよね………」
「人の家の前で辛気臭い顔してるのはどこの誰でしょうなぁ」
「え?」
天姫からすれば聞き慣れた、そして絶妙に腹の立つ声に顔をあげる。そこには天姫が探していた本人、紅白がそこにいた。
「コウ!どこに行ってたのよ!」
「どこに行こうが俺の勝手だろうが」
「それは、そうだけど…」
見るからにシュンとする天姫。今は、紅白に強く言うことは出来そうにない。
「ほら、どけどけー。そこのけそこのけ家主が通るってな」
紅白は、天姫を気にも留めず、その横を通り家の門を開ける。
「あ、あの!」
「あ?」
門をくぐったところで、天姫が紅白に声をかける。それに対し、紅白は半身で振り返った。
「その、ごめんなさい。色々と連れ回して…。もう、しないから………」
深々と頭を下げる天姫。いつもとは完全に力関係が逆となってしまっている。
どれほどの時間が経っただろうか。
長いような短いような。
天姫は一向に顔をあげず、紅白はそんな天姫を見つめるだけ。
「ったく。お前の身に何か起きてみろ………」
「え?」
ようやく口を開いた紅白から出てきた思わぬ言葉に、顔をあげて目を丸くする天姫。その心臓は、どんどん早く動いていく。
「俺が蓮ちゃんに怒られる」
「……………」
しかし、その言葉の先は、予想をはるかに下回るものだった。
「なんだよその眼は」
「別にぃ。やっぱりコウだなと思っただけ」
「はぁ?」
すっかり収まってしまった心臓に、どこか投げやりになる天姫。その表情には、先程までの申し訳なさは無くなっていた。
「あーあ。私だけバカみたい。もういい。帰る」
「おう、帰れ帰れ」
「そういうとこよ」
しっし、と手を振る嫌味ったらしい紅白に呆れつつも、いつものように重力をかけるわけでなく、おとなしく帰っていく天姫。
そんな天姫のことを、紅白は姿が見えなくなるまで見つめていた。