第二十九話 神殿会議
クラウス辺境伯が、長い後ろ髪を引っ張られながら、領地に戻っていってから、2週間が経過した。
ヤスは、一つの仕組みをドワーフのイワンと構築していた。
殆どは、マルスの仕事だったのだが、必要になって構築をおこなって、本日テストとして使うことにした。
『おぉヤス。どうだ?』
「お!感度もいいな。問題はないな」
『これはいいな。工房にいながら注文が出来る』
「イワン。会議用だぞ?注文に使うのは控えろよ」
『解っている。たまにならいいだろう?』
『ヤスさん。イワンさん。こちらも、問題はありません』
サンドラとドーリスが確認を行っている。
『トーアフードドルフのルーサだ。こちらも問題はない』
『お初にお目にかかります。神殿の主様。
『同じく、お初にお目にかかります。神殿の主様。
「ヤスだ。エアハルト。ヴェスト。これから頼むな」
実際には、魔通信機での会話は行っていた。
しかし、実際に顔を見るのは初めてだ。実際は、マルス経由で確認はしているので、本人確認を含めて終わらせてある。
『はっ。ヤス様。よろしくお願いいたします』
『はい。ヤス様』
エアハルトもヴェストも、ルーサからの推薦だ。
ヤスが、思いつきで作った集積所を任せる人材がいないかと、皆に相談したときに、ルーサから元々は商人をしていたが、リップル子爵家と息のかかった商人に家を潰された者だと推薦を受けた。家族や従業員はレッチュ領に逃がして、自分はスラムでルーサを補佐していたのだと教えられた。
神殿に属している彼らが、ヤスを含めての”情報交換をしたい”と申請してきたのを受けて、ヤスが”ネット会議”を思い出したのだ。魔通信機を応用して、5フレーム程度の動画をサーバになっている神殿に送って共有出来るようにしたのだ。
主な、報告は関所の村であるアシュリから行われる。
「ルーサ。それで?」
『はい。リップル子爵家は、帝国への出兵どころではなくなっているようです』
「ほぉ・・・。なぜだろうな?」
『ヤスさん。お父様からも同じ報告が上がってきています。ただ違うのは、エアハルトさんの所でしょうか?』
『はい。サンドラ様。ヤス様。ローンロットには、難民と孤児が集まり始めています』
「難民だけじゃないのだよな?」
『はい。孤児です。難民もいますが、多くはありません。マルス様の審査が通れば、大人でも雇い入れると通達しております』
「わかった。ヴェストがやりやすいようにしてくれ、割符には問題は出ていないか?」
『まだ始めたばかりですので、なんともいえません』
「サンドラ。バスの運行計画はどうなっている?」
『はい。ルーサさんとヴェストさんとエアハルトさんと話したのですが、まずはアシュリまでが妥当だろうと思います』
「わかった。アシュリまで問題が出ないように計画してくれ、ローンロットまで何日かおきに運行出来ないか考えてくれ、難民と孤児が多いと大変だろう。ルーサ。まだ余裕はあるよな?」
『アシュリですか?ユーラットですか?』
「アシュリだな」
『問題はありません。ただ、ヤス。できるだけ、神殿で受け入れて欲しい』
「そうだよな。サンドラ、どうだ?」
『ルーサさん。冒険者を中心に、アシュリに移動してもらおうかと思っていますがどうでしょうか?』
サンドラに変わって、ドーリスが現在、ギルドが中心になって動かしている計画を説明する。
『そうだな。ただ、アシュリは、神殿ほど稼げないからな・・・』
『大丈夫です。そのためのバスの運行です』
ルーサは考えてから、メリットとして、神殿の広場では家族ものを中心になってしまう。ヤスが作った住居の基準だから。宿屋の数も絶対的に足りない。正確には、宿屋を運営出来る人数が足りないのだ。急激に人が増やせない事情があるので、しょうがないことだ。その点、アシュリなら人が増えても問題は食料だけだが、神殿の森があり、海に出られる場所も作ったので、ある程度の食料が確保出来る。
『ドーリス殿。承諾した。ヤス。アシュリの住居や宿が足りなくなる前に建築を頼む』
「わかった。あと、ルーサ。エアハルトの所から流れてくる難民で、戦えそうな者を、トーアヴァルデに派遣してくれ、マルスに試算させたが、最低で100。できたら、300は必要と言われた。予備兵力で同数を確保する必要があるが、眷属たちを使えば予備兵力は必要ないと言われた」
『ヤス様。兵力ですが、私も試算してみました。今の武器防具と魔道具の配置から、200程度が妥当ではないでしょうか?』
疑問形になっているのを、ヤスは感じた。
「どうした?」
『イワン様。武器防具を、あと160人分と予備をいただくのは可能ですか?魔道具も同じです。あと、ヤス様。関所の森での訓練の許可をお願いします』
『武器防具は、正式な物ができるまでは、二級品で我慢しろ。でき次第、渡す。魔道具は、欲しい物をリストアップしておいてくれ、工房は酒の仕込みで忙しい』
ドワーフはドワーフということだ。
二級品の武器防具とイワンが言っているが、王都で売っている最高級品と同等以上の品質を持っている。十分に使える物だ。
『感謝いたします。魔道具は、必要になりそうな物をリストアップいたします』
『わかった』
「イワン。売らない魔道具も、ルーサとエアハルトとヴェストに送っていいよな?」
『大丈夫だ』
「ルーサとエアハルトとヴェストで、魔道具のテストや機能調整をしてくれ、量産する必要が無いものを作ってもしょうがないだろう」
『わかった』『かしこまりました』『はい。受諾いたします』
「人、物、金は、足りているか?」
『ヤス。工房を広げてくれ』
「またか?今度は?」
『仲間が酒精の話を聞きつけて集まってきた。人数は、20程度だ。住む場所は必要ない。あっ。女のドワーフも増えてきた』
「わかった」
『ヤスさん。サンドラですが、イワンさん。住民の一部から、ドワーフ族に苦情が出ています。酒精を公衆浴場に持ち込まないで欲しいという話です』
「イワン?」
『すまん。徹底していたのだが、ワインは、水と同じという感覚が抜けなくて・・・』
「そうか・・・。イワン。工房に隣接する形で、小さめの公衆浴場を作るか?」
『いいのか?』
「サンドラ。どう思う?酒盛りが出来る公衆浴場で、子供は入浴禁止。工房と迷宮区から行けるようにするのは?」
『儂も、それでよい。ヤス。是非作ってくれ、いちいち表に出て、浴場に行くのは面倒だ。それに、冒険者となら浴場で武器や防具に関して飲みながら話が出来る』
『賛成です。特に、迷宮区から行けるようにしてくれると助かります。汗臭いままギルドに来るので・・・』
「わかった。それから、ドーリス。商業ギルドから来ていた申請は、許可する。ただし、迷宮区の広場だけだ。神殿の広場は住民だけだ」
『ありがとうございます。商業ギルドに通達します。税は?』
「任せる。ゼロでもいいぞ?」
『はい』
『ヤスさん。領都の宿屋が神殿にも宿屋を作りたいと言ってきていますが?』
「神殿内部は却下だ。アシュリやローンロットは許可できる。ルーサの所は、宿屋は足りているよな?」
『そうだな』『ヤス様。ローンロットでは、宿屋が足りていません。それから、言葉が悪いのですが、できましたら、高級宿屋や貴族用の宿の建築する許可を頂きたい』
「サンドラ。頼めるか?」
『わかりました』
「餌が必要なら、迷宮区の広場とアシュリなら宿屋の建築を認めてもいい」
『ありがとうございます。十分な餌だと思います』
「旦那様。サンドラ様のご提案ですが、以前お話をしていました、別荘地を作ってみてはどうでしょうか?最低、3名の常駐を認めれば、貴族や豪商が競って別荘を建築すると思われます」
「サンドラ。どう思う?他の者も意見をくれ」
『概ね賛成ですが、どこに別荘を作らせるのですか?』
「ん?あぁそうか、場所は二箇所だな。関所の森の湖近くと、神殿の中に作る階層だな」
『ヤス。関所の森はわかるが、神殿の中というのは、迷宮区のような場所か?大丈夫なのか?』
「ルーサの心配はわかるが、西門を使おうと思う」
『西門?』
ヤスは、皆にセバスと考えていた計画を披露する。
関所の森は、誰でも別荘を作る許可を出す。神殿の中にも別荘を持ちたいと言い出す貴族や商人が出てくるだろう。そのために、閉じられている西門をオープンにする。西門の方向には、施設はまだ作られていない。神殿に入る門を設置して、簡単な審査だけで通過できるようにする。別荘区と名付ける階層を作る。別荘区には、西門から入った先にある門からしか侵入できない。特別な場所だという印象をもたせる。西門なので、アシュリを通過する必要もなく、到着できる。条件として、人を常駐させることを条件として提示する。常駐する人間は神殿の審査を通過する必要があるが、買い物の都合上、必須の条件となる。
「反対意見がなければ、準備を始める」
誰からも反対意見がなかったので、ヤスは別荘の作成と道の整備をマルスに指示した。
「次は、ルーサが集めてきた、噂に関しての検証だな。リップル子爵家と帝国の一部の貴族が相当追い詰められているらしいじゃないか?」