タクラ家の新たな光景 その1
セツブン関連商品の予約がすごいことになっているコンビニおもてなしですが、やはり『厄災魔獣を倒した店長のいる店の商品』ってのがインパクト大きいわけです。
実際に厄災魔獣を一網打尽にしたのはスアなんですけど、そのスアが目立ちたくないっていうもんですから、勘違いされたままの状態を放置しているわけなんですけど、そのおかげで予約がひっきりなしなわけです、はい。
で、このセツブン商品の準備は本店のバイト、魔王ビナスさんが受け持ってくれているんですけど……例によってすごい勢いで作業してくれているもんですから、万全の状態でちゃくちゃくと準備が出来ているわけです、はい。
で、実際に厄災魔獣を討伐したスアですが、僕はフと思い出してですねスアに聞いてみました。
「そう言えば、スアってばあの厄災魔獣が出現した日って、どこに薬草を採りに行ってたんだい?」
僕がそう質問すると、スアは
「……ドゴログマ、よ」
そう言いました。
「ドゴログマ?」
「……そう、ドゴログマ」
そう繰り返すスア……ですが、僕はそんな名前当然聞いたことがありません。
なんか、僕が今住んでいる世界とは別の世界らしいってのは聞いてましたけど……
「……あの、ね……このパルマ世界とは別の……神界の下部にある世界、なの」
そういうスア。
で、スアによると、このドゴログマってとこにはですね、色々な世界に存在するやっかいな魔獣達を神界に住んでいる神界人達が捕縛し、そこに閉じ込めているんだとか。
「……神界人でも、倒すのが困難な、魔獣がね、いるの……」
「そんなとこ行って、大丈夫なのかい?」
僕が心底心配しながらそう言うと、スアは研究室の壁にかけてあるお出かけ用の尖り帽子を指さしました。
その帽子には、虫除けらしい香草がくくりつけられたままになっているんですが、
「……あの香草、魔獣よけ、よ。とても強力」
そう言ってにっこり笑うスア。
……まぁ、スアがそう言うのならそうなんだろうな、とは思いますけど……
「とにかく、スアは身重なんだしさ、くれぐれも無理はしないでね」
僕が本気心配そうな表情でそう言うと、スアは
「……うん、わかった」
そう言って頷いてくれました。
ちなみに、そのドゴログマですけど、魔獣しか生息していない世界らしく、そのため貴重な薬草などが原種のまま残っている貴重な世界なんだとか。
……っていうか、神界とか、その下部世界とか言われても、まったくピンとこないんですけどね。
……その反面、スアが『神様の世界に行って来た、の』って言っても、スアならそれくらい出来ちゃうよね、って違和感なく思えてしまうわけなんですけどね。
で、そんなスアですが、そのドゴログマって世界から持ち帰った薬草なんかを、ある物は日陰干しし、ある物は直射日光で乾燥させ、と、せっせせっせと作業しています。
で、そんなスアに気がついた、コンビニおもてなし本店の店長補佐のブリリアンがですね
「スア様! お命じくださればこのブリリアン、一番弟子として馬車馬のように働きますわ」
そう言いながらスアの元に駆け寄っていくんですけど、その都度スアは、
「……私1人で十分……それに、弟子じゃない」
そう言い放ち続けています。
で・す・が
当のブリリアンはといいますと、
「このブリリアン、生涯に師匠と決めたお方はスア様ただ一人でございます。スア様に認められようと認められてなかろうと、あなたの一番弟子に違いはありません!」
と、なんかよくわからない理屈を口にしながら、スアの元に駆け寄り続けている次第です。
で、散々スアに怒られたあげく、
「……旦那様の、店のお手伝いも出来ないような人、相手にしない、よ」
いつも最後はスアにそう言われてですね、渋々な様子でコンビニおもてなしの仕事に戻ってくるわけです。
でも、ブリリアンのえらいところは、最終的には渋々で戻って来たにもかかわらず、コンビニおもてなしの業務を再開すると満面の笑みを浮かべながら接客をこなしてくれているんです。
ある意味、プロだなぁ、と、この点に関しては僕も感心しきりなわけです、はい。
で、そんなブリリアンとは対象的に、スアの側でそういった薬草なんかを運ぶ手伝いをすることを許されているのがリョータです。
最近、普通に歩けるようになっただけでなく、思念波で会話することも出来るようになったリョータはですね、スアとあれこれお話しながら薬草の処理のお手伝いをしています。
お互いに思念波で会話しているものですから、端から見ていると研究机に向かって薬草を処理しているスアの横で、リョータが薬草抱えて右往左往しているだけにしか見えないんですけどね。
でも、なんかそんな光景がすごく微笑ましいといいますか、見ててなんか笑顔になれちゃうわけです、はい。
まだ産まれて間もないリョータですけど、すでに簡単な転移魔法を使用出来たり、思念波を使用出来たり、と、スアの魔法能力を受け継いでいるみたいですし、こりゃ将来がすごく楽しみだなぁ、と思う僕なんですけど、そんなことを思っている僕に、リョータはにっこり微笑んで、
『パパの期待に応えられるように頑張ります』
そう、思念波を送ってくれました。
その意気込みは頼もしく感じますけど、僕としてはワンパクでもいいから逞しく育ってほしいと思うわけです……で、なんかそんな事を考えていたら、今日の晩ご飯はハンバーグにしなきゃいけないような気がした僕だったりします。
そんな感じで、リョータが毎日スアのお手伝いをするようになったわけですが、その一方でリョータの姉であるパラナミオはと言いますと、今まで以上に僕にべったりになっています。
スアのお手伝いをリョータと一緒にすることもあるのですが、最近は率先してコンビニおもてなしの手伝いをしに来てくれています。
店の掃除や品物の並べ直しをしながら、店に入ってきたお客様に向かって元気な笑顔と元気な声で
「いらっしゃいませ!」
って言う姿は、あっと言う間にコンビニおもてなしの名物になり始めていてですね、その笑顔と挨拶を体感するためだけに、テトテ集落の皆さんが店に大挙してやって来たこともあったりして……
で、そんなパラナミオ用に制服も準備してあげたんですけど、それを手にしたパラナミオは
「パパ、ありがとうございます! パパのお店のお手伝いを今まで以上にがんばります!」
すっごく嬉しそうにその制服を抱きしめていました。
で、最初の頃はその制服を着て寝たりしてたパラナミオなんですよね。
しかしまぁ、人当たりが良くて、みんなに分け隔て無く応対出来るパラナミオは、案外接客に向いているのかも、と思うんですけど……でもまぁ、僕としてはパラナミオにはですね、リョータ同様ワンパクでもいいから逞しく育ってほしいと思っているわけです……で、そんなことを考えると、何故かハンバーグを作らないと、と思ってしまうのは何故なんでしょうねぇ……
ちなみに、そんなパラナミオはいまだに僕と一緒にお風呂に入っています。
……と、いいますか、スアもリョータも一緒にお風呂に入っているんですけどね。
以前は、コンビニおもてなしの2階、コンビニおもてなし寮の皆が使用している共同のお風呂~ララコンベ温泉水引き込み~に入っていたんですけど、最近はスアが巨木の家に、お風呂の部屋の実を増設してですね、僕達はそこを使用しています。
で、そこにもララコンベから引き込んでいる温泉水を使用しているわけですけど、
「パパ、背中を洗ってあげます!」
そう言って笑顔で言ってくれるパラナミオ。
「パパ、一緒に湯船に入っていいですか?」
そう言ってくれるパラナミオ。
なんか、もうその笑顔は天使にしか見えないわけですけど……果たしていつまでこうして一緒にお風呂に入ってくれるんでしょうかねぇ……とはいえ、喜んで一緒に入ってくれる今、この時を僕は一秒たりとも無駄にはしたくない、そう思っている次第です。
で、家族皆でお風呂に入っている時、最近気になっているのですが……スアのお腹がぽっこり出て来ているんですよ。
確かに妊娠しているわけですから、お腹がぽっこりしてもおかしくはありません。
ですが、リョータを妊娠していた際のスアってば、ほとんど体型に変化がないまま出産しちゃいましたから、それを思うと、このぽっこりお腹はちょっと意外な気が……
で、僕がそんなことを思っていると、スアは湯船の中で自分のお腹をさすりながら言いました。
「……2人入っているし、ね」
と。
……え? スア、今、なんて?