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どうなる? 逃げたあいつとAVデビュー作!

 大の大人である警視庁捜査一課の刑事4、5人が折り重なって倒れている上に、さらに冴渡刑事が落ちてきた。
「何してるお前たち! やつはどこだ!?」
「すいません……逃げられました」
「逃げただとぉ!」
「忍者みたいなやつで……」
「何を弱気な事を言うんだ! アクメ自転車ですぐ追うぞ!」
 冴渡が指さした先には、ジン子が通勤に使ったアクメ自転車が駐車してあった。サドルにはバイブが突き立っている。

 いったい誰があれに乗るのだ?
 その場にいる刑事たち全員がそれを思った。
 冴渡のセリフには、『俺が』もしくは『誰が』という主語はなかった。

「何を弱気な事を言うんだ! アクメ自転車ですぐ追うぞ!」

 ふわっと聞くと冴渡が誰かに指示してるようにも、自分が乗って追いかけるようにも聞こえる。
 当の冴渡は、ズボンについた土を払い、スマホを出してアプリを開けたり閉じたりしている。
 
 よくよく考えると、
「何を弱気な事を言うんだ! アクメ自転車ですぐ追うぞ!」
 は、明らかに自分が乗るつもりで言ったのではないだろうか?
 誰かに指示するなら、
「何を弱気な事を言うんだ! アクメ自転車ですぐ追え!」
 ではないだろうか。

 その場にいる刑事たちの頭の中で一応の答えを見出したものの、一応、上司である冴渡に、
「あれ、乗らないんですか?」
 とは言えない。
 言ったら顔が半笑いになってしまう。

 冴渡はまだスマホをいじっていた。

「あれ男でも運転出来るの?」
 冴渡が声の方を振り返ると、そこにはくじら1号が涼しい顔で立っていた。
「くじら君! 怪しい人物を見なかったか!? 今、上のロッカールームでM探偵と女優が襲われたんだ!」
「ええ!? 僕今来たばかりで……すいません。お役に立てず」
 くじら1号は爽やかに髪の毛をかきあげた。
「ジン子さんは大丈夫なんですか?」
「ああ。M探偵は無事だが……一緒にいたAV女優が……」
「僕、亀吉会長に報告します」

「冴渡さん!!」
 その時、ジン子が全裸で走ってきた。
「M探偵! 無理はするな!」
 ジン子は怒っている。
「何してるんですか? 早く追ってください!!」

 全裸のジン子に怒られる冴渡に、見ていた刑事たちは失笑した。
 しかし、冴渡は切り返した。
「M探偵! 君はアクメ自転車でついてこい! 俺は専用のMM(マジックミラー)号で追う!」
 刑事たちは笑いを堪えるのに必死だった。
 くじら1号は目を丸くして、
「ちょっと待って。ジン子さんのAVはどうなってるの? 僕、相手役で来たのに」
「なにぃ?」
 訝し気な顔を見せる冴渡。
 普通なら、『こんな時にAVの撮影なんかするわけないだろ!』だが、ここは冴渡。一味違う。
「お前が相手役なのか?」
「ええ。台本で言うと3回目の絡みの相手役です」
「3回目!?」
 冴渡は驚き、慌てて背広の内ポケットから警察手帳を取り出しページをめくる。
「この最後の激しく体位を変化させアクロバティックなプレイをする男優なのか?」
「ええ。僕ですよ。今日は20体位こなす予定でした」
「20!」
 膝を折り地面に手をつく冴渡。
「さ、さすがAV男優……」
 ジン子は冴渡の肩に手を置き、
「でも撮影は中止になったんです。冴渡さん」
「え?!」
 くじら1号が驚くと同時に冴渡は、
「中止だとぉ!? どういうことだ!」
 取り乱す冴渡を落ち着かすように、ジン子は亀吉との会話を話した。
「やっぱり揉めてるみたいだな。あの会長と社長は……」
「だから今日はさっきの怪しい男を冴渡さんと追うつもりです!」
 冴渡はジン子を見つめた。ジン子は冴渡に見つめられるのが好きだった。
「よし分かった! くじら君とともに一緒にMM号に乗れ!」
 ジン子とくじら1号が同時に驚く。
「え?」
「デビュー作変更だ! MM号でM探偵のAVを撮影しながら一方で先ほどの男を追うぞ!」

 まだ誰も動いていないが、一人、冴渡はMM号に乗り込みエンジンをかけた。
 誰もが言葉を失う中、ジン子は唯一、冴渡に質問した。
「でも、いまさらどうやって追うんですか?」
 冴渡は運転席でサングラスをはめながら、
「あのロッカールームは濡れてただろ? あれを見ろ」
 冴渡があごでさした道の先には、濡れた足跡が続いていた。

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