節分と厄災の…… その3
えらいことになりました。
厄災の蟹とその使役魔獣を相手にどうにか優位に戦っていたファラさんをはじめとするコンビニおもてなし防衛軍~仮~なのですが、そこに厄災の龍と思われる新手が空から出現したわけです。
厄災の龍は、まずファラさんに襲いかかっていきました。
厄災の蟹をかなり押していたファラさんなのですが、いきなり空中から襲いかかられたファラさんはすさまじい水柱をあげながら海中に倒れ込んでいきました。
同時に、厄災の龍の周囲を舞っていた小型の厄災の龍といった感じの使役魔獣達は海岸に向かってまっすぐ突き進んできました。
「あらあら、これは少しまずいですねぇ」
その存在にいち早く気づいた魔王ビナスさんは、いきなりたすき掛けして気合いを入れると、
「エレさん、スシスさん、ここはお願いしますわね」
そう言うと、いきなり宙に飛び上がっていきました。
ってか、魔王ビナスさん、飛べるんだ!?
「合点承知ですわ」
「ここは譲りませんわ」
そんな魔王ビナスさんの声を受けて、エレとスシスはその動きをグレードアップさせていきました。
ってか、2人もまだパワー温存してたんだ!?
で、その後方で必死に雷撃魔法を繰り出していた魔法使い集落の有志一同の皆様……は、さすがに厄災の蟹の使役魔獣相手で手一杯のようで……
やはり、そこまで話がうまく進むわけはないわけで……
この新たに押し寄せてきた厄災の龍の使役魔獣の群れ、およそ千を前にして魔王ビナスさんはすさまじい奮戦を開始しました。
大型魔法を繰り出すと魔力最充填に時間がかかるためか、その手に広げた鉄扇を振るいながら厄災の龍の使役魔獣の群れをなぎ払っていきます。
魔王ビナスさんが腕を振るう度に、数匹の厄災の龍の使役魔獣が倒されて海上に落下していきます。
ホント、魔王ビナスさん、マジぱねぇっす。
コンビニのバイトにしておくのが惜しい人材です。
……かといって、本職の魔王に戻られても困るんですけどね。
と、まぁ、魔王ビナスさん個人は無双状態なのですが、いかんせん数が多すぎます。
魔王ビナスさんをヤバいと認識したらしい厄災の龍の使役魔獣共は、魔王ビナスさんを遠巻きにして口から紅蓮の炎を吐き付ける戦法に切り替えていきました。
で、魔王ビナスさんをその戦法で足止めしている間に、他の使役魔獣達が地上に攻撃を開始。
それまで優位に戦っていたゴルア率いる辺境駐屯地部隊や、イエロ率いるセーテンと元猿人盗賊団達を大きく後退させていきました。
厄災の龍の使役魔獣達による支援を受け、厄災の蟹の使役魔獣達も一斉に息を吹き返し再度侵攻を開始。
厄災の龍の使役魔獣の攻撃で怯んでいたコンビニおもてなし防衛軍~仮~を押し込み始めました。
「パパ、パラナミオもいきます!」
そんな戦況を後方から見つめていた僕の横で、パラナミオがそう言いました。
おそらく、サラマンダー化して突っ込もうとしているのでしょう。
ですが、僕はそんなパラナミオの肩を掴んで止めました。
「パラナミオ、待ちなさい。空を飛べないお前が行ったんじゃあ、むしろ邪魔になるだけです」
「……でも」
僕の言葉に、顔を曇らせるパラナミオ。
すると、そんなパラナミオの頭を、後ろからやってきた人物がガシッと掴みました。
「そういうことだお嬢ちゃん。いい気合いだが、ここはパパの言う通り大人に任せておきなって」
そう言って笑っているのは、アルリズドグ商会会長のアルリズドグさんでした。
どうやらティーケー海岸の住人の避難が一段落したもんだからこっちに駆けつけてくれたようです。
「さぁ、ウチの奴らにも暴れさせてもらうぜ」
アルリズドグさんがそう言うと、後方からかなりの数の人々が海岸に向かって駆けだして行きました。
「ラルドン、カマキンラ、モンスンラ、キンギンドンラ、お前らは空中のお嬢さんを援護しろ! アルンギラスにメルカンゴージ達はアタシに続きな!」
アルリズドグさんは、そう声をあげると自らも巨大化して進んで行きました。
「パラナミオ嬢ちゃん、お姉ちゃんの活躍するとこ、見ててくれよ」
「はい! パラナミオ目一杯応援します」
超巨大化したアルリズドグさんに、パラナミオは目を輝かせながら手を振りまくっています。
で、そのアルリズドグさんの周囲には、背中にとげとげがいっぱいな四つ足の魔獣や、アルリズドグさんにどこか似ている銀色の魔獣というか、魔獣化したアルリズドグさんの部下達がいてですね、空には音速で飛べそうな茶色いのとか、蛾のでっかいのとか、首が三本ある金色の……とにかく、細かく描写したらかなりまずいんじゃないか、これってな具合の魔獣化した皆さんが大挙して海に向かって進撃しているわけです。
なんとかマンガ祭りって、こんな光景だったのかなぁ……
と、どこかそんな事を思っている僕なんですけど、
「……何? そのなんとか祭りって?……カガク?」
そんな事を言いながら、スアが僕にピタッと寄り添っ……
「スア!?」
僕は、思わず目を見開きながらスアへ視線を向けました。
その視線の先のスアですが、いつものお出かけモードです……いつもの、と言っても滅多に外出しないスアですので、希ではありますが。
でっかい帽子を被ってて、全身をマントで覆っていて、そのマントの端を引きずっています。
帽子には、虫除けらしい香草や日干し中らしい薬草なんかがくくりつけられています。
で、そんな僕の視線の先で、スアは
「……リョータがね、思念波で呼んでくれたから、急いで戻って来た、の」
「そっか、リョータが」
僕は、そう言いながらパラナミオに手を繋がれているリョータへ視線を向けました。
そんな僕の視線の先で、リョータはニッコリ微笑んでいました。
『パパのお役に立てましたか?』
そんなリョータの思念波が僕の脳内に流れ込んできました。
で、僕はそんなリョータに向かって右手の親指をグッと立てて
「あぁ、とっても役に立ったよ」
そう返答していきました。
「で、スア、早速で悪いんだけど、あの魔獣達をどうにか……」
僕は、視線をスアに戻してですね、改めて海岸の方を指さして……そして、そこで固まりました。
……いないんです。
あれだけ大量に押し寄せてきていた使役魔獣どころか、沖合でファラさんと戦っていたはずの厄災の蟹と厄災の龍まで、その姿が忽然と消え失せていたんです。
「あ、あれ……どうしたんだ?」
パラナミオの声援を受けて張り切って出撃したばかりのアルリズドグさんも、呆気にとられた様子で海岸を見回しています。
それは、他の面々も同様で、
「な、何が起きたというのだ?」
と、ゴルア。
「て、敵はどこにいったでゴザル?」
と、イエロ。
「……おかしいですわね」
「……まったくですわ」
と、エレとスシス。
空中では、魔王ビナスさんが
「あらぁ?何が起きたのかしらぁ?」
手に鉄扇を持ったまま首をかしげています。
とまぁ、そんな感じで皆が皆、困惑しながら周囲を見回し続けています。
沖でも、リヴァイアサン化しているファラさんが周囲をキョロキョロ見回している様子が見受けられます。
で、僕もみんなと同様に困惑していたんですけど……そんな僕の手をスアがひっぱりました。
「……一応、片付けたけど……よかった?」
そう言うスア。
「え?片付けたって?」
困惑気味の僕に、スアは自分の後方を指さしました。
で、そのスアの指さした方向を見た僕は、またも目を見開いて固まりました。
網です。
でっかい網で一網打尽にされた厄災の蟹や龍、それにその使役魔獣達がそこにいたんです。
スアの後方にど~んと鎮座ましましているその網ですが、あまりにも巨大なその網の存在は、すぐに海岸の皆も気がついていきまして、
「……まさか、あんだけの数の魔獣達を……」
「……一網打尽にしたでゴザルか?」
「……タクラ店長……すごい」
「さすがダーリン、キ」
「……暗黒大魔道士を倒したのは伊達ではありませんね」
へ?
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って。
な、な、な、なんか皆の口ぶりおかしくない?
こいつらを一網打尽にしてくれたのはスアであって、僕じゃないってば!?
どうもですね、スアが完全お出かけモードで姿形を帽子とマントで覆ってるもんですから、みんな僕の横にスアがいると気がついていないみたいなんですよ……だから皆には僕の真後ろに厄災達が一網打尽にされているように見えているみたいでして……
で、そんな僕にピタッと寄り添ってるスアがですね
「……旦那様の、お役にたてた?」
と言ってニッコリ笑っているんですよ。
で、海岸からは僕が厄災魔獣達を一網打尽にしたと完全に勘違いしているみんなによる、大店長コールが巻き起こっていてですね。
だ、誰かこの事態をなんとかしてくれぇ!!