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節分と厄災の…… その2

「厄災の蟹?」
「えぇ、厄災の蟹……世界に厄災をもたらすといわれている厄災魔獣の一種なのよ。この世界に出現したのはかれこれ数百年ぶりかしら」
 疑問系の僕の質問に、ファラさんはそう答えてくれました。
 ……しかしどうなんだろう。
 あの巨大なエビランを、リヴァイアサン化して倒すことが出来るファラさんです。
 ぶっちゃけ1人でどうにか出来てしまうのでは……って思ってしまった僕なんですが、そんな僕にファラさんは少し焦った感じで言いました。
「う~ん……親玉には私があたるつもりなんですけどね。問題は使役魔獣なんですよ……何しろ千近い数で押し寄せてきてるもんですから私一人ではどうにも対処しきれないといいますか……」
 そう言って、ファラさんはティーケー海岸へつながっている転移ドアへ僕を連れて行きました。
 で、転移ドアを抜けて海の方角を見た僕は唖然としました。

 赤いです。
 海岸線が真っ赤です。
 その赤い海岸線の向こうに、一際デカい怪物のシルエットが見えます。
「……まさかさ、あの赤いのが全部……」
「えぇ、厄災の蟹の使役魔獣達です」
 僕は、ファラさんと顔を見合わせると慌てて転移ドアを駆け抜け、巨木の家へと駆け戻りました。

 うん、どう考えてもスアでしょう。
 伝説級の魔法使いスアにお願いしないと、こりゃどうにもならないぞ。

 そう考えた僕は、スアの研究室へ駆け込んだのです……が

 ……あれ? スアがいません?

 唖然としている僕にパラナミオが教えてくれました。
「ママはですね、薬草を採りに出かけてくると行っていました」

 え?……マジ?

 一瞬、目が点になる僕。
 こりゃどうしたもんかと考えながらも、とにかく一度脳内でですね
『スア、大至急戻って来てくれないか』
 そう、必死に念じました。

 ……ですが、今日はいつものように返答が帰って来ません。

「パラナミオ、ママはどこに薬草を採りに行くって言ってたか聞いてない?」
 僕がそう聞くと、パラナミオは小首をかしげて考えた後
「……あのですね、確か『いせかい』ってとこに行くと言っていたと思います……いせかいってどこなんでしょう?」
 そう教えてくれたわけですが……いせかいって……まさか別世界って意味の異世界でしょうか……
 しかしまぁ……スアならそんなとこに薬草を採りに行ってても、確かに違和感を感じません。

 で・す・が

 と、なると、一大事です。
 とにかく、スアが戻ってくるまでの間、あの厄災の蟹とその使役魔獣をなんとかして食い止めないと……

 と、いうわけで

 僕は、考え得るあちこちに声を掛けまくって人員を集めました。
 
 ゴルア率いる辺境駐屯地部隊
 鬼の剣士イエロ
 元猿人盗賊団のボスだったセーテンと、その部下だった現ガタコンベ衛兵の猿人達
 本店のアルバイト、魔王ビナスさん
 ルア武具店の店長ルアと、その旦那オデン六世
 3号店の店長である木人形のエレとスシス
 魔法使い集落にお住まいの魔法使い有志一同
 
 これに、ティーケー海岸の自警団の面々も加わっています。
 ちなみに、ティーケー海岸の自警団を率いているのはアルリズドグ商会会長のアルリズドグさんです。
 ですが、自警団の皆さんは現在ティーケー海岸周辺の住人の避難誘導を最優先にしていますので、序盤は戦力になりそうにありません。

「大丈夫ですぞタクラ店長殿、我が辺境駐屯地部隊があの厄災の使役魔獣共、全て引き受けようではないか」
 白馬にまたがっているゴルアが、剣を天に振りかざし気勢を上げました。
 すると、その後方に控えている百名誓い衛兵達も右腕をあげ、気勢をあげていきます。
 そんな辺境駐屯地部隊の皆さん……赤いです、真っ赤です。
 そう、あの、エビランの殻を材料にして作成されたアカソナエの武具を、皆、その体に身につけています。
「さぁ、みんな!アカソナエの威力を存分に見せつけてやろうぞ!」
 上気した顔でそう言うゴルアも、真っ赤な甲冑を身に纏っています。
 でもまぁ、確かに、辺境駐屯地の皆が自分達の貯蓄を相当額切り崩してまでして作成したアカソナエです。
 確かに、すごく頼もしく感じます。

 そんな辺境駐屯地部隊が海岸線に沿って3重に布陣していきます。
 中央にゴルア、その横にメルアです。

 そこに、使役魔獣の第一波が襲いかかりました。
 全て厄災の蟹を小型化したような蟹形をしています……しかもこいつら、蟹のくせにまっすぐ走ってます……えぇい小賢しい……
 で、そんな蟹達を、盾を構えている部隊の皆さんが迎え撃ちます。
 すさまじい衝突音が海岸に響きました。
 ですが、アカソナエで防備している辺境駐屯地部隊の皆さんは、これを見事に受け止めました。
「うわぁ……やっぱアカソナエってすごいんだなぁ」
 僕が感心していると、
「……どうやら、海岸線はお任せしてもよさそうですね……では、私は親玉を一気に叩きますわ」
 僕の横で待機していたファラさんが、眼鏡をはずし一気に巨大化していきました。
 で、リヴァイアサン化したファラさんは、使役魔獣を蹴散らしながら海の奥に向かって進んで行きます。

 一方の海岸ですが。
 どうにか第一波を受け止めた辺境駐屯地部隊の皆さんが苦戦していました。
「こ、こいつら硬いです」
「エビランの剣がささりません!?」
 そうなんです……
 部隊の皆は、ルア製のエビランの殻を鍛えて作られている剣や槍を装備していてですね、その武器で使役魔獣達を倒そうとしているのですが、まったく刃が立っていません。

 で……その使役魔獣達も赤いんですよね。

(……まさかこいら、エビランの殻より硬いってのか?)
 だから、受け止めることは出来たけど、撃退までは出来ていない……
 僕がそんな事を思っていると、第一波の左右に使役魔獣達の第二波、第三波が押し寄せてきています。
 ファラさんが、あえてそのど真ん中を進行していったおかげでどの波も若干兵力は減少していますが、数が多いのには変わりがありません。

「第二波は拙者達に任せるでござるよ」
 辺境駐屯地部隊の右に布陣したのは、イエロが率いているセーテンと元猿人盗賊団部隊です。
 その先頭に立ったイエロは、腰に差している剣を二本抜き、両手で構えると
「だりゃあ!」
 気合いもろとも第二波の先頭集団に剣を叩きつけていきました。
 すると、その先頭を走っていた使役魔獣数匹が海岸にめりこんでいきます。
 すかさずイエロは、蟹形の魔獣の顔部分に剣を真正面から突き立てていきます。
 すると、その部分は硬くないらしく、イエロの剣が一気にめりこんでいき……

*残虐描写のため一部割愛されました。シャルンエッセンスの入浴シーンを妄想しながらお待ちください*

「顔でござる!こやつら顔はいけるでござる」
「顔だな!了解した!」
 イエロの声にゴルアも応じ辺境駐屯地部隊の皆に声をかけていきます。
 それにより、やや押され気味だった辺境駐屯地部隊が少しずつ使役魔獣を押し返し始めました。

 で、イエロの周囲でも
「イエロにばかりいい格好はさせないキ」
「姉さんに続けキぃ!」
「「「キー!」」」
 なんか、どこぞのショッ○ーみたいに一度気をつけした後、右腕を斜め上にあげた一同は、イエロの周囲に展開し迫ってきた使役魔獣達に襲いかかっていきました。
「アタシも行くぜ」
 そう言って駆け出したのはルア。
 ですが……そんなルアを、オデン六世が引き留めました。
「ママは後方支援……約束」
「い、いや、大丈夫だから、アタシにも戦わせろって」
「ダメ」
「そう言わずにさぁ」
「ダメ」
 と……なんか最前線で夫婦で押し問答始めてしまって全然戦力になっていません……おいおい、とにかく下がれって……

「じゃあ、こっちは私が受け持ちましょうか」
 魔王ビナスさんは笑顔でそう言いながら、ゴルア達の左に歩いて行きます。
 そこには、使役魔獣の第三波がすでに目前にまで迫っています。

 が

「では、久しぶりに本気を出してみましょう」
 手に扇子を持ち出した魔王ビナスさん、それを天に振りかざすと……なんか、いきなり空から無数の稲光が落ちてきてですね、目前にまで迫っていた使役魔獣達、一瞬で真っ黒焦げになって海の上にぷかぷか浮いてしまいました……えぇ、ピクリともしていません。
 どうやら魔王ビナスさんの雷ってば、あの甲羅も貫通してしまうようですね。

 で、そんな魔王ビナスさんの後方に集まったのが、エレとスシスの木人形と魔法使い集落の魔法使い有志の皆さんです。

 魔法使い達が、魔王ビナスさん同様に魔法による雷撃を打ちまくっていきます。
 ですが、魔王ビナスさんほどの威力がないため、すべてを倒せてはいません。
 で、魔法使い達が打ち漏らした使役魔獣達をエレとスシスがコンビで打ち倒しています。
 的確に使役魔獣達の顔面を狙って攻撃を繰り広げています。
 そのおかげで、海岸線より後方に使役魔獣達が侵攻出来ていません。

 魔王ビナスさんも、雷撃を放つまでに魔力を充填する時間が必要なため連発が出来ていないのですが、そのタイムラグをエレとスシスで持ちこたえている、そういう戦術になっているようです。

 で、沖ではリヴァイアサン化しているファラさんが親玉の厄災の蟹に襲いかかっていましてですね、かなり押し気味です。
「……うん、これならなんとか」
 そう、僕も思ったんですよ、この時は。

「パパ、空です。何か来ます」
 僕の横にいたパラナミオがそう言って空を指さしました。
 で、その指の先を見た僕は思わず目が点になりました。
 なんかですね……そこには、でっかい龍……しかも中世ファンタジーの龍じゃなくて、屏風絵に出てきそうな和龍が空を舞っていたんです……無数の使役魔獣らしき奴らを従えて……
「……おいおい、まさか厄災の龍か、あれ?」

しおり