第十二話 嫌がらせ-ヤスの仕事-
『ヤスさん。王都に向かいます』
「サンドラ。頼むな。セバスも無理するなよ」
『旦那様。ありがとうございます。”あんぜんうんてん”で行ってきます』
セバスたちとの通信が切れた。
リビングに設置しているディスプレイには神殿が管理している領域が表示される。
『マスター。関所と村を作ります』
「そうだったな。候補地はあるか?」
『関所は二箇所、一つの村で管理したく思います』
「そうだな。関所の一つは現存している物を拡張すればいいよな?」
ヤスは、ユーラットに向かう街道にも関所が作られると思っていたのだが、現存している関所は神殿の街から下った場所にあり、ヤス以外には使いみちが乏しい門があるだけだ。
『地域名ユーラットに繋がる街道で狭くなっている部分に門を設置します』
「そうだな。でも、今の関所は全域が神殿の領域にはなっていないよな?」
『否。領域を拡張して、海までの場所は確保しています』
「帝国側は?」
『地図を表示します』
ヤスは、ディスプレイに表示される地図を確認した。
地図を表示して、ユーラット側も門も壁も作られていないのを知って、慌てて作る指示を出す。
神殿の領域とそうでない場所は色で解るようになっている。ユーラット方面は、関所を作るために場所が確保されている状態だ。マルスから説明が有ったように、海まで領域が伸びている。道幅は、450メートルとなっている部分が、狭い場所で、神殿の街にある西門から降りた先にある関所から、2つ目の休憩所の近く該当する場所だ。
「ユーラットへの関所は、”白虎門”と呼称。確保している領都側ギリギリの場所に建築。門と壁は”白”で統一。門の内側に、村を作成。村の名前は、トーアフートドルフと呼称。規模は、50名程度が住める場所で、宿屋と商店を建築。馬車の駐車スペースを確保」
『了。マスター。車の駐車スペースは必要ですか?』
ヤスは、この時点で攻め込まれるのならユーラットに向かう方向だと思っていた。
そのために、村の位置は、ユーラット側にしている。間違っていないが、村の防御を考えるのなら、村も壁で覆うほうがいいのだ。覆わなかったのは、攻められると思っていなかったのと、全部を作るのに、討伐ポイントが足りるのか心配になってしまったのだ。後で作ればいいと考えて、忘れてしまったのだ。
「そうだな。バスの停留所は作成してくれ、それから、荷物の受け渡しも発生するだろう。そのための場所を確保」
『了。サイズは、セミトレーラが停車できるスペースを二台分確保します』
「わかった。それで十分だ」
『了』
「壁の高さや強度は神殿の標準に準拠。壁の中にから攻撃できるようにするために矢狭間を設置。上部に登れる様にして石落としを設置」
『了』
「壁は、街道に沿って斜めに配置。10メートルおきに監視塔を設置。セバスの眷属を派遣して、畑や果樹園を作成。住居も、神殿の小さいサイズで固定」
『畑と果樹園は、作成だけでよろしいのですか?』
「問題ない。入植者に作業をさせる。果樹園は、休憩所に準拠。水場も休憩所に準拠した物を配置。場所は、任せる」
『了』
「あっ公衆浴場の設置も頼む。神殿と同じ物を二箇所作ってくれ」
『了』
「排水は、浄化して海に流して問題はないよな?」
『はい。ですが、神殿の迷宮に繋げる方法を推奨します』
「わかった。マルスの方法を採用する」
『了』
ヤスは、建物をポンポンと配置を行っていく。
ジリジリと増えていた討伐ポイントをかなり消費しているが、まだ余裕はある。ヤスは知らされていなかったが、マルスは石壁の内側に地下を作成した。地下には、侵入者や罪人を確保する場所とした。迷宮区に作ってあった拷問や牢屋を移動させた。情報収集の者たちは、トーアフートドルフに集中させるためだ。
「マルス。次は、帝国側だけど・・・。あっ地図を見ればいいのか?」
『はい。領域は、森の全域を含めて広げてあります』
マルスの宣言通り、帝国へと繋がる道は、森を含めて神殿の領域になっている。
「マルス。全域が神殿の領域に見えるけど間違いではないよな?」
『はい』
「わかった。トンネルを作ってくれ、道の両脇に10メートルの壁を作って、矢狭間を設置。上に兵を配置できるようにして、石落としを作成」
『了』
「徐々に細くなるようにして、関所ではセミトレーラが通る幅になるよう作成」
『了』
「そうだな・・・。森の脇を通る道の長さが40キロくらいあるのか?」
『正確には、43キロです』
「森側だけでも・・・。ダメだな。壁の長さは5キロにしろ。両脇に同じ長さを作れ。山側は、最終的に山に接触するように配置しろ。森側は、5キロは石壁を設置。森も全体が神殿の領域だよな?」
ヤスは、全部を壁の設置を行おうとしたが、討伐ポイントが足りなかった。15キロ程度なら大丈夫になっているので、5キロだけ壁を作る状況にした
『了。森も支配領域になっています』
「それなら、侵入者を弾く結界を張れるか?」
『可能です』
「そこまでは必要ないか?」
善良な村民や冒険者が森の恵みを採取するのを邪魔するのは何か違うと考え直したのだ。
『マスター。森の中心部に川を作ってはどうでしょうか?』
「作られるのか?」
『可能です』
「よし、森を貫くように川を設置」
『現在、存在している川を拡張します』
「川幅が200メートルもあれば渡れないだろう。川の水を貯める湖を作って、神殿の力で水を巡回させろ」
『了』
「関所の門の名称は、”玄武門”と呼称。壁や門は黒で統一」
『了』
貯めていた討伐ポイントの殆どを使ってしまったが、ヤスは満足していた。
ディスプレイに作られた関所の様子や、森の中を貫いた川の様子を見て満足していたのだ。
討伐ポイント内でなんとか施設の準備が出来たのは重畳だと思っている。
討伐ポイントが増えていたのにも理由があった。
デイトリッヒたちが魔の森に行って魔物を討伐していたからという理由もあるが。ギルドから神殿が攻略されたと発表され、王国が認めたので、密偵たちが神殿に情報収集に来ていたのだ。密偵になれるほどの物なので、魔力も一般人よりは多く持っている。それだけではなく、神殿に潜り込もうとした密偵を捉えて、拷問にかけて情報を吸い出してから殺して神殿に吸収させていたのだ。
すでに始末した密偵の数は200を越えている。それらが、討伐ポイントに還元されて、かなりのポイントになっていたのだ。
ヤスが、気が付かなかったのは、ヤスが使えるポイントとマルスが管理するポイントを別にしていて、ヤスが使えるポイントの上限を決めて居たために、ヤスはポイントが増えているのを知らなかったのだ。
そして、今回の嫌がらせを行うにあたって、新しい車を用意したり、貢物を用意したり、塩や砂糖や呼称を用意するために、マルスに問い合わせをして討伐ポイントが増えている状況を知ったのだ。
しかし、ヤスは討伐ポイントが増えていると認識したが、なんで増えたのかは気にしなかった。
気にしてもしょうがないと思ったのだ。実際、マルスはヤスに聞かれたら、討伐した魔物が予想よりも多かったと答える予定だったのだ。
「さて、マルス。一度、部屋に戻ってから地下に行くけど、後は任せて大丈夫だよな?」
『マスター。地域名
「問題はないと思うけど?」
『了。ドワーフ作成の魔道具の実験を行っても構いませんか?』
「安全性が確認された物なら大丈夫だ。使い勝手や耐久試験の実験なら問題ない」
『了。武器の支給は?』
「そうだな・・・。セバスが帰ってきてからでいいだろう?ドワーフを連れて、村に行ってもらおう」
『了。それまで、神殿に残っている武器を支給しておきます』
「わかった」
ヤスは、部屋に戻ってから着替えて、カート場に向かった。
カイルとイチカに話をするためだ。