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最初の世界と最初の管理者

 その者が最初に知覚したのは白色だった。
 曇りの無いまっさらな白のみの世界。上下も平衡感覚も何もかもを狂わすようなその世界で、その者は直ぐに自分が何かを理解する。
 何のために生まれ、何を期待されているのか。それらを理解した時、離れた場所に創造主が居るのが分かった。
 それが視線を向けると、そこには筋骨隆々の厳めしい翁といった風情の人物がそれを見詰めていた。それだけで、自分が何故全てを理解したのかを悟ったそれは、創造主へと頭を下げる。
 それが頭を上げた時には、既に創造主の姿は無かった。それでも、遠くから見守ってくれているというのは理解出来た。
 周囲を見回し、それはまず状況を確認する。といっても、世界はただ白いだけ。なので視線を自身の方へと向けると、世界ほどではないにせよ、透き通るような白い肌と簡素な服が視界に映る。
 服は長い布の中央に穴を開けただけのようで、前後は隠れていても横は隠れていない。
「……………………」
 それを確認したその者は、軽く体を動かしてみる。そうすると、横に何も無いので服の裾が腕の動きに引っかかる時があった。それに床に着きそうな長さの布なので、脚の上げ下ろしが少々しにくい。こちらの方は横に何も無いから問題ないと言えば問題ないが。
 それでも少し身体が動かしにくく感じたその者は、せっかく創造主が用意してくれたものなので申し訳なく思ったものの、これからの作業に支障をきたすと判断して別の服を創る事にした。
「……………………」
 創造主が必要な知識を全て与えてくれたので、自身の力については理解している。そのうえで判断すると、創造主は随分とその者の創造に力を入れたらしい。
 なにせ、能力が創造主と比べてやや劣る程度もあるのだから。それほどに強力な能力を有する存在という事は、創造主のその者への期待の高さが窺えるというものだろう。
 もっとも、創造主は創造の力に特化しているようなので、単純な戦闘力という面だけで論ずれば、その者の方が上かもしれない。
 大体の能力を確認した後、その者はまず試しに服を創造してみる。服ならば試すにも手頃なので丁度いいだろう。
 そうして創造してみた服は、ジャージとでも言えばいいのか、袖と丈が長く、全体的に細身な動きやすそうな薄緑色の服。
 軽く動いてみて着用感を確かめたその者は、少し前まで着ていた貫頭衣を折りたたんで手に持ち、とりあえず移動を始める。
 何処まで行っても白一色の世界ではあるが、その者はこの世界の管理者を任されているだけに、世界の広さについてはしっかりと頭の中に入っていた。
 それによると、この世界はそれなりには広いものの、それでも数日歩けば一周するぐらいは可能だろう程度。
 しかし、この世界に込められた力の量はかなりのものらしく、ある程度世界に物を満たせば、それに応じて世界が成長していく事だろう。
 歩き続けて世界を見て回ったその者は、まずは環境を整備する事にした。何も無い世界では寂しすぎる。
 大気を水を海を土を地面を、山に木に森にと様々なモノを創造していく。最初は小規模からとはいかずに、はじめから一気に創っていく。それに応じて世界が広がるのだから、まずはそちらを優先させた。
 そうして次々と環境を整えていく。途方もないほどの時間が掛かったものの一気に行ったので、一息入れた時には急に賑やかになった気分だった。
 ある程度環境を整えたその者は、管理者として一度世界を見て回る事にする。
 延々と世界を歩いて見て回ると、最初の頃とは比較にならないほどに世界が大きくなったのが実感出来る。もう普通に歩いて一周するには世界が大きくなりすぎたと判断した管理者は、歩く速度を急激に上げて移動していく。
 目にも止まらぬ速さで移動していくも、管理者本人としては、それでもまだ歩いている範囲。どうやら能力を使い続けていたので、かなり成長したらしい。
 その事に気がついた管理者は、完成品として生まれた創造主と違って、自身は未完成品として成長するようだとその時知った。創造主の知識には、その辺りは必要ないからか欠けていたらしい。
 そんな気づきもありつつも世界を見て回った管理者は、そろそろ次の段階に移行してもよさそうだと判断する。即ち生き物、いや知的生命体とでもいえばいいか、管理者のように自分で考えて行動出来る存在を創造する事にした。植物は既に創造しているが、大きな変化の為にももっと自由な存在が望ましい。
 とはいえ、既に世界は大分大きくなっている。管理者だけでも管理は可能ではあるが、今後も様々なモノを創造して追加していくとなると、更に世界は大きくなるだろう。
 最初に定められた世界の許容量はまだ半分も使用していないので、単純にこれから今の倍になると考えると少し大変そうだ。
 その事に思い至った管理者は創造主に倣い、構築した世界を管理する者を創造していく事にする。
 今回で言えば、世界創造と言うよりも世界の構築ではあるし、管理者というよりも管理補佐ではあるが、創造主の時とそう大きな違いもなかろう。
 そういう訳で、管理者は自身の姿を参考に補佐となる者を創造していく。今後の世界の規模を考えれば、補佐は複数人居た方がいいだろう。
「……………………」
 管理補佐を創造する前に、管理者はどれぐらいの能力が妥当かと考える。今回は複数体なので、まだ管理者では自身と同程度の能力を保持した者をそれだけ創造する事は難しい。
 それに、自身と同程度の能力というのも考えものだろうとも思った。管理者は自分だから問題にはなっていないが、やろうと思えば創造主の地位を奪う事も可能だろうと知っている。成長した今ならば、ほぼ確実に倒すことが可能だ。
 創造する時にその辺りに手を加えればいいのかもしれないが、何が起きるか分からないので、やはり能力は抑えめでいいだろう。実際、現在の管理者の能力は役目に対してあまりにも高過ぎる。
 分担して事に当たるのと成長する事を視野に入れて考えた管理者は、初めての試みという事で、必要と推測する基本性能よりもやや余裕を持って創造し、後は各員に振る予定の役割に応じて必要そうな能力を伸ばしていく。そうして創造したのは全部で五人。
 創造した五人は、髪や瞳の色や形など何処かしらが少しずつ違うだけで、大枠では全員似たような見た目をしていた。管理者自身を基に創造したのだからそれもしょうがないが。
 その五人に知識を与え、役割を振る。三人には既に創造が済んでいる環境の管理を、二人にはこれから管理者が創造する存在の管理を任せた。
 それらを済ませた後、管理者は虫や動物や人など、程度の差はあれど、自身で考えて自由に行動出来る存在を創造していく。こちらに関しては思ったよりも容量を圧迫しないようで、結構数を揃えられそうだった。
 世界の容量というのは、世界が創造された時に籠められた力の上限で、それらは創造したモノの維持に使われている。なので、容量以上の創造は世界の崩壊を呼びかねない。
 現在管理者が様々なのモノを創造している世界は、創造主が張り切ったのでかなり容量が多い。この辺りも今後の創造に活かしていくのだろうが、この世界おいては容量が大きすぎる影響で、世界も中身と共に成長してしまっていた。
 環境の創造で容量の約半分近くを使用しているのだが、動物などの存在に関してはその二割に満たない程度で済んだ。結構創造したというのにそこまで容量を圧迫しないのは、個々の能力をかなり抑えているからだろう。管理補佐として創造した者達がそれ以上の容量を圧迫しているのだから。
 ただ、この容量の中には管理者は含まれていない。おそらく管理者は世界の付属物ではなく、世界とはまた別の独立した存在という事なのだろう。結果として、管理者は管理補佐達と違って世界に縛られない。
 一通り必要そうなものを創造し終えると、次は維持しながらの経過観察。
 それもある程度進み、原始的ながらも文明が芽生え始めた辺りで、創造主から管理者は通達を受ける。それによると、世界の発展に伴い世界が安定してきたので、そろそろ次の創造に向かうという話であった。
 それだけ告げて去っていった創造主に一礼すると、管理者は引き続き世界の管理を行っていく。
 文明が芽生え始めたとはいえ、まだ初期段階。いつ消滅してもおかしくはないだろう。世界が安定したとて、それは営みには関係ない。
 管理者は世界の様子を観察しながら、世界に微調整を加えていく。
「……………………」
 その過程で、どうやっても完全には塞がらない穴を見つけた。穴と言っても、地面に掘ったようなモノではなく、どうやってか世界に開いてしまった穴である。
 その穴は一度塞いでも、時間が経てば何処かに必ず開いてしまう。管理者は原因を探るも、どうも世界の創造時に原因があるようで、今更手を加えられない領域の部分が原因のようだ。それを修正するには、一度世界を解体してしまわなければならない。
 管理者の能力であればそれも可能ではあるが、その代り現在の世界に属する全てが無に帰すことになる。
 全てをやり直すか、それとも極力穴が開くのを抑えるか。両者を天秤にかけて考えた管理者は、極力穴を抑える事を選ぶ。穴自体がそう頻繁に開くモノではないというのも大きい。
 常に世界を監視していれば、穴が開いた瞬間には穴を閉じる事も可能。長いこと世界を管理してきたので、穴が開く前兆というのも把握している。
 もしも穴から何かが外の世界に出てしまった場合の行方は、新たに創造される何処かの世界に流れ着くか、もしくは外の世界の海に溶けていく事だろう。その際の管理していた世界の損害は、外に出たモノを維持していた分が世界の容量から減るだけ。管理者であればそれを回復する事は可能なので、問題ないと言えば問題ない。
 と、そこまで考えたところで、管理者は困った事実に行き着いてしまう。それは、創造主の今後の創造がこの世界を基準としているという事だ。それは即ち、創造主がこの欠陥に気がつかない限り、今後も穴が開く世界が増えていくという事。
「……………………」
 管理者はその事について考えてみるも、自身を創造した者なのだからそれぐらいは気づくだろうと思い直す。成長と学習は別物なのだから。
 気を取り直したところで、管理者は可能な限り穴を抑えていく。穴が開く発生頻度もだが、開く穴の大きさも極限まで小さくなるように。
 そうした調整を行っていった結果、穴の開く頻度は限りなく抑えられ、ほぼ穴が開くことが無いまでになった。それに開く穴も毛先よりも小さな穴になったので、何かが穴に落ちる事はそうそう起きないだろう。
 穴の問題が解決したところで、管理者は他の調整に移る。色々と創造したので、それにより僅かに噛み合わない部分も出てきていた。
 他の部分を管理補佐の者達に任せているので、そういった諸々の部分に集中出来る。とはいえ、管理補佐達の動向も一応監督してはいるが。
 そうした日々を過ごしていると、創造主から通達が来る。どうやら新しく創った世界とそこの管理者を任せるというモノであった。つまりは指導しろという事だろう。
 管理者はその要請に従うべく、まずは自身を増やす。新しく創造された世界は六つらしいので、現在管理している世界の分も併せて、管理者は七人に分裂した。
 分かれた事で個々の能力は下がってしまうが、管理補佐達を創造した後もかなり育ったので、その程度ではどうという事はない。それに、現在管理している世界にはしっかりと経験を積んだ管理補佐達が居るので、世界の調整以外は任せてしまってもいいだろう。世界の調整だけは管理者が担っていたので、他の者では難しい。
 しかし、それだけであればそこまで大仰な能力も必要ないので、問題にはならない。そもそも、始まりから管理者は能力が過剰なまでに高かったのだが、それから大幅に成長したので、自身を分けても個々の能力的にはまだまだ過剰なほど。
 そうして手早く準備を済ませたところで、管理者は指導をしに六つの世界へとそれぞれ旅立った。

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