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年末のコンビニおもてなし

 毎月末恒例のドンタコスゥコ商会の襲来も無事終わり、ドンタコスゥコは荷物を満載にした荷馬車隊を引き連れて出発していきました。
「来月こそリベンジなのですよ」
 先頭の馬車の操馬台でそう言うドンタコスゥコに、僕の横で一行を見送っていたファラさんは満面の笑顔を浮かべながら、
「は、どの口が、何をほざいてやがりますのかしらね」
 と、笑顔とはまったく似つかわしくない台詞を口にしておられた次第です、はい。

 でもまぁ、ドンタコスゥコ達ってば、商会だからって金儲けばっかやってるわけじゃないんですよね。
 ドンタコスゥコ商会は、半月かけて辺境都市バトコンベっていう大きな都市にまで行商に行って、で、また半月かけてここ辺境都市ガタコンベまで戻ってくるというサイクルで営業活動をしています。
 で、その途中にある辺境都市ナカンコンベにドンタコスゥコ商会の本店がありまして、道中で本店に戻って一息ついているそうなんです。
 その道中なんですけど、当然商会ですから辺境に引きこもっているお金持ちの別荘なんかにも顔を出して商売しているらしいんですけど……それ以外にもですね、老人しか住んでいない小規模な集落なんかにも足繁く通って商品を安く提供しているそうなんです。
 ドンタコスゥコはそんなことは一度も口にしたことがないのですが、少し前にそんな集落の方が店にこられましてですね、
「ドンタコスゥコさんがいつも口になさっているコンビニおもてなしがどんなところか、死ぬまでに一度拝見させていただこうと思いまして」
 そんなことを言われながら、ドンタコスゥコ商会への感謝を口にされていったんですよ。
「ワシらの集落に立ち寄られても大した儲けにはならんのに、ドンタコスゥコさんは「ついでだから気にすしないでくださいねぇ」と、いつも言ってくださるのですよ」
 聞けば、このお年寄りの馬人さんの集落は街道からかなり奥まった位置にあるそうで、ついでで立ち寄れるような位置にはないそうなんですよね。
 いつも
「ウチの店員はよく食べますでねぇ」
 と言いながらコンビニおもてなしの弁当やパンをすごい量買って行くドンタコスゥコですけど、そうやって購入した食べ物を、そういった集落の皆さんに配布しているそうなんですよ……しかも無料で。
「「買いすぎたから、まぁ食べてくださいねぇ」と、ドンタコスゥコさんはいつも言ってくださるんですよ」
 そう言う馬人さんですが……
 ドンタコスゥコに販売している食べ物は、量が多いですからいつも魔法袋に入れて渡しています。
 ですから、いつまでも痛みません。
 少々買いすぎても、本来であれば問題ないわけです、はい。

「……まったく、ドンタコスゥコってばさぁ」
 僕は、そんな馬人さんの話を聞きながら苦笑するしかなかったわけです。
 で、その話を聞いたファラさんですが
「それはそれ、これはこれですわ。仕入に私情は禁物でございますので」
 そう言っていたんですけど、先日の値段交渉の際に、弁当だけは無料(サービス)にしていたファラさんです、はい。

 ガタコンベでは羽目を外してしまう事も多いドンタコスゥコ達ですけど、そんな奴らなもんですからどこか憎めないんですよね。

◇◇

 さて、そんなドンタコスゥコ商会の面々も旅立ちまして、僕が元いた世界で言うところのおせち料理にあたりますオネの弁当の配布も無事終わりまして、コンビニおもてなしも年末年始のお休みに入りました。
 この世界は、12ヶ月で1年なのは僕が元いた世界と同じなのですが、1ヶ月はすべて30日なんです。
 で、僕が元いた世界の12月にあたるトゥエの月の30日が年末、1月にあたるオネの月の1日が年始にあたります。
 で、この2日間は、この世界では基本的にお店は全部お休みするそうなんですよね。
 ここ辺境都市ガタコンベも例外ではなく、開いているのは冒険者相手の宿屋と、その宿屋に併設されている酒場兼用の食堂くらいしかありません。
 もっとも、そういった行事に無頓着な魔法使い達だけが住んでいる魔法使い集落にあるコンビニおもてなし3号店だけは、年末年始も24時間絶賛営業しています。
 この3号店で働いているのはすべて木人形達ですので、基本寝る必要もないので、5人の木人形が常に働き続けてくれているわけです。
 でもまぁ、僕の気持ちとしては、5人もいつか休ませてあげて慰労してあげたいな、とは思っています。
 で、販売用の弁当やパンは、先に作ってすでに渡していますので、僕もこの2日間は夜明けと同時に起きて調理をしなくて済むわけです。
 あぁ、そうそう、ララコンベの温泉集落にある4号店ではですね、年末年始も温泉饅頭の実演販売だけは行う予定になっています。
 と、いいますのも、年末年始で店をお休みにした周辺都市の皆さんがですね、こぞってララコンベの温泉に出向いて骨休めされているそうなんですよ。
 おかげで温泉宿の予約も絶好調らしくて、この都市だけは年末年始も大賑わいなわけです、はい。
 で、そんな温泉集落の皆さんのお目当ての一つが、4号店で店員をしてくれていますララデンテさんなんですよね。
 この人……あ、いや、すでに肉体は消滅していて、いわゆる地縛霊的な存在のこのララデンテさんなんですけど、僕が元いた世界で言うところの弁天様とかそんな感じのありがたい神様みたいな人らしいんですよね。
 で、
「あぁ、ララデンテ様がお作りになられた饅頭」
「ありがたやありがたや……」
 と、ララデンテさんが実演販売し続けている温泉饅頭がララコンベ名物化している次第なんです。
 で、ララコンベの商店街組合からも「なんとか実演だけでもお願い出来ないでしょうか?」と打診されたもんですから、それをララデンテさんに相談したところ
「あぁ、それくらいお安いご用さ。どうせ予定もないから酒でも飲んでようかと思ってたんでね」
 そう言って笑って引き受けてくれました。
 一応、黒骨人間(ブラックスケルトン)もいますので、試食販売員としてララデンテさんの手伝いをしてもらう予定にしています。

 そんなわけで、それ以外の店舗はすべてお休みです。

 と、言うわけで、今日の僕は朝から店の大掃除をすることにしました。
「今年一年お世話になった店を、みんなで綺麗にしよう」
 僕が店の前で、雑巾の入ったバケツを片手にそう言うと、その後方では、イエロにセーテン、ブリリアンが右腕を振り上げて気合いを入れています。
 なお、ヤルメキスはまだ新婚旅行から戻っておりません。

 ちなみに、僕達が店を掃除している間、スアとパラナミオは巨木の家の中の掃除をしています。
 スアが、アナザーボディ4体を駆使しながら、パラナミオと一緒にあれこれ頑張っている姿が本店の窓からも見えています。
 そんなパラナミオの側には、リョータが常にくっついています。
 最近のリョータはお姉ちゃん大好きっ子状態でして、パラナミオに常にくっついています。
 元気な笑顔で歩いて行くパラナミオの後ろを、テコテコくっついていくリョータ。
 その姿がまた可愛いんですよ。
「店長、手が止まっていますわよ」
 ブリリアン、ちょっと窓の向こうの子供達の様子に見惚れていただけじゃないか、少しは大目に見て欲しいもんだねぇ。

 で、僕達が本店を掃除している間にですね、
 シャルンエッセンス達は2号店を
 クローコさん達は4号店の、ララデンテさんが実演販売している以外の場所を
 テンテンコウ♂と猿人4人娘達はコンビニおもてなし食堂エンテン亭を
 ファラさんは、おもてなし商会ティーケー海岸店を
 リンボアさんは、おもてなし商会テトテ集落店を
 みんなそれぞれ掃除しています。

 いろんな商品の製造施設があるスアの使い魔の森でも、長のタルトス爺が中心になって大掃除をしている最中だそうです。

 気がつけば、コンビニおもてなしもこんなに多くの関連店舗や施設が出来ていたんだなぁ、と、なんかちょっと感慨深いです。
 この世界に来てすぐの頃は、売り物もなくてホントどうなるんだろう、って思うことしきりだったんですけどね。

 そんな事を考えている僕の横に、スアがお茶を持ってやってきました。
「……少し休んだ、ら?」
 そう言ってニッコリ笑うスア。
 そうです……スアがいなかったら、僕もここまで頑張れなかった……そう心から思います。
 僕は、スアが持って来てくれたお茶を口に運ぶと
「スア、いつもありがとう」
 そう言って、にっこり笑いました。
 そんな僕に、スアもニッコリ微笑みます。
「……こちらこそ、ね」
 その笑顔のおかげで、残りの掃除も一気に終わらせることが出来そうです。

 うん、しっかり掃除を終わらせて、今夜は家族皆でのんびりしないとね。
 で、まぁ、子供達は早めに寝ますし、僕は朝早く起きなくていいし……となると今夜はスアと……
「……もう」
 僕の思考を読み取ったらしいスアは、顔を真っ赤にしながら照れり照れりと身をくねらせ始めました。

 スアってば今日もこの上なく可愛いです。

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