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月末恒例ドンタコスゥコ商会ですねぇ その3

 ドンタコスゥコ商会への卸売りは、コンビニおもてなしの卸売り関連部門を担当しているおもてなし商会が窓口になっています。
 一応トップは僕でして、最終的な決定権は僕にあるんですけど、その実権はおもてなし商会ティーケー海岸店を仕切っているファラさんにほぼお任せしています。
 ファラんさんは、とにかく曲がった事が大嫌いな方でして、それが原因で以前勤務していた職場で慣例的に行われていた不正行為に怒り狂い、その店を破壊し尽くしたために首になり………で、それが原因で雇ってくれる会社がなくなったという経歴の持ち主でした。
 そんなファラさんに
「店長さんってば、こんな融通の利かない私をよく雇用する気になりましたね?」
 そう聞かれることがよくあるんですけど、
「僕としては、店の経営にやましいことをしているつもりはないし、ファラさんが怒り狂うようなことをする気もないしさ。なんでファラさんを雇用することに躊躇する必要があるの?って気持ちなだけど。
 むしろ、経理が出来て仕事が早い、そんな人を雇えてすごくありがたく思っていますよ」
 そう言って毎回笑っているわけです。

 で、ファラさんなんですが、そう言う僕にすごく恩義を感じてくれているんです。

 ですので、
 ティーケー海岸のアルリズドグ商会や、テトテ集落の皆さんを相手にした仕入交渉でも一切の妥協をせず、毎回コンビニおもてなしに最大限の利益が出るように容赦ない交渉を行ってくれている次第なんです。
 そう言いながらも、テトテ集落のお年寄りの皆さん相手には若干甘めな対応をしているのにも気がついてはいますけど、それくらいはまぁ、ね。

 で、ファラさんは、当然コンビニおもてなしの商品を大量仕入するドンタコスゥコ商会相手の値段交渉も行っている訳です。
 まだ若いとは言え、すでに百戦錬磨の交渉術を身につけているドンタコスゥコを相手に回しながら、いままでも一歩も引かず、逆にドンタコスゥコに
「じ、次回は覚えておくでありますよ」
 そう口走らせるほどの交渉を行っているファラさんです。

 そんなファラさんを前にして……今回のドンタコスゥコ……どう考えても勝ち目がありません。

 今朝未明までヴィヴィランテスの所有しているブーケの花束を賭けた飲み勝負を行い、結果惨敗したドンタコスゥコは、二日酔いそのままにファラさんとの値段交渉に挑もうとしているわけです。
「ふ……負けられない戦いがここにあるのですよ」
 二日酔いのため顔面蒼白な顔で、そう言うドンタコスゥコ。
 その後方では、
「「「か、会長!」」」
 と、ドンタコスゥコ同様に二日酔い過ぎて青い顔をしているドンタコスゥコ商会の皆さんが並んでいます。
「会長頑張ってください」
「会長の頑張りに私達の年越しがかかっているんです」
「会長が負けたら、私達に明日はありません」
 と、まぁ、皆揃いも揃って青い顔をしながら悲壮なことこの上ない言葉をドンタコスゥコにかけているわけです。
 そんな皆の前で、ドンタコスゥコは
「まかせるでありますよ、お前達の安穏としたオネの日は、このドンタコスゥコが守って見せるですよ」
 そう言いながら右手の親指をグッと立てています。

 ……どこか、フラグですよね、これってば。

 ですが……そんなドンタコスゥコに対し、ファラさんは一度眼鏡をクイッと押し上げると、その眼前へと歩み寄って行きました。
 で、ドンタコスゥコがポケットに突っ込んだままにしている左手を無理矢理ポケットの中から引っこ抜いていきます。
 ……その手の先には、スア印の魔法薬「フツカヨイスグナオール」が握られていました。

 しかも、すでに飲料後です。

「私の目はごまかせませんよ……その顔色の悪さ、化粧でごまかしてますね?」
「さ、さぁて……な、なんのことでしょうかねぇ」
 ドンタコスゥコの眼前に自らの顔を寄せていくファラさん。
 そんなファラさんの前で、ドンタコスゥコってば冷や汗をダラダラ流しながらそっぽを向いているのですが、その冷や汗が流れたところから化粧が剥がれていてですね、その顔色がみるみる普通に戻っていっているわけです、はい。

 ……まぁ、二日酔いになった原因も原因でしたし……フォローする気はあまりありませんでしたけど、これで僕も心置きなく声を大にしていえます。

「GO!ファラさんGO!」
「合点承知!」
 僕の声援を背にしたファラさんは、おもてなし商会に入店して以来最高の笑顔を浮かべながらドンタコスゥコを見つめています。
 その眼前のドンタコスゥコ……完全に蛇に睨まれた蛙……ラミアのラテスさんに睨まれた蛙人のヤルメキス状態だったわけです。


 ○ファラ(圧倒的な論理速射砲)ドンタコスゥコ●

◇◇

 で、今回の値段交渉でも惨敗したドンタコスゥコ。
 前回に引き続き2連敗なわけですけど、
「まぁでも、コンビニおもてなしさんの品はどれも高値で売れますのでありがたいのですよ」
 と、若干悔し紛れも混じっている口調でそう言っていました。

 そんなドンタコスゥコなんですけど、この日の仕入交渉を終えてですね、品物を馬車に積み込み始めたところで、
「はうあ!?」
 と、言いながら目を丸くしていました。

 なんだなんだ?

 僕は、何があったんだと思いながらドンタコスゥコの視線の先をたどってみると……
「やぁ店長殿、年末の挨拶にきたよ」
 と、辺境駐屯地の隊長ゴルアが馬に乗ってやってきました。

 その体を覆っている鎧は、綺麗な赤色をしています。

 そうです。
 あの伝説の素材と言われているエビランの殻を使用して作成されている伝説の武具『アカソナエ』です。
 そのアカソナエの鎧を身に纏っているゴルアを、ドンタコスゥコは目を丸くしながら見つめ続けています。

 で、しばし後、ようやく我に返ったドンタコスゥコは
「ご、ゴルア隊長殿、そ、その鎧はいったいどこで購入なさってのでありますか?」
 そう聞いていきまして……で、それに対しゴルアは
「あぁこれですか? これは、このコンビニおもてなしで購入したのですよ。給料の三ヶ月分くらい飛んでいきましたが悔いはありませんよ」
 そう言って、満面の笑みを浮かべています。
 ……確かに、辺境駐屯地ってば女性ばかりの職場ですのであれですけど……武具に金を掛けすぎることなく、しっかり貯金しておいてですね、王都に戻ったときにいい男を見つけた時の結婚資金にですね……などと、どこか父親目線な事を思ったりする僕なんですけど、以前これを言ったらゴルアから
「いいですか店長殿、このアカソナエの鎧はですね……」
 と、勇者に従い、このアカソナエの鎧を見に纏って戦ったと言われている騎士達の英雄譚を延々2時間に渡って聞かされたことがあるので、言いませんけどね……

 で、まぁ、その話を聞いたドンタコスゥコは、即座に僕の前に駆け寄ると、
「た、た、た、タクラ店長ぅ、ドンタコスゥコ、これほしいの……」
 そう言いながら僕の前で正座して、なんか僕に向かって祈りを捧げ始めたわけです、はい。
 で、その後方には、ドンタコスゥコ商会の皆さんが、ドンタコスゥコ同様に正座し、僕を拝み始めています、はい。

 で、まぁ、このアカソナエも一応売り物ですし、製造しているルアの店に移動してですね、早速相談してみたのですが
「今はさ、辺境駐屯地のみんなからもらってる注文の品を仕上げるのが精一杯なんだ……その後で良ければ準備するけど」
 そう言う返事が返ってきた次第です。
 で、ドンタコスゥコは、そんなルアに
「それで十分でございます、えぇもう、是非ともよろしくお願いするのですよ」
 そう言いながら、何度も何度も頭を下げていました。

 で、そんなドンタコスゥコをですね、僕の横に立っているファラさんが不敵な笑みを浮かべながら見つめていました。
「ま、値段交渉では一切妥協する気はありませんけどね」
 そう言って眼鏡をクイッと押し上げるファラさん。
 ……まさにブリザードビューティーです、はい。

 そんな中、
「パパただいま!」
 友達の所に遊びに行っていたパラナミオが帰って来ました。
 パラナミオは、いつものように元気にただいまの挨拶をした後、僕に抱きついて来ました。
 で、僕の横に立っているファラさんに気がついたパラナミオは
「ファラさんも、こんにちわです」
 そう言って、ファラさんにもギュッと抱きついていきました。
 
 サラマンダーのパラナミオ
 リヴァイアサンのファラ

 種類は違いますけど、同じ龍族なもんですから、2人ってば結構仲良しなんですよ。

 で、そんなパラナミオに抱きつかれながらファラさん、
「お帰りなさいパラナミオさん、今日も元気そうね」
 と、冷静を装おうとしてはいるのですが、

 顔は真っ赤になっていて
 口元がニヘラァと歪んでいて
 体がプルプル震えています。

 完全に『パラナミオってば可愛い』オーラを発しまくっているのが傍目からもばっちりわかるわけです。
 あのブリザードビューティーをここまでメロメロにしてしまうパラナミオ……うん、やはり天使です、はい。

 で、そんなファラさんとパラナミオの様子を見ていたドンタコスゥコは
「……次回交渉には、パラナミオさんを我がドンタコスゥコ商会の味方に付けてですね……」
 なんてことを呟いていたわけです。

 えぇ、許可する気はまったくありませんけどね。

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