宴の次の日は、まぁ通常営業で
なんと言いますか、最初から最後までクライマックス状態だった昨日のヤルメキスの結婚式ですけど、サプライズで仕込まれていたルアとオデン六世の結婚披露宴も無事行われまして、まぁ、終わりよければ全てよしとでも言いますか、とにかくいい一日でした。
とは言いましても、夜明けとともに今日の弁当作成を本店の厨房で開始している僕の耳には、となりのおもてなし酒場から乾杯の声がいまだに聞こえつづけているんですけどね。
さて、そんなわけで今日からヤルメキスはパラランサと、オルモーリのおばちゃまと3人で新婚旅行に出かけています。
なんでも、王都のあたりをぐるっと回ってくるそうです。
このド田舎にあるガタコンベから王都までって言うと結構な距離があると思うんですけど、なんでも鷹人空輸便ってのを利用しているんですよね。
でっかいゴンドラの中に3人が乗ってですね、それを10人の鷹人が釣り上げて輸送していったわけです。
……なんていうか、いくらかかってんだ、あれ?って、思わず唖然としたわけです、はい。
ちなみにこの鷹人空輸便のお金は全額オルモーリのおばちゃまが出してくれたそうですが、その結果オルモーリのおばちゃまの謎がどんどん深まっているわけです。
と、いうわけで、大きなイベントは終わりましたけれどもなかなかフルメンバーが揃わないコンビニおもてなしなわけです。
でも、だからといって立ち止まるわけにもいきません。
さぁ、今日も頑張っていきますよ。
ちなみに、僕が元いた世界で言うところのクリスマスにあたるパルマ聖祭が終わったので、今度はオネのお弁当作りに全力投球しなければなりません。
いわゆる新年にあたりますオネの1日は、この世界では料理を多めに作っておいて家事をしなくていいようにしているそうなんですよね。僕が元いた世界で言うところのおせち料理的な物なわけです、はい。
で、そのオネの1日に家で食べるちょっと贅沢なお弁当はいかが?的に予約を開始したコンビニおもてなしですが、予約が順調に増えています。
今日が予約受付最終日ですが、駆け込みで増える可能性もありますね。
まぁ、このオネの弁当に関しては、いつもコンビニおもてなしで販売している通常のお弁当に使用しているおかずを流用していますので、作成はそんなに苦労していません。
毎日、お弁当を作成する際に多めにつくってオネの弁当に回していますので、すでに結構な数、準備出来ているんですよね。
オネの弁当独自の食材と言えばエビランの塩焼きですけど、これもおもてなし商会ティーケー海岸店のファラさんのおかげで十分な数が確保出来ていますので問題ありません。
で、なんといっても最高に助かっているのは魔法袋の存在です。
この魔法袋に入れておけば、入れた時の状態のままいつまでも保存することが出来るもんですから、オネの弁当のおかず類も、作成しては魔法袋に一度保存し……っていう作業を繰り返している最中でして、出来上がった品物も当然そこに保存しているわけです、はい。
そんなわけで、本日のコンビニおもてなしの厨房でも、今日のお弁当を作成しつつ、オネの弁当の準備を行うという2つの行程が同時進行されています。
この弁当作成は、僕とバイトの魔王ビナスさんの2人で行っているのですが、ヤルメキスの新婚旅行を受けて、僕はスイーツの作成も手がけているわけです。
結果的に、魔王ビナスさんにお弁当作成とオネの弁当作成をすべてお願いする状態になっているのですが……なんか気のせいか、魔王ビナスさんが3人厨房でウロウロしているような気が……
「あらあら、これは残像ですわ」
そう言ってクスクス笑う魔王ビナスさん……って、いうか、残像が残るほどの勢いで動けるって……
もともとこの魔王ビナスさんって、この世界とは別の世界で魔王をしていたそうなんですよね。
で、今のパートナーの方……なんでも、元勇者らしいのですが、その方と運命の出会いを果たし、彼と一緒にこの世界にやってきたんだとか……
僕が元いた世界で言うところの和装そのものな衣装を毎日艶っぽく着こなしている魔王ビナスさん。見た目はスアに負けずとも劣らないロリっ娘なんですけど……まぁ、実年齢もスアに負けず劣らずらしいんですよね……まぁ、面と向かってはとても聞けませんが……
◇◇
と、いうわけで、弁当作成作業を一段落させた僕はスイーツ作成のために厨房内を移動。
いつもヤルメキスが作業している奥のスペースへ入りました。
さ、まずはコンビニおもてなしの定番スイーツから作っていかないといけません。
ヤルメキスお得意のカップケーキからです。
いつもヤルメキスは、カップケーキから作り始めています。
「な、な、な、なんといいましても、これがあったからこそ、店長様とも出会えたのでごじゃりまするから」
ヤルメキスは事あるごとにそう言うんですよね。
そんな事を思い出しながら、ぼくは準備しておいた生地を型に流し込み、熱してある業務用オーブンへと入れていきました。
太陽光発電によるオール電化店舗にしていたからこそ、このオーブンも使用出来ているわけです。
元いた世界で、このオール電化工事が完了した際には「やっちまったかなぁ……」と、自己嫌悪この上なかったわけですけど、今にして思えばこうなることを心のどこかで予期していたのかも……などと都合の良いことを考えてみたりしながら、次のスイーツ作成に取りかかっていきます。
ゼリー類は作り置きが十分あるので大丈夫。
なので、今度はバックリンを使ったモンブランとイルチーゴを使ったショートケーキを作成していきます。
どっちも最近の新商品ですけど、毎日全店舗で午前中早々に売り切れてしまう超人気商品になっているんですよね。
「さて、今日は少し多めに作るかな」
僕は、そう言いながらハンドミキサーをボールの中に突っ込んでいきます。
このハンドミキサーも、元いた世界の品物です。
万が一故障したときのために、ルアに
「これ、同じ物を作れたりする?」
と、聞いて見たことがあるんですけど、
「ダメだなぁ……この先っぽが高速で回転している仕組みがさっぱりわかんねぇや」
と、ルアではお手上げで……で、その後スアにも聞いてみたんですけど、
「カガクね、これ……すごいカガク、よ」
そう言って目を輝かせながらハンドミキサーを触りまくっていた次第です。
で、結論から言いますと……スアは、ハンドミキサーと同じ物をの作成は出来ませんでした。
ですが、もっとすごい物を完成させました。
いえね、魔石を使って先を回転させる魔法ハンドミキサーとでもいう代物を作り上げちゃったんですよね。
その方が最高回転数もハンドミキサーの100倍まで上げることが出来ますし、魔石に魔力を充填してやれば理論上半永久的に使用可能という、すごい代物です。
今の僕は長年使い慣れている電動ハンドミキサーを使用し続けていますけど、いずれはこのスア製のハンドミキサーを使っていこうと思っている次第です。
そうこうしているうちに、スイーツ作成も無事完了。
テンテンコウ♂によるパン類の作成と、魔王ビナスさんによる弁当作成作業もすでに終了していまして、今はルービアスが、各支店行きの魔法袋の中に完成品をそれぞれ詰め込んでいっている最中です。
「ルービアス、これも頼むよ」
「はいはい、お任せくださいな」
ルービアスは、そう言いながら僕が指さしたスイーツの山を前にして胸をドンと叩きました。
ちょうどその時
「おっは~」
いつものように、重低音な声で挨拶しながらハニワ馬のヴィヴィランテスがやってきました。
よく見ると、その首にはなんか花束がぶら下げられています。
……あれですね、昨日のヤルメキスの結婚式の際、並み居る女性陣を文字通り踏みつけまくってゲットしたブーケですね。
「まぁ、私の場合、こんな物なくてもいい男達がほっとかないでしょうけどねぇ」
そう言いながら、首にぶら下げている花束を誇らしげに揺らしていくヴィヴィランテスですが……こいつ、雄ですからね?オネェですけど……
そんなヴィヴィランテスを苦笑しながら見つめていく僕。
とにかく、今日もいつもの朝が始まったわけです、はい。