第十三話 カスパル!
セバスとアフネスの腹のさぐりあいの結果。リーゼと
「ヤス殿!」
「ん?だれ?」
ヤスを呼び止めたのはカスパルだ。イザークがカスパルの腕を引っ張っているが、それを振りほどいてヤスの足元に土下座する。
「ヤス殿。いや、ヤス様!お願いです。俺も一緒に連れて行ってください!なんでもします。お願いします!」
ヤスは困惑するしかなかった。なぜカスパルがここまでしているのか皆目見当がつかないからだ。
「えぇ~と?」
「自分は、カスパルといいます。イザーク隊長の下でユーラットの守備を行なっています」
「そのカスパルさんがなんで?イザーク!?どういうことだ?」
イザークはもう諦めたのか肩をすくめている。
「ヤス様。自分の事は、呼び捨てでお願いします。ヤス様が居なかったら、自分は死んでいました。なので、生かされた命をヤス様に捧げたいのです」
ヤスはカスパルを立たせる。カスパルはたしかにヤスを見ているのだが、チラチラとディアス・アラニスを見ているのだ。一目惚れしてしまったようなのだ。
ヤスはカスパルを立たせて、耳元で囁くように呟く。
「(カスパルだったな)」
「(はい・・・)」
「(正直に言えよ。そうしたら連れて行ってやる)」
「(え?)」
「(アラニス殿に惚れているのだろう?)」
「(な!ち・・・。はい。惚れています。守りたいです)」
「(わかった)」
ヤスは、カスパルから身体を離した。
「カスパル」
「はい!」
「俺は、神殿の管理で忙しくなる。その間、リーゼとアラニス殿の護衛を頼みたいのだができるか?」
「っ!!はい!」
「リーゼの家には、俺の眷属が張り付くが、アラニス殿の住む場所には護衛が居ない。近くで守ることになるが問題ないよな?」
ヤスは、二人を見る。
カスパルは嬉しそうな顔をしている。ディアスも満更ではないようだ。
「イザーク!優秀な若者を引き抜いて悪いな」
「そうだな。そんな色ボケをしたヤツでもユーラットでは必要だからな」
「隊長!」
ヤスはカスパルをディアスの横で歩かせるために背中を押す。
イザークがヤスの正面に立つ状態になる。
「わかった。今度、酒精でもおごる。それで許してくれ」
ヤスはカスパルに背中を見せながら笑いをこらえてイザークに話をする。
「わかった。カスパル!」
「はい!」
カスパルがイザークの方を向いて姿勢を正す。
「カスパル。神殿にはこれから多くの者が移住することになる。しっかり皆を守るように!」
「はい!隊長!」
カスパルはイザークに深々と頭を下げた。
カスパルはディアスに一言告げてからヤスの横に来てイザークに向かって膝を付いた。腰につけていたナイフを両手で持ってイザークに差し出す。
イザークはナイフを受け取ろうとして少しだけ躊躇した。
「いいのだな」
「はい。隊長。いえ、イザーク様。自分は、ヤス様を・・・。神殿を、神殿に住む者たちを守りたいと考えています」
「わかった」
イザークは、カスパルからナイフを受け取った。
「ヤス。カスパルを頼む。それから・・・」
「なんだよ?」
「いや、なんでも無い。また遊びに来いよ」
「あぁ落ち着いたら遊びに来る」
手を上げてヤスが裏門から出ていく。
リーゼが横に立って後ろにはディアスとディアスの荷物を持つカスパルが居る。カスパルは荷物を何も持っていない。神殿に行ってからリーゼとディアスから必要な物を聞いてユーラットに買いに来るつもりで居るのだ。取りに行くと言ったカスパルを”え?”という顔でリーゼが見たからヤスが提案したのだ。
どうせ、ヤスはもう一度ギルドに来なければならないのだ。
アフネスからリーゼとディアスを神殿に届けたらもう一度ギルドに来て欲しいと言われていたのだ。逆らうのも面倒なので了承したヤスは、まずツバキに裏門までバスを移動させた。移住者をバスに乗せて移動する予定なのだ。セバスは、そのままギルドで交渉を続けている。
セバスが孤軍奮闘している時に、ヤスはリーゼとディアスとカスパルをFITに乗せた。助手席には当たり前だという表情でリーゼが座る。
「リーゼ。二人に教えておいてくれ」
「ヤスは?」
「ツバキを見てくる」
「わかった」
運転席からヤスが降りた。リーザは、後ろを振り向いてシートベルトの仕方を教えている。
カスパルとディアスは戸惑っていたが、リーゼが絶対に必要だからと言っているので従ったのだ。
「ツバキ」
「マスター」
「悪いな」
「いえ、それよりも、マスターのお世話は?」
「リーゼたちを置いたら戻ってくる。ツバキが帰ってくるまでメイドも居るし大丈夫だろう?それに、料理くらいなら一人でもできるからな」
「わかりました」
「リーゼたちの世話は、セバスの眷属に一時的に頼むけど移住が開始されたら自分たちでやってもらう」
「わかりました」
ツバキは、ヤスの世話をリーゼやディアスに取られるのではと心配していた。魔物種である自分よりも同じ種を主が望むかもしれないと考えたのだ。
バスから離れたヤスはテント生活をしている者たちを見つけた。
近づくことはしないで、まずは神殿へリーゼたちを送り届けることにした。
「準備は・・・。いいようだな」
ヤスは乗っている3人を見る。シートベルトをしている。カスパルとディアスの表情が少しこわばって見えたが気のせいだと考えた。
FITに火を入れると、マルスから念話が届いた。
『マスター。個体名カスパルと個体名ディアス・アラニスは、神殿の広場に入る許可がありません』
『どうしたらいい?』
『マスターが付与するか、個体名リーゼが付与する必要があります』
『そうか、方法は?』
『マスターはエミリアから付与できます。個体名リーゼは身体に触りながら”広場への入場を許可する”でできます』
『もっと簡単にできないか?カードのような物を持つとか・・・』
『神殿権能を検索・・・。該当あり。マスター。討伐ポイントから交換が可能なカード発行機から神殿エリアへの入場が可能になるカードが発行できます』
『それは身に着けていればいいのか?』
『はい。携帯していれば大丈夫です』
『わかった。それで行こう。マルス。交換を頼む。設置は、門に小屋を設置して配置しろ』
『了。表示項目やサイズの変更が可能です』
『名前だけでいい。カードに穴が開けられれば、穴を開けて紐を通せるようにしてくれ』
『了』
ヤスはマルスに指示を出しながら神殿への道を走っている。
対向車の心配がないことから道幅を使って気持ちよく加速している。
カスパルが青い顔をしている。ディアスはすでに悲鳴さえも上げていない。
楽しんでいるのはリーゼだけだ。”キャッキャ”いいながら喜んでいる。
FITが広場に入らずに停まった。
「ヤス?広場は先だよ?」
「あぁカスパルとアラニス殿を登録しないとダメだ。リーゼも登録するぞ?」
「登録?」「?」「??」
3人は、ヤスに言われて外に出た。
目の前にある小屋があるのが解る。ヤスも初めて見る小屋だが知っている雰囲気を出す。
まずは結界を認識してもらう。
「カスパル。そのまま道を進んでみてくれ」
「はっはい」
カスパルが5mほど進む。
「え?」
「結界が張り巡らされている。”カスパル。思いっきり目の前にある透明な壁を攻撃してみてくれ”」
「いいのですか!」
「あぁ全力で頼む」
「わかりました!」
持っていた剣で透明な壁に斬りかかるが剣が弾かれるだけだ。
数回、打ち込むが変わらない。
「・・・」「へぇ・・・」
「ヤス様。あれは?」
「結界だよ。許可した者しか入る事ができない」
「そうなのですか?」
「あぁ効果はカスパルが試した通りだ。それで、入る為の許可証を作る魔道具が置いてあるのがこの小屋だ」
粗末な小屋なので3人は驚いている。
それだけ高価な魔道具が置かれている場所には思えなかったのだ。
部屋の中も質素でテーブルが一つありその上に魔道具が置かれているだけだ。
ヤスは気にすることなく、3人に魔道具にふれるように頼む。
まずは、カスパルが安全を確かめるために触る。
「ヤス様。触るだけでいいのですか?」
「あぁ」
肯定したがヤスも使うのは初めてなのだ。マルスからは触るだけで大丈夫と言われたので、そのまま伝えた。
カスパルが触れると魔道具が光だした。
光が収まると一枚のカードが出てきていた。
「ヤス様?」
「それが許可証だ。身に着けていれば結界に妨げられずに入場できる」
「ねぇヤス。その許可証があればヤスが居る場所に行けるの?」
「ん?この許可証は広場だけだ。神殿の内部には別の許可証が必要になる」
「なぁ~んだ」
文句をいいながらリーゼは許可証を作った。
最後にディアスが魔道具に触れた。
許可証を握って3人とヤスはFITに戻った。
ヤスはゆっくりとした速度で結界の中にFITを進めた。