バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第三十二話 状況確認


「ヤス殿。申し訳ないが、時間を少しもらいたい」

 ラナが申し訳無さそうにヤスに頭を下げる。

「ん?どうした?」

 ヤスとしてはもう自分の作業は終わったものと思っていた。後は、荷物が積み込まれたらユーラットに運ぶだけだと考えていたのだ。魔物はすでに討伐しているので、帰りは流しながら帰る事ができると思っている。

「思った以上に神殿への移住が魅力的なのか希望者が増えてしまった」

「そうなのか?荷物が多いのか?」

「いえ、人数が多くなってしまいまして、アイテムボックスを持っている者もいるのですが、ドワーフたちが鍛冶や酒造りの道具をどうしても・・・」

「わかった。わかった。詰めるだけなら問題ない」

「それは大丈夫だ。ドワーフたちも自分で持っていくと言っている」

「それじゃ何に時間がかかっている?」

 ヤスがラナを見ると疲れ切っているのが解る。移住者がワガママを言っていると思っていたのだ。

「さっきも言ったが、移住希望者が多くなってしまった。子供も居るから馬車での移動になるのだが、割り振りに手間取っている」

「子供?エルフ族やドワーフ族の?」

「いや・・・。違うのだが、違わないのか?」

「どういう事だよ」

 ラナがヤスに事情を説明したのだが要領を得ない。
 説明が回りくどいのだ。

「ラナ。今の話を簡単にまとめると、孤児院を開いている女性が居て、その女性がエルフでアフネスの関係者だって事はわかった。その上で、孤児院ごと神殿に移住したいという事だね。理由は、いろいろ言っていたけど、領主の次男が孤児院に嫌がらせをしているという解釈でいいの?」

 長い話をヤスは簡単にまとめた。
 実際には、次男が孤児院を開いているエルフを自分の愛妾にしようとして孤児院を潰すためにいろいろやっているのだが思った以上にエルフやドワーフからの支援がありなんとかなってしまっていたのだ。

 次男としては孤児院がなんとかなっているのが気に入らないのか嫌がらせは徐々にエスカレートしてしまっていた。
 他の孤児院を潰して、エルフの孤児院に子どもたちを集中させていた。子供も人族や獣人族など多岐にわたって居る。人数もすでに50名を越えていた。
 次男の陰険な攻撃に対して辟易していた所に、神殿への移住を聞かされた孤児院を営んでいた孤児院が飛びついたのだ。

 孤児院には院長と呼ばれている老齢の女性と孤児院出身の若い女性が二人。合計3名で運営している。

「そうです」

「それで、遅れている理由は子供の割り振りで揉めているの?」

「いえ・・・。子供を馬車に乗せようとしているのはミーシャなのですが、孤児院側は”自分たちはついていくだけなので馬車は必要ない”と言っていて・・・」

「そうか、わかった荷物の問題では無いのだな?」

「はい。荷物は子どもたちの荷物が大部分でして・・・。その・・・」

 ヤスは言いにくそうにしているラナの様子からなんとなく理解できた。それでも、大きくは妥協するつもりはない。

「わかった。助手席を使えばもう少し乗せられる。木箱一個くらいなら追加していい。ただし、孤児院に居る子供の持ち物だけだぞ?」

「いいのか?」

「乗せられる分だけだぞ」

「それでも助かる」

「それで、どのくらい待てばいい?」

「そうだった。子どもたちの荷物が馬車から降ろせる事を考えれば、半日・・・。いや、3時間で話をつけてくる」

 ヤスの話を聞いてラナが勢いよく店を出た。

 ヤスは一人残された場所で、孤児院のことを考えていた。

(孤児院か・・・。定番だと、冒険者になって、神殿にアタックとかだろうけど・・・。後は、孤児院に何か作らせるのだけどな・・・)

 ヤスは、孤児では無いが両親を亡くした記憶を持っている。知り合いにも事故や事件で家族を亡くした者が多い。そのために、孤児に”何かできること”がないか考えていた。

「エミリア」

”はい”

「孤児院に何かさせる事は可能か?」

”質問が曖昧です”

(そりゃぁそうだな)

 ヤスはこの時点で孤児院への対応は棚上げする事にした。
 子供に何ができるのか知る必要は有るのだが一般的な対応がわからないのでアフネスに聞いてから対応する方が良いと判断したのだ。

 何もする事がなくなったヤスはエミリアを操作して、討伐ポイントや神殿の様子を確認していた。
 操作している最中にエミリアに新しい機能が追加されているのに気がついた。

「エミリア。この”眷属”って機能はなんだ?セバスたちが見られるわけでは無いのだろう?」

”眷属の状況が確認できます”

「眷属・・・。アプリを起動すればいいか・・・」

 ヤスはアプリを起動した。
 アプリには、ヤスが討伐ポイントで交換したバイクと車が表示されている。HONDA FITの横にはマスターと表示されている。

「エミリア。眷属は、ディアナの事なのか?マスターと言うのは、今ディアナの本体が操作しているという事なのか?」

”違います。マスターが操作しているという意味です。全てをディアナが補助しています”

「そうか・・・」

 ヤスはまた思考を始めた。
 考えている事はアプリの名前が”眷属”ではわかりにくいという事だ。すでにディアナというアプリは存在している。マルスという名前のアプリも存在している。したがって、いい名前がヤスには思い浮かばなかった。

(慣れればいいか・・・)

 早々に新しい名前を諦めたヤスは討伐ポイントの確認を行った。
 そこには、20億を越える数字が表示されていた。

「ん?マルス。討伐ポイントは2億ポイントとちょっとが、保留になっているのだよな?」

”エミリアが答えます。マスター。保留になっているポイントは2億6319万1679です”

「表示されているのは?」

”討伐ポイントです”

「そういう事か・・・」

 ヤスはここで初めてスタンピードで魔物を大量に討伐した事を思い出した。
 その後でセバスたちが魔石や素材を集めたのも思い出したのだ。

 討伐ポイントが大量に有るのだが何に使うか考えないとすぐに無くなってしまうだろうと思っている。事実、ヤスが欲しいと思う物を交換してしまうと足りないのはわかりきっている。それではどうしたらいいのか?
 ヤスは自分が使う分とは別にセバスに討伐ポイントを渡しておけばマルスと相談しながら神殿の溜めに使ってくれるのではないかと考えた。

「セバスに討伐ポイントを使わせる事ができるか?」

”可能です”

「そのときに、制限をつける事もできるのか?」

”可能です”

「わかった。そもそも、セバスに討伐ポイントを渡して何か意味があるのか?」

”マスターが持ち込んだ食料や調味料と交換する事が可能です。また、個体名セバス・セバスチャンの眷属の強化が行えます”

「そうか使いみちが有るのなら使えるようにしておくほうがいいな。マルス!頼む」

”マルスが設定を行います。ポイントの制限と、ディアナオプションとの交換制限を行います”

「頼む。1億ポイントあれば大丈夫だろう?」

”はい”

「1億討伐ポイントを渡して、ディアナオプションへの交換は不可。セバスには、眷属の強化と神殿の補修と魔物の補充を頼む事とする」

”了”

 マルスが設定を終わらせた事がエミリアに表示される。

”マスター”

 マルスがヤスを呼びかけた。

「どうした?」

”報告があります。神殿領域への侵犯が確認されました”

「侵犯?誰に?だ!ユーラットの住人なのか?」

”いえ違います。個体名が不明の人族が複数です”

「ユーラット方面では無いのだな?」

”はい。個体名セバス・セバスチャンが眷属を用いて魔石と素材を回収した場から2.87キロメートル領都方面に移動した場所です”

「何かしていたのか?」

”人族の死体を捨てていきました”

「は?死体?」

”吸収せずに放置しています”

「わかった。ひとまずセバスに死体の回収を急がせろ。それから、神殿領域への侵犯ができないように何ができる?」

”個体名セバス・セバスチャン及び眷属に死体の回収作業を行わせます。侵犯への対応は、神殿領域を示す壁の設置を推奨します”

「壁を作るということだな?」

”はい”

「討伐ポイントで作るとしたら?端数はいい。概要で構わない」

”石壁を作成すると3億2000万ポイントが必要です。また、マスターが使った通路の整備に4億6700ポイントが必要です”

「両方で8億ポイントか・・・。マルス。設置を頼む通路は登れるように整備してくれ」

”了”

しおり