第十四話 冒険者ギルド
「ヤス。もう大丈夫だよ!」
「わかった」
ヤスは
部屋を借りる時に料金で少しだけ揉めた。値段ではなく、
それで、ラナは正直に話をしてリーゼの父親が持っている権利の代金が貯まっているので、その中から支払われるから大丈夫だと説明したのだが、話を聞いてヤスは手持ちの金貨を差し出して、足りなければ冒険者ギルドからの支払いで払うと宣言した。
ラナもあまり固辞してヤスの気分を害したらアフネスからどんなことを言われるかわからないので、ヤスからの提案を素直に受ける事にした。
4泊分とヤスとリーゼの食事代をヤスに請求する事になった。アーティファクトの保管料は、通常の馬車だと馬や魔物のエサ代が必要になりその分だけをもらう事になっていると説明した。ヤスのアーティファクトにはエサ代が必要なく無料で停めてもらえる事になった。
そしてヤスが部屋の外に出ていたのは、リーゼが水浴びをしていたからではない。
生活魔法をヤスに教えるという約束の為に、自分にかけていた排泄を抑制する魔法を解除した・・・。リーゼが男性に聞かれたくない音を出してしまった為に真っ赤になってしまった。ヤスは”聞こえなかったフリ”と”匂いを感じていないフリ”をして、”ラナと少し話してくる。部屋に入る時にノックするから、大丈夫なら教えてくれ”とだけ言って部屋を出た。
それで部屋に帰ってきた。
リーゼの顔の赤さは和らいだが耳がまだ真っ赤な状態だった。
「リーゼ。どうやったら生活魔法が使える?」
「うーん。僕。初めからできたからな?ヤスは、”生活魔法”が使えるの?」
ヤスは、リーゼの言葉を聞いてクラっと来た。
禅問答のような感じになっている。
「リーゼさん?俺は、生活魔法が使えないから、リーゼに聞こうと思ったのだけど?」
「あっごめん。そうじゃなくて、違わないけど・・・。違う。ヤスは、自分で自分を見られる?」
「ん?鑑定という事か?」
「鑑定じゃないのだけど・・・。僕は他の人にはできないけど、自分を見る事はできる。だから、ヤスも自分は見られるよね?」
「あぁそれなら大丈夫だ」
「それなら、”生活魔法”が使える?」
ヤスはここまで聞いてやっとリーゼが意図している事がわかった。
「あぁそれなら自分に”生活魔法”は有るぞ?」
「それなら、生活魔法は使えるよ。やってみる?」
ヤスは、リーゼからいくつかの生活魔法の詠唱を教わった。
リーゼが知っている生活魔法の全部が一発でできてしまって、リーゼにすねられた事は笑い話のレベルだろう。
リーゼがヤスに教えたのは・・・
種火:マッチ程度の火が数秒灯る
給水:500ml程度の水が出せる
微風:息を吹きかける程度の風が出る
点灯:魔力が続く限り光る
清掃:指定範囲内を綺麗にする
洗浄:指定した物を綺麗にする(人体でも可)
排泄管理:排泄を制御する解除するまで我慢できる。我慢できるだけ
ヤスはラノベ定番の魔法はイメージを思い出してそれぞれを発動した。
「リーゼ。他にも生活魔法はあるのか?」
「うん。今覚えた物だけで十分だよ?僕も、他は知らないけど、図書館とかで本を読めばまだ覚えられると思うよ?」
「そうか、時間ができたら図書館に行ってみるのも良さそうだな」
「うん!僕も一緒に行くよ!ヤス一人だとわからないでしょ?」
「そうだな。その時には頼むよ」
すっかりいつもの調子を取り戻したリーゼとヤスは他愛もない話しをしてから、寝る事にした。
ベッドは2つあったので、リーゼが奥を使って手前をヤスが使う事になった。
部屋をノックされる音でヤスは目が覚めた。隣を見るとリーゼが丸くなって寝ている。起き上がって、ドアを開ける。
「ミーシャか?」
「リーゼ様はまだ寝ていらっしゃるのか?」
「あぁ寝ている?確認するか?」
「いやそれには及ばない。用事があるのはヤスだけだ」
「そうか、それで?」
「武器と防具の引き上げは、早いほうがいいだろう?」
「そうだな。わかった。行こう。リーゼは・・・。起きたら冒険者ギルドに来るだろう」
ヤスは、ミーシャの提案を受けてリーゼに伝言を残して冒険者ギルドに移動する事にした。
本来ならヤスが冒険者ギルドに赴いて書簡をミーシャか受付に渡してから買い取りの話をする予定だったのだが、ミーシャが迎えに来た事でヤスは昨日の夜にでもアフネスから連絡が来ただろうと勝手に解釈した。
実際には、斥候で出ていた者が戻ってきて
ユーラットからの報告では、魔法武器や真防具もあるという報告が上がってきている。駆け出しに買える金額では無いのだが、中級以上の冒険者なら買う事は無理でも冒険者ギルドから貸し出す事も考えられる。
宿を出た所で、ミーシャがヤスを見た。
「ヤス。早速で悪いが、買い取り予定の武器と防具を見せてもらいたい」
「そうですね。その前に・・・」
ヤスは冒険者ギルドに提出する予定になっていた書簡をミーシャに渡す。
「そうだった。デイトリッヒ!ヤスと一緒に武器と防具を運んでくれ」
宿の入り口で控えていたデイトリッヒがミーシャに頭を下げて了承の意思を伝える。
ミーシャは書簡を持って冒険者ギルドに走っていった。
「ヤス殿」
ものすごく渋い声のデイトリッヒ(CV:安元洋貴と表示が出そうな位な声)がヤスを呼ぶ。
「え?あっはい」
「武器と防具はどこに?」
「あっアーティファクトの中にあります」
ヤスはなぜか緊張してしまっている。
思った以上に低音の声だった。お決まりでは、エルフの青年は中性的な声が多い印象を持っていた。姿は、定番のエルフの青年で細い身体をしたイケメンだ。それが、”CV:安元洋貴”と思われるような低音ボイスで話しかけてくるのだ。ヤスは低音ボイスになぜか緊張して敬語で話してしまっている。
デイトリッヒと一緒にアーティファクトまで移動した。
ロックを外して、トランクルームを開ける。そこには、武器と防具が乱雑に置かれていた。
「ヤス殿。これで全部ですか?」
「はい。そうです」
「かなりの数ですね」
「そうですね。どうしますか?アーティファクトを動かしますか?」
「いえ、それでは大事になってしまいます。ヤス殿はここでお待ち下さい」
それだけ言って、デイトリッヒはヤスの所から離れて冒険者ギルドに向かった。
5分ほどしたら若い衆を連れてデイトリッヒが戻ってきた。
「ヤス殿。この者たちに、5個ずつ渡してください」
「え?あっわかりました」
もう少し持てそうだとは思ったのだが、ヤスはデイトリッヒに言われたとおりにFITの荷台から武器や防具を5個ずつ渡していった。
数往復してやっと武器と防具を全部運び出す事ができた。
「ヤス殿。宝石や宝飾品はどうしますか?魔石は、冒険者ギルドで買い取りたいとギルドマスターが言っています」
「わかりました。魔石は冒険者ギルドで買い取りをお願いします」
「わかりました」
「宝石や宝飾品は、商業ギルドに持っていきます」
「それがよろしいでしょう」
ヤスは、魔石をデイトリッヒに預けた。
宝石や宝飾品はそのままFITに載せたままにして、冒険者ギルドに向かった。
道すがら、デイトリッヒは先程の面倒な方法の説明をヤスにした。
先程来た若い衆は冒険者ギルドの職員ではなく、ギルドにいた冒険者たちで依頼を出して受けた者たちだという事だった。
そのために、盗難や破損の可能性が有ったために、一人に5個ずつ渡す事にした。そうすればヤスが渡す時にデイトリッヒが確認できる。受け手側も数が少なければ盗難を疑う事ができる。双方で確認できるので問題はかなり減らす事ができると考えたようだ。
完全ではないが、短時間で運ぶ事ができることを考えればかなり優良な方法だと思える。
実際に何人かの冒険者が防具を盗もうとしたのだが、ギルド職員が数を確認して少ないことを指摘されて慌てて出していた。
小さな問題は有ったのだが、ヤスが持ってきた武器と防具は冒険者ギルドに無事に渡って鑑定と査定が行える状況になった。