第四話 ダーホスからの依頼
ヤスは、置かれた飲み物にもう一度口をつける。
一口飲んでからカップをローテーブルの上に置いた。
「ヤス殿。冒険者としてでも、商人としてでも、どちらでもいいのですが、ギルドからの依頼を受けてもらえませんか?」
「依頼?」
「はい。ヤス殿から預かった、品々を辺境伯の領都にある”冒険者ギルド”に運んでもらいたい」
「ん?なにか、おかしくないか?俺の依頼品を俺が運ぶのか?」
「えぇそうですが?なにか問題でもありますか?」
「・・・・うーん」
ヤスは少しだけ考えたのだが、別に問題はないと自己完結した。
そもそも、”考えた”結果として受ける事にしたかったのだ。少しでも賢そうに見せたいヤスの心がそうさせた。
けして、ドーリスに良い格好しようとおもったわけではない・・・。と、思いたい。
「わかった。冒険者ギルドのギルドメンバーとして依頼を受けよう。でも、俺は領都の場所がわからないぞ?」
「あぁそれですが・・・」
ダーホスが、ドーリスに目配せをした。ドーリスは立ち上がって奥の部屋に入っていった。
このとき、ヤスは少しだけ・・・。本当に少しだけ期待した。
ドーリスが道案内をする為に一緒に領都まで行くのではないかと・・・。
戻ってきたドーリスは一枚の羊皮紙を持ってきた。
ヤスの眼の前に羊皮紙を置いた。
思惑が外れたヤスは羊皮紙の内容について問いただす。
「ダーホス。これは?」
「リーゼ殿・・・。正確にはアフネス殿からの依頼書だ。ヤス殿に受けてもらいたい」
ヤスは、ダーホスをにらみつける。
ほぼ、強制依頼に近い事はわかっている。
「ふーん。リーゼをリーゼが持つ荷物ごと辺境伯の領都にある冒険者ギルドに届ける依頼なのだな?」
「そうなる」
(うーん。人は運ばない主義だけど、道案内が無いと無理だよな)
”エミリア。辺境伯の領都までのナビは可能か?”
”辺境伯の領都が曖昧で不可能です”
ヤスは、羊皮紙を見るとリーゼの送り先が書かれていた。
”辺境伯領の名前は、レッチュガウ。領都はレッチュヴェルトらしいぞ”
”領都レッチュヴェルトを検索・・・。失敗。該当するデータがありません。神殿の情報には地域名レッチュヴェルトがありません”
”そうか・・・”
「ダーホス。悪い。この依頼は受けられない」
「なぜ?」
「俺は、人は運ばない」
「え?」
ヤスは、口元を歪ませた笑いを浮かべた。
しかし、ダーホスもドーリスも頭の上に”?”マークが大量に出るだけで、何を言われているのかよくわからない状況なのだ。
「ダーホス。その依頼は、アフネスに返してくれ」
「しかし、アフネス殿の依頼も誰かがやらないとなら・・・」
ヤスは手をかざしてダーホスの言葉を遮る。
コップに残っている飲み物を一気に煽ってから、ダーホスとドーリスを見てゆっくりとした口調で喋りだす。
「ダーホス。鑑定の荷物を持ってく為には、領都レッチュヴェルトまでの案内を依頼したい。荷物があるのなら、
「え?」「は?」
「あっ依頼だから依頼料を出す。案内をしてくれる者が欲しいと思う”短剣”を出そう。それか、換金目的の中から1つ進呈しよう。どうだ?」
ヤスは、羊皮紙に書かれていた”依頼料”からアフネスの狙いを察知した。
依頼料が、”金貨50枚”となっていたのだ。ヤスが、リーゼに渡した短剣の値段+αなのだろう。それを依頼料としてヤスに渡そうとしたのだ。ヤスは、アフネスの狙いがわかった(気になっている)のだが、そのまま承諾できない気分になっている。
日本に居たときからの考えで、依頼では”人は運ばない”ことをポリシーにしている。日本に居たときには、
いろいろ魔改造したり、魔改造されたり、敷地内で無茶な走行テストをしたり、ギリギリをやっていたヤスだが明確な法律違反をしたのは、中学の同窓会での1件だけなのだ。
「”どうだ”と言われても・・・。ヤス殿」
ヤスは、ローテーブルの上に羊皮紙を置いて、指で弾いてダーホスに返した。
依頼が書かれた羊皮紙は回転して、ダーホスの前で止まった。
「なんだ」
ダーホスは、睨むような目線でヤスを見ているが、ヤスは空になってしまったコップを持ち上げて降ろす動作をするだけで、なんの反応も示さない。
ダーホスも、この依頼書の意味がわかっている。いくつかの目的があるのだが、アフネスとして安全にリーゼを領都の冒険者ギルドに届けたい。ヤスがリーゼに渡した短剣が高価だったためにアフネスがその代金をヤスに渡そうと考えたのだが、素直に受け取ってくれるとは思っていない。そのために、依頼を出して報酬の形を取ろうとした事はわかっている。副次的な目的として、リーゼをヤスにくっつけておきたいという目的もある。リーゼがヤスのことを気にしているのも知っているが、それ以上に神殿を攻略したヤスに繋ぎを作る意味もある。
そして、アフネスの大きくないが重要な目的は、ヤスのアーティファクトを使った場合に、領都までの移動時間を知りたいのだ。
いずれ必ず伝言なり命令が届くだろう事だが、エルフの里にヤスを連れて行く事になる。その時にどのくらいの日数が必要なのかを知りたいのだ。
「ふぅ・・・。わかりました。アフネス殿には、私から連絡します。案内人は、ギルドが選出していいのですか?」
「そうだな。行く前に、面談させてくれ、襲われたり、途中で逃げられたりしたら目も当てられないからな」
「わかりました。出発は、いつくらいにしますか?」
「そうだな。案内人の選出に時間がかからないのなら、明日でいいぞ?」
「そうですね。案内人には、これから話を通します。問題にはならないとおもうので、明日の朝に出発でいいですか?」
トントン拍子で内容が決まっていく、ダーホスもアフネスの説得の必要がない事はわかっている。リーゼの予定だけだが、依頼書の内容の通りになるので、予定の調整も必要ないだろう。
ヤスも同じに考えていた。リーゼを助けたときの会話から、4-5日で半分くらいだとして領都までは馬車で10日の旅となる。
馬車との速度比較で10倍は無理でも4-5倍は出せるだろうと考えているので、野宿を一回程度行えば到着できるだろうと考えていた。”ラノベ設定”で言えば何かしらのイベントが発生する事も考えられるのだが、領都に到着が夕方以降になるであろう事は予想できる。そうなった場合に、もう1泊してから領都に入る事になる。
鑑定にかかる時間がよめないが、リーゼの用事のことを考えて領都で1泊する必要が有るだろう。
「大丈夫だ。あっ!その時に、領都の冒険者ギルドへの紹介状を貰えるか?」
ヤスは、鑑定の待ち時間を減らすために、ダーホスに1つの依頼をした。
「もちろんです。それから、査定依頼の物品ですが、目録は作りますか?」
「そうだな。頼めるか。俺の持ち物である証明はできるのか?」
「可能です。ヤス殿。これは、依頼ではなくお願いなのですが、領都の冒険者ギルドのギルドマスターに書簡を届けてほしいのですがよろしいですか?」
「いいぞ?」
「良かった」
ダーホスは立ち上がって自分が使っている机に移動して、書類の束の中から一枚の羊皮紙を見つけ出して、封筒のような物に入れてから封蝋をした。
作った書簡をヤスに手渡した。
「良かったです。この書簡は、ヤス殿がユーラットの神殿を攻略したことを、ユーラットのギルドが確認した書類です」
「それを、俺が持っていって問題にならないのか?」
「大丈夫です。概要はすでに伝えてあります」
「わかった。ギルドで受付に渡せばいいのか?」
「はい。こちらで用意するギルドマスターへの推薦状と一緒に受付に出してください。ギルドカードの確認はすると思いますので、ヤス殿である確認は取られる事はありません」
「そうか、わかった。それなら、その書簡も行く前に受け取る。目録と一緒にくれ。明日は、表にアーティファクトを停めてもいいよな?」
「問題ないです。ギルドに来るのなら、裏門の方が楽ですよ?」
「それもそうだな。リーゼも裏門の方が近いだろうからな」
「えぇ」
ふたりとも案内人がリーゼになることをぼかしていたのが意味がなくなる発言をしているのに気がついていない。
実際二人とドーリスはリーゼが案内人だと確定した事として話をしているのだ。
「わかった。朝、ギルドに寄る事にするよ」
「お願いします」
それから、ドーリスから依頼に関する説明をされた。
今回の場合は、ユーラットのギルドからの指名依頼となる事。明日の朝までに依頼内容をまとめておくので、朝ギルドに来たときに、ドーリスが手続きをすると説明された。ヤスの出した案内人の依頼も受理されたので、書類を作成するので、同時に処理を行ってくれる事になった。
冒険者ヤスがギルドからの依頼を受ける形になり、商人ヤスが案内人を募集する依頼を商人ギルドに出して、商人ギルドから冒険者ギルドに依頼を流す形になるのだと説明されたのだが、ヤスにとってはどうでもいいことで、話の半分も聞いていない。
自分が望んだ形になればいいと思っているだけだった。
説明が終わったので、ヤスはダーホスの部屋から出て、神殿に帰る事にしたようだ。
金片を換金した金貨を受け取って、ギルドを出た。