第二話 パーティー結成
「本当に・・・・」
ダーホスは、ユーラットの裏門が見えてきた時に呟いてしまった。
ダーホスは、つぶやきと同時に安堵した気持ちにもなっている。それほど恐怖を感じていたのだ。
山道のそれもカーブを、ドリフトで抜けるときのタイヤが滑る音は結界の中なので聞こえてくる。風切り音が聞こえてこないが、ヤスのアクセルワークやシフトダウンやシフトアップのときのエンジン音や、時折石を飛ばす音などが結界の中に木霊しているのだ。
怖がるなと言う方が無理な相談だ。その上、前方を明るく照らすライトがあるが、カーブのときには先は見えない状況で突っ込んでいくように思える。そこに道があるのか後ろから見ているとわからない状況なのだろう。何度か、小さな悲鳴を上げていた。
「着いたぞ?ギルドは、明日にしたほうがいい・・・ようだな」
ヤスは、疲れ切った表情をしているダーホスを見て考えを変えた。
「ヤス。今日、泊まっていってよ。いいよね!」
リーゼは、アフネスを見た。
アフネスもうなずいているので、いいのだろう。
そのアフネスも少しだけ顔色が悪い。酔ったのかもしれない。
元気なのはリーゼだけだ。
ユーラットの裏門から入って、宿屋に行く。
「リーゼ!」
アフネスとヤスは、煩いのが居たのを思い出して、頭が痛いと感じている。
「おじさん。今日、ヤスが泊まるからご飯をお願い。僕は、ヤスを部屋に案内する」
「え?」
「アナタ。リーゼが言った事をお願いします。ヤス。リーゼに着いて行ってください。リーゼ。この前の部屋に案内して」
「わかった」
「ロブアン。成り行きだが、1晩だけ厄介になる。すまない」
ヤスは頭を下げる。
ロブアンはいきなりのことだったが、アフネスが奥に連れて行って説明するようだ。
「ヤス!」
「わかった」
ヤスは、リーゼに連れられて部屋に向かった。
この前使った部屋なので、鍵だけ渡してくれたら大丈夫だと言おうかと思ったようだが、リーゼが嬉しそうに手を引っ張っていたので、そのまま案内を頼むことにしたようだ。
今日は、夕飯を食べて寝る事になった。
明日になったら、ヤスとリーゼでギルドに赴いて、パーティーを組む事になっている。
ロブアンは反対したのだが、アフネスとリーゼの勢いに押される形で承諾するしかなかった。
その上で、アフネスがヤスの神殿のことを説明して、リーゼが長期間町の外に行くことができないことを聞いたときには、複雑な表情ながら納得したようだ。
翌日、この前と同じ様にヤスは起こされて、食事をした。
朝食は、この前ヤスが問題なく食べていた物が出された。ヤスが好物だと解って、リーゼとアフネスが用意したものだ。
朝食を美味しそうに食べるヤスを満足そうな表情で眺めるアフネス。
何が嬉しいのかニコニコしているリーゼ。
それを忌々しそうに見ているロブアン。
しばらくは、この関係が続きそうだとヤスは感じていた。
「リーゼ。ちょっと早いけど、ギルドに行くぞ。俺は、売るものを売ったら、買い物して帰りたいからな」
「えぇもう1泊しないの?」
「しない。やる事があるからな」
「・・・。うぅぅ。わかった。おじさん。おばさん。行ってくる!」
ヤスとリーゼは、ギルドに向かった。
ギルドに入って、受付に居たドーリスに話をした。
すぐに、ダーホスがやってきて、リーゼの冒険者ギルドへの登録と、職人ギルドへの登録が行われた。
終始ニコニコしているリーゼを横に置いて、ヤスはエミリアから神殿で見つけた剣や防具やアイテムを並べていく、事前にマルスやエミリアに聞いたが必要ないと言われた物たちだ。残った物は、魔核やポーションと思われる物だけだ。
「ねぇヤス。短剣と防具をもらっていい?」
「ほしいのか?」
「うん。最低限、身を守れる装備が欲しい・・・。おじさんは駄目だと言っているけど・・・。ダメ?」
「気にいるのがあれば持っていけよ」
「本当?いいの?」
「あぁパーティー組んだ記念だ。アイテムも欲しい物があれば持っていけよ。アフネスにはしっかり言えよ」
「うん!あっ代金!」
「いいよ。そうだな。今度泊まる時に値引きしてくれよ」
「わかった。おばさんに言って置くね」
「ヤス殿?」
「おっと悪い。ダーホス。リーゼが選んだ物以外を買い取って欲しいけどできるか?」
ヤスとダーホスとドーリスが座っているテーブルの前には大量のアイテムと武器と防具が並べられている。
アイテムの中には何に使うのかわからない物も含まれている。宝石の類も数多く並べられている。
並んでいる物を見るダーホスの目は狂喜に染まっている。ドーリスも同じくニコニコ顔だ。
ヤスから買い取った物がすぐに売れるだろう事が想像できているからだ。ギルドの売上になるので、ダーホスは実績が付くし、ドーリスは臨時ボーナスが出る可能性だってある。
「ダーホス。鑑定や査定に時間が必要だろう?」
「そうですね。1時間程度は必要です。これだけの量ですし、質もいいので期待してください」
「それは信用しているからいいけど、先にパーティーを組みたいけど問題ないか?」
「そうでしたね。リーゼ殿。ヤス殿とのパーティーで問題ないですか?」
「うん。僕は、問題ない。ヤスも、僕でいいの?」
「あぁ。それで、リーゼ。名前は考えたのか?」
「うーん。”ラビリンロード”か”ルナティックキャッスル”のどちらか!」
「ん?俺は、何でもいいぞ?リーゼが気に入った名前にしてくれよ」
「それなら、”ラビリンスロード”で!」
「だってさ、ダーホス。手続きを頼む」
ドーリスがまた珠を持ってきている。ヤスとリーゼは簡単に説明を聞いた。
どうやら、二人の魔力をパーティーとして登録しておく事で、預けている資金の取り出しが可能になるという事だ。
個人での管理はできない。王都や領都にある商業ギルドなら個人での口座が持てるようになるという事だが降ろす場合には、商業ギルドでしかできないので注意が必要だ。
「わかった。別に、個人で持つのなら、俺もリーゼもアイテムボックスがあるし困らないよな?」
「うん!」
ヤスとリーゼはお互いに納得して、パーティー申請を行った。
リーダーは、ヤスが務める事になる。
ヤスとリーゼのギルドカードに、パーティー名が刻まれる事になる。
これで手続きは終了になるのだが、詳細な規約は二階にある本棚にあるという事だ。もちろん、ヤスもリーゼも興味がないので、読みに行くことはしない。
「俺は、買い取りを待っているけど、リーゼはどうする?」
「僕?うーん。待っていたいけど、おばさんに、ギルドの登録料を借りちゃったから、今日は帰るよ。帰る前に寄ってくよね?」
「あぁそのつもりだ。糸引き豆や魚醤をロブアンから買うつもりだよ」
「わかった!おじさんにも言っておくよ」
「頼む」
リーゼは椅子から飛び降りるようにしてから出口に向かっていった。
「ヤス殿。しばらく時間が必要なので、適当に時間を潰していてください」
「わかった・・・!あっそうだ。ダーホス。魔物に詳しい奴に話を聞きたいけど誰か話を聞ける奴はいないか?」
「それなら、この辺りで、私の次に詳しいのは、イザークですが?」
「ありがとう。イザークは、門番をしているよな?」
「そのはずです」
「わかった、イザークと話をしているから、査定が終わったら教えてくれ」
「わかりました」
ヤスは立ち上がって、ギルドから外に出た。