第一話 三度ユーラットへ
批難を含んだ絶叫を上げたリーゼを無視して、ヤスとアフネスとダーホスは、今後のことを決めることにした。
まずは、ユーラットに戻る。これは、すでに決まっている事だ。ヤス以外の人間を届けなければならない。
その前に、
「アフネス。ダーホス。一度、地下一階に移動して、荷物を居住スペースに移動させたいけどいいか?」
「あぁ」「問題ない。手伝うか?」
「悪い。俺しか居住スペースには入られないから気持ちだけもらっておく、荷物の移動を手伝ってくれ」
「わかった」
まだなにかブツブツ言っているリーゼの頭をアフネスが一発叩いた。
「痛い!何するの!?」
アフネスが、リーゼを抱き寄せて、耳元で何やら呟いている。
リーゼの顔が青くなってから、赤くなって行く。耳まで赤くなってから、元の色にだんだん戻っていく。
「わかった。僕!頑張る!」
「うん。頼んだよ」
やっと落ちつたリーゼは、当初アフネスとヤスに騙されたと思っていたのだ。
リーゼにはやりたい事があった。自分の目で、足で、手で、身体で世界を見て回りたいと思っていたのだ。ヤスと知り合ったときには、辺境伯の領都まで手紙を届ける事になっていた。リーゼはそれさえも嬉しくてたまらなかった。ユーラットの町は記憶に無いくらい小さいときに来て育った町で好きだが、他の町や街や都を見てみたいと思っていた。
ヤスの
ロブアンはリーゼの考えには頭から反対している。アフネスは消極的な賛成だと思っていたのだが、ユーラットを有事から守るという役目を押し付けられて、長い間町を離れられない”騙された”と、思ってしまったのだ。
しかし、耳打ちされた内容はリーゼが望んだ事以上だったのだ。リーザは、アフネスが味方してくれたと考えを変えたのだ。
「アフネス。リーゼ。もういいのか?」
「あぁ」「うん!ヤス。僕も手伝うよ。寝所に入るのを試していいよね?」
「あぁそれじゃ一度地下一階に戻るぞ!」
今度はしっかりとシートベルトを自分でしていた。若干、リーゼだけがわざとだと思うのだが、もたついていたので、ヤスが最後だけ手伝っていた。やたら嬉しそうにしていたので、ヤスもアフネスもダーホスもそのままスルーする事にしたようだ。
帰りもナビはまだ使えない状況だったので、ヤスはスマートグラスをかけて神殿を進んでいった。
リーゼの質問攻撃もない事から、ヤスは徐々に速度を上げて神殿の中を進んでいった。
(落ち着いたら
”エミリア。確か、神殿のマップは自由にいじれるよな?”
”可能ですが、討伐ポイントが必要です”
(そうか・・・金以外に、神殿の改造や今日中スペースの充実には討伐ポイントが必要になるのだったな)
”なぁ金貨を討伐ポイントに
”マルスにて検討します”
”頼む。討伐ポイントの稼ぎ方も考えないと駄目だろうからな”
”了”
ヤスがエミリアと話している最中に地下一階に到着した。
「すまん。少し待ってくれ、荷物を移動したい」
「わかりました。手伝います。どこに移動すればいいですか?」
「僕も手伝う!」
ヤスがハッチバック部分を開けて荷物を降ろす。
それを、リーゼとダーホスとアフネスが、居住区に向かう
(そうだな。フォークリフトとかも欲しいよな。そうなると、パレットや木箱も必要だよな)
「ヤス!それで、どうやるの?」
「ん?あぁそれに乗って上がるだけだぞ?リーゼが乗っていると上がらないと思うから、俺だけでやってみる」
「・・・。う・・・ん。わかった」
ヤスがエレベータに乗り込むと、透明な壁が横から出てきた。
『認証完了。マスター。おかえりなさい』
ヤスの前に透明な板が出現した。
エレベータのコントロールのようだ。
”B2階/B1階/1階/2階/3階/4階”
と、表示されている。
B2階は、工房になっている
B1階は、地下駐車スペースになっている
1階は、外に出るための場所で何も設置していない
2階は、今後の為に作った場所で何もない
3階は、リビングやキッチンが設置されている場所になる
4階は、寝室と風呂が作られている場所になる
トイレは、ヤスの希望で全部の階に男性用と女性用が別々に作られている。
ヤスは、3階のボタンを押した。
「あっ」
リーゼの切ない声が響いたのだが、動かないものはしょうがない。
ヤスも3階で荷物を降ろしたらすぐに戻るつもりでいた。日持ちする物がほとんどだと言っていたので、気にしないようにした。
「マルス」
『はい。マスター』
「この部屋の温度を気持ち下げられるか?」
『どの程度下げますか?現在は、約75度』
「75?あぁ華氏か?摂氏に変換できるか?」
『現在は約24度です』
「そうか、10度くらいまで落とせるか?」
『可能です。実行しますか?』
「たのむ。それから、荷物を保管する場所を作りたいけど、すぐに作られるか?」
『討伐ポイントを確認。現在の荷物の3倍ほど入る場所まで可能です』
「3倍で作ってくれ、部屋ができたら5度くらいまで下げておいてくれ」
『了』
すぐに反映されて、3階のエレベータの出口の横に新たな扉が出現した。
中に入るとひんやりしている。これから、室温が下がっていくのだろう。ヤスは、荷物を一旦その部屋に入れる事にした。
荷物の搬入が終わってヤスは一息ついた。
(一人じゃ辛いな。外にダミーの家でも建てて誰か雇おうかな?事務員も必要だからな・・・。うーん。その前に、金稼ぎの方法だよな・・・。はぁ楽できないようになっているのだな)
エレベータで地下一階に降りると、リーゼが閉まった扉を叩いたり押したり引いたりいろいろしている。
「え?」「あっ」
ヤスが地下一階に到着したら、当然の様に扉は開く・・・。
結果、リーゼは叩こうとした扉がなくなって、そのままヤスに抱きつく形になってしまった。
「おっと。リーゼ。熱烈なお出迎えありがとう。でも、あと10年後に頼む。まだまだ子供だな」
ヤスはリーゼを抱きながら、尻を思いっきり触っている。
「バカ!エッチ!ヤスのバカ!」
リーゼは抵抗しようとしたようだが、ヤスの腕から出たくないのかそのままの状態で文句だけを言っている。
「なんだよ。助けたのに、文句かよ?」
「え?あっ・・・。ごめん。ありがとう。抱きとめてくれないと転んじゃうところだった」
「いいよ」
素直になったリーゼの頭を2-3回ポンポンと優しく叩きながらヤスはリーゼの体制を元に戻す。
「リーゼ。これでわかっただろう?ここから先は、俺しか入られない」
「うん。残念だけど、何をやっても駄目だった」
「わかってくれればいい」
辺りを指差している事はヤスにも確認できるのだが会話の内容まではわからない。それに聞いてもあまりいいことは無いだろうと判断している。
「悪い。またせたな」
「いえ、大丈夫です。このまま、ユーラットに戻るのですか?今、アフネス殿と話したのですが、外は暗くなっていますよ?この地下1階なら魔物もでませんよね?ここで一泊してからもいいと話していたのです」
「あぁそうか・・・うーん。大丈夫だ」
「え?」「は?」
「いいから、乗れよ」
「はぁ」
リーゼは、ディアナのライトを見ているからヤスの言った事がわかるのだろう、アフネスの背中を押して後部座席に押し込んで自分は助手席に座った。
ヤスはシートベルトがされていることを確認してから、走り出した。
もちろん、ライトはハイビームだ。
ダーホスとアフネスの質問が少しだけ有ったがそれだけで、自然と二人は黙った。
暗闇の中をライトの灯りで照らされているのだが、それだけで走らせるヤスの感性を疑ってかかっている。
リーゼは、怖い。怖い。いいながらどこか楽しんでいる様子だ。
下り道だが、暗闇の中を抜けていく感覚を楽しみながら20分の走行でユーラットに到着した。