第九話 再びユーラットへ
ヤスは、コアが置かれている部屋を出て、モンキーにまたがった。
このまま地下1階の駐車スペースまで移動する事にしたようだ。
スマートグラスには来た時と同じでナビが表示されている。迷わず帰る事ができる。
ヤスは時刻を確認した。14時ちょっと過ぎをさしている。地下1階に戻って、FITに乗り換えてユーラットに到着するのが、16時位。
買い物をする時間があればよいがなければ、ロブアンのところで食事だけして帰ってくる事も考えなければならない時間だ。
ヤスは最下層から1時間程度の時間を使って地下1階に帰ってきた。
FITに乗り込んでエンジンスタートのボタンを押下した。
どうやら、エミリアが鍵の代わりにもなるようだ。モンキーの時にも不思議に思っていたようだが、クルマに乗り込んだ事で把握できたようだ。
電子キーに切り替わっていて、エミリアがキーになっている。
ヤス以外が運転できない理由の1つになっている。
エミリアのコピーを作るかエミリアの代わりになるようなアイテムを作るか購入する必要があると考えたのだが、実はそれほど難しい事ではない。スマホを購入してエミリアと接続すれば使えるのだ。その条件が、前に説明を受けた”従業員契約”や”伴侶”や”永続奴隷”なのだがヤスはすっかりと忘れてしまっている。
設置したばかりの地上に出る事ができるスロープを上がっていく、途中にセンサーがあり、正面の扉が自動的に開く仕組みになっている。
自動シャッターは、日本に居るときにも経験しているので、使い方は問題ない。シャッターから差し込む夕日が少しだけやすの目を刺激する。
シャッターが上がるまで待っているのだが、ヤスにとって、シャッターは有って当然の設備なのだ。
ステアリングに付いている結界を発動するボタンを押下して、FIT全体を結界で包み込む。
ナビが何やら更新している。
「エミリア。ナビが更新しているけど、このまま走って大丈夫か?」
『大丈夫です。ナビにディアナとの接続、マルスとの接続、エミリアとの接続を行っています。地図情報の更新を行っています』
「あぁそうか、地図データや異世界固有のデータの更新はしないとダメだな」
『はい』
「どのくらいで終わる?」
『20,976秒です』
約6時間。待っていられるような時間ではない。
ヤスは、探索中に見つけたパンを食べたがそれだけだ。空腹感は多少だが満たされたがまだまだ空腹で食べられる。
「そうか、わかった。走ってもいいのなら、ユーラットまでは、スマートグラスで行こう」
『了』
ヤスがかけたスマートグラスにはユーラットまでの道が表示されている。
ほぼ一本道なので迷うことは無いのだが、山道を走る上では次のカーブは把握しておきたい。また、魔物が飛び出してくることも考慮しなければならない。
それに、ヤスはすっかり・・・。完全に忘れているのだが、イザークから伝言を聞いたダーホスが神殿に向かう可能性を・・・。
スマートグラスをしていたので、神殿に向かってくるダーホスとアフネスに気がつくのは、もう少し後になる。
(快調だな)
ヤスは快適にFITを走らせている。
普段使いできるコンパクトカーとして日本でも乗っていたのだ。ホンダ狂の親友に進められたのだが気に入っていた。同じスペックが有ったのでいろいろ理由をつけて購入したのだが、フィーリングが有っているようだ。
(それにしても、道が綺麗になっているな)
道に関しては、最初はディアナで無理矢理に通ったのだが、それ以降はディアナが道として認識して、マルスが支配領域にした事で、魔法を使って整備をしているのだ。舗装道路ではないが、”一般のクルマ”が普通にはしる事ができる位には整備できている。
(道が、日○平パークウェイみたいで楽しい。道幅が少し広いし、俺しか使っていない!と、いうことは!!)
ヤスは、アクセルを踏み込む。
FITの1.5リッターのエンジンをHybridシステムがパワーアシストする。エコモードを解除して、走行をスポーツモードにするSモードボタンを押下する。エンジンの回転数が上がるのがわかる。パドルシフトを使いながら、ギアのアップダウンを行う。道は全く同じではないが、結界がある事や対向車を気にする必要がないことなど、いろいろな要因が重なりヤスの
下りの山道・・・。それも舗装されていない道を爆走している。4WDでもタイヤが流れるのがわかる。
ヤスは結界を信じてギリギリまで攻めている。事実、日本で同じ事をやったら谷底に何度か落ちているだろうし、ガードレールとダンスを踊ったのも一度や二度では無いはずだ。
(ん?)
スマートグラスに人族を示す白色のマークが3つと緑色のマークが3つと青色が2つ光っている。
スマートグラスで示されている場所は、ユーラットの裏門の近くだろうか?ヤスがディアナを停車していた場所のようだ。
(あ!忘れていた!そうか、ダーホスが神殿に来るとか言っていたな。なんで今日だよ。明日にすればいいのに!)
自分で伝言したことを忘れて文句をいいそうになっていた。
それでもいろいろ思い出したのか、速度を緩めて考えながら運転し始めた。
裏門が見えてきたところで、伝言した事を思い出した。
ギリギリセーフだろう。
裏門の近くにある
近づいてきたFITを見て何かを悟ったアフネスとダーホスとイザークが身構える武装した3人を制止した。
ヤスは、結界を解除して窓を開けた。速度は10キロ程度のいつでも
イザークが近づいてきた。
「ヤス。また新しいアーティファクトか?」
「そうだ。それよりも、停めていいか?」
「そうだった。ちょっと待て」
イザークが武装した3人を下がらせて、ディアナを停めた場所を指差して、そこに止めろと言っている。
ヤスはすぐに出す事を考えて、バックで駐車する事にした。
「ヤス!」
一番近かったイザークが話しかける。
「ん?」
「それも神殿のアーティファクトなのか?」
「あぁ増えた」
「増えた?」
「説明が難しいけど、神殿は地下5階」「ちょっとまってくれ、ヤス殿!」
「どうした?ダーホス?」
ヤスとイザークの会話を、ダーホスが遮った。
「いえ、申し訳ない。イザーク殿。ヤス殿が来られたので、護衛は・・・」
「わかった。ダーホス。俺たちは戻る。ヤス。またな!」
イザークが少しだけ怒った声で話をしてから、離れていった。
そして、離れたところで待機していた、3人に声をかけて、アフネスに声をかけてからユーラットの町に帰っていった。
最後まで、なにかブツブツ行っていたのだが、アフネスに挨拶して肩を叩かれたところで落ち着いたようだ。
イザークと護衛の3人が裏門から町に入ったのを確認してから、アフネスとドーリスが近づいてきた。
ドーリスは初めて見る、
「ダーホス。ドーリスはどうする?」
「帰しますよ。ドーリス。いつまでここに居る。ギルドに帰りなさい。業務が有るだろう!?」
「え・・・。あっ・・・。はい。わかりました」
渋々という体で、ドーリスはユーラットの裏門の方に戻っていった。
ドーリスの様子は後ろ髪を引かれるように・・・。なんでそんな状態になっているのかわからない位に、ヤスの
「さて、ヤス殿」「ヤス。神殿に連れて行ってくれるよな?」
アフネスが直球で聞いてきた。
「問題ないが、その前に食料を買いたい。1週間分くらいあればいい。水は確保できるので大丈夫なのだが、食料がまったくない。このままでは餓死してしまう」
「ハハハ。たしかに。ダーホス。持っていくはずだった食料を、ヤスに渡していいか?かなりの量があるはずだよな」
「はぁ・・・。いいですけど、そうだ、ヤス殿。そのアーティファクトで、私たちを神殿に運んでくれますか?」
「え?」
「ヤス。ダーホスが、私とダーホスを神殿まで”
ヤスに損はない。
どのみち、ダーホスを連れていかなければならないのは確定していた。それなら、一緒に行ったほうが楽だ。
ヤスは、人を運ぶ仕事はしないと決めているが、数少ない例外の1つで仕事を受けるために人を運ぶのはしょうがないと考えている。今回の、ダーホスとアフネスを運ぶのはまさにそれだと思って受ける事にしたのだ。
食料が欲しい・・・が、主な理由なのだが、別に煩い法律が有るわけではないし、大量に運ぶわけでもないので、まぁいいかなと軽く考えていた。