バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

尽き果てた前戯汁!

 カエデさんの葬式の前に、遺体の解剖が行われていた。死因は頭部打撲。頭骸骨は砕け散っていたが、その痕跡は石でもなく、棒でもなかった。遺体の周辺をくまなく捜査されたが、カエデさんを死に至らしめた凶器は発見されなかった。いったいカエデさんが何で殴られて殺されたのか?が、捜査関係者の中で大きな疑問として残っていた。

 捜査一課の個室で、丸めたティッシュの山を横に冴渡が疲れていた。
「もう何本目だ……」
 勃起する事すら忘れた冴渡は、カエデさんが男優のアソコをもてあそぶシーンを見ながら、疲れた様子で目頭を押さえた。
 葬儀から帰った冴渡は、捜査資料を一から見直そうとカエデさんのDVDをデビューから時系列を追って鑑賞していた。さすがの冴渡も見始めて5時間経過しているせいか、前戯汁も底をつきパンツの中が冷たく感じるようになっていた。
 尿道球腺液。通称カウパー腺液は、機能上勃起した陰茎の表面全体を潤すのに必要な1cc程度を一度に分泌する能力があるが、この時の冴渡のカウパー腺液はゆうに5ccを超えており、肛門にまで潤いを与えていた。
 冴渡がそうやって捜査をしているのには訳があった。カエデさんは何か自分のエロビデオにメッセージを残しているのでは無いかと考えたのだ。例え、メッセージを残していなくても凶器に関する何らかのヒントがあるかもとも考えていた。

 実際、捜査は難航していた。当初の見立てでは、FC69とのエロ動画抗争の線で警察は動いたが、FC側には塚橋兄弟という双子しかおらず、彼らが二人きりで始めた投稿サイトであり彼らにはアリバイがあった。しかし、塚橋兄弟には裏の世界との繋がりがあるという噂があり、警察は、組織犯罪対策部(通称マル暴)に情報収集を行っているところだった。

 そんな時、素人投稿サイト『FC69』ではトップページにこんな文言が掲載された。

『カエデさんを殺した犯人として我々は警察から疑われています!
 しかし、絶対に私たち(当サイト)は一切関与していません!』

「なんだこりゃ。警察に対する侮辱じゃねぇか」
 冴渡は目の疲れを癒そうと、FC69のサイトをたまたま見てそれを発見した。
 そこへM探偵こと奥葉ジン子が冴渡を訪ねて警視庁に来た。ジン子は明日からのAV撮影に少し緊張していた。
「やだ冴渡さん、なんか……匂いがする」
「俺のカウパー汁だ……クソ! これだけカウパーが出るぐらい見ても手掛かり無しとは!」
 冴渡が机を激しく叩き、山積みのティッシュが崩れ落ちる。
 ジン子は冴渡の男としての野生臭をすぐそばに感じ、ジンジンせざるを得なかった。
「カエデさんのことだ。ビデオに何らかのヒントがあるんじゃないかと思ったんだが……見当違いか!」
「FCの方にはカエデさんの動画は無いのかしら?」
「なるほど。誰かが投稿している可能性もあるな」
 冴渡はパソコン画面のFCサイトをクリックし検索画面に『カエデさん』と入れた。
 サーチ結果が表示される。そこには今までカエデさんが出たAVを個人で編集したような代物ばかりだ。
「著作権もあったもんじゃないな。FCは無法地帯と言われる所以だ」
「いえ、ちょっと違うのがある。冴渡さん、これ」
 ジン子が指を指したサムネイル画像には、喫茶店でハーブティを飲むカエデさんを盗撮したような画像がある。
「これは……!」
 冴渡は迷わずクリックする。
 しかし、
『この動画は削除されました』
 と、出る。
「ち。ダメだ。消されてる。このハンドルネームの男を探そう」
 冴渡は『Mr.ichimotsu』(ミスターイチモツ)と名乗る男をクリックする。
 彼の投稿動画には、AV女優の盗撮動画が多いようだ。
「こいつ……よし。こいつを特定しよう。早速、サイバー対策課に連絡しよう」
「冴渡さん、わたしも行きます!」
「M探偵は明日から撮影だろ? あとは俺に任せろ」
「え……でも……」
「お前のおかげだよ」
 ポンと頭を叩かれたジン子は本気で抱かれたいのは冴渡だけだと悟った。ほんとはずっと一緒に捜査したい。しかし今回はそういかないようだった。

「そうだM探偵。こっちで見せたいものがある」
 冴渡は捜査一課の自分のロッカーに向かった。
 ジン子は切ない胸の鼓動を、冴渡の背中にぶつけたい気分で見つめた。

しおり