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200年後の世界の概要

 2220年、僕は立てかけられたカレンダーに違和感を覚えた。今年は2020年のはず。一個だけ数字を間違えてしまったのだろうか。

 冬樹は外を見届ける。昨日まであったはずの光景が消えてなくなっていた。進化したというより、江戸時代にタイムスリップしてしまったかのようだった。

 朝は車が走る地域。それにもかかわらず、路上を走行している車が一台もない。昨日まではバンバン走っていたのに、どうしたのだろうか。

 冬樹は他の変化にも気づいた。地上の人がどういうわけか全員マスクを着用している。強烈なウイルスが蔓延しているならまだしも、通常の状態でマスクをするなんてちゃんちゃらおかしい。地球人の頭がおかしくなってしまったのだろうか。

 僕がマスクをしないで外に出かけようとしていると、親父が声をかけてきた。こちらは顔が変わっていなかった。

「息子、大日本帝国憲法第三十条であるマスク着用義務法を忘れてしまったのか。外出するときは、鼻と口を露出することは許されない。法を犯した者は十年以下の懲役に科される」

 マスクをしていないだけで懲役を科される、そんなおかしなことがあるか。くだらない法律を
生み出した政治家を目の前に呼びつけてやりたい。

 どんな事情があったにせよ、犯罪になることは事実。僕は家の中からマスクを見つけ、着用することにした。

 ブゥオーン、警報さながらの音が空から響いてきた。何事かと思っていると、スピーカーらしきものから大音量が流れた。

「天皇陛下様がご挨拶をなさるぞ。画像に向かって敬礼!」

 路上を歩いている人の全員が土下座よりも深く頭を下げていた。僕が頭を上げたままでいると、隣の人が慌ただしい声を発した。

「日本国において天皇は神とされている。そのような人物に不遜な態度を取ると、国家反逆罪で逮捕されるぞ」

 日本は国民主権のはず。いつから君主制に戻ってしまったというのか。 

 僕は地面に正座し、頭を深く下げる。額を汚さないようにしていると、男から注意された。

「額が綺麗なままだと、神に対しての冒涜とみなされる。地面と重なるようにぴったりとつけるようにしろ」

 いちいち面倒だとは思いつつも、額をピタリとつけることにした。神と名付けられるくらいだから、よほどすごい人物なのだと思われる。

 画面から40代くらいの男が出現した。見た目だけでは、すごい能力を持っているようには見えなかった。

「わしが天皇陛下だ。庶民の皆さん、ごきげんうるわしゅう」

 慣れるまではストレスになりそうな話し方だ。上司がこういうタイプだったら、パワハラで訴えていた。

 神の話は耳に入れても入れなくてもいいような話ばかりだった。学校の校長の方がまだましな
ことをいうレベル。独裁国家だからやむを得ないとはいえ、低次元話にうんざりした。

 額が痛いからとっとと話を終えろよ。こちとらくだらない世間話を聞いている猶予はない。会社に早くいかないと、遅刻になってしまう。

 天皇は話の途中にときおり咳をする。自分の威厳を見せつけているかのようで、非常に不愉快だった。

 天皇陛下の話は2時間にわたって続いた。小学校時代の校長先生の挨拶の何十倍もの長さに、あやうく罵声を浴びせそうになっていた。

 画面を見て目を疑った。天皇陛下が100メートルの距離を1秒で移動したではないか。ワープを見せつけられているかのようだ。

 親父が超能力についての説明を加えた。

「移動はあんな感じにするんだ」

 冬樹も自分もできるかなと思っていたけど、身体は一向に動く気配を見せなかった。

「ワープを使用できるのは天皇の特権事項とされている。我々は自分の足で動くしかない」

 車がなければ、移動距離に制限がかかる。海外に旅行するのはほぼ不可能といえよう。日本国内ですら、まともに行き来できない。そのような状況で食料は入手できるのか。

 200年後の世界に絶望していると、親父が励ましの声をかけた。 

「お前は疲れているようだから、朝飯を食って元気を出せ」

 朝食の習慣は残っているようだ。冬樹はそのことにほっと一息をついた。こういう世界だと、神様以外は汚い水しか飲めないということも充分にあり得た。

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