森の恵みがあれこれと その3
テトテ集落近くの森の中で木の実の収穫を頑張っているタクラ一家とテトテ集落皆さんの一団です。
スアが魔法を使えばおそらく一瞬で全てを収穫し終えてしまうのでしょうが、そこはスアも空気を読んでくれていまして、必要最低限度しか魔法を使っていません。同行している皆の手が回っていない木とか、実のなっている位置が高すぎて皆が収穫を諦めた分とか、そういった実に対してのみ、そっと魔法を使っています。
何しろ、
「パパ! ママ! こんなに取れました! もっととります!」
と、満面の笑顔で報告にやってくるパラナミオを見ていると、さすがにその邪魔といいますか、木の実を根こそぎ収穫してしまうのは……ねぇ?
で、そんな中、新たに栗っぽい実がなっている木を発見した僕は、地面に落下しているイガイガの実を、足を使って割ってみました。
すると、その中から栗っぽい実が出てきたわけでして……
で、それを見たテトテ集落の皆さん、
「うわ!? 店長さん、それやばいって」
「爆発するぞい」
「すぐ捨ててぇ」
と、まぁ、みなさんそんなことを言われまして……
で、落ちついたところで詳しくお話を聞くと、
「そのバックリンの実はの、ちょっと熱を加えると爆発して飛んで行くんじゃ」
「しかもその勢いが半端なくてのぉ……」
とまぁ、そんな感じでして……
これってあれですかね?
栗の実に切れ目を入れずに焼いたから爆(は)ぜたとか、そういうことじゃないんですかね?
で、まぁ、僕はおもむろに枯れ葉を集めてですね、そこに火をつけてその中に、殻に十徳ナイフで切れ目を入れたバックリンの実を入れてですね……
そのまま焼き上がるのを待っているとちょっと時間がかかってしまうので、スアの魔法で時間短縮してもらって、焼き上がった栗がこちらになります。
僕は、そこだけ数時間時間が進んでいる焚き火の中からバックリンの実を取り出し皿の上に乗せていき、皆さんに見せていきました。
「……確かに、爆発せなんだの」
「……殻に切れ目をいれるだけで爆発しなくなるなんて」
「しかも、火の熱で熱するくらいしないと爆発しないとか……」
「誰じゃ、手に持ってるだけで暴発するとか言ってたヤツは」
とまぁ、皆さんあれこれ言われていますけど、とにかく、切れ目を入れて焼いた栗は一切爆(は)ぜませんでした、はい。
で、焼き上がった栗の皮を剥いてみますと、この世界の栗モドキ~バックリンですが、渋皮がないんですよね。これは剥きやすくて助かります。
で、それを口に含んでモグモグモグ……
って
「渋っ!? これすっごい渋!?」
そのあまりの渋さに、僕は思わずはき出しそうになるのをこらえるのが必死でした。
そうなんです。
バックリンの実ってすっごい渋いんですよ。
なんていえばいいんでしょう……元の世界の栗の渋皮の味が実の中に集約されているような、そんな感じとでもいいましょうか……
「う~ん……この味じゃあ、ちょっと料理には使えないか……」
とは言う物の、どうにかすればこれ、使えないもんかなぁ、と、考える僕。
見た目がここまで栗に似ているのですし、まったく食べられないわけはない気がするんですよねぇ……
そんな感じで考え込んでいる僕の横で、スアは焼き上がったバックリンの実を1つ掌の上にのせて何やら魔法陣を展開しながら解析しています。
で、バックリンの上に表示されているウインドウを見つめながら、フンフンと何やら頷き続けていたのですが……
「……なんとか出来るかも、よ」
スアはそういうと、皮を剥き終わっている焼きバックリンの実を、魔法袋から取り出した片手鍋の中に入れました。
で、その片手鍋の中に、ある液体をドボドボ入れていきます。
で、その片手鍋を、本来でしたら魔法コンロの火で煮立たせていくそうなのですが、今は森の中なので、スアの火炎魔法で鍋の中の液体を沸騰させていきます。
……その液体っていうのが、タクラ酒だったわけです、はい。
で、煮立ったタクラ酒の中でしばし煮込まれたバックリンの実を食べて見ますと……あら不思議、さっきの渋みが完全になくなっています。
この味は、僕が元いた世界の栗そのものなわけです、はい。
スアによりますと……
バックリンの渋みの成分は、タクラ酒の中で煮ることによってタクラ酒と結合して甘み成分に変換されていくんだとか。
うん、これなら普通の栗として使用出来ます。
栗ご飯に、栗きんとん、スイーツで言えば本格的なモンブランなんかも出来そうです。
渋抜きに使用するタクラ酒ですが、もともと濃厚な仕上がりになっている酒なもんですからアルコール分が飛んでも当分の間渋抜きに使えるらしく、スアの推計だと瓶1本でバックリン3000個くらいはいけるんじゃないかって話でした。
まぁ、もともとコアな層にしか売れていないタクラ酒ですし、在庫は結構ありますし……うん、バックリンの渋抜きに使用するのもありかもしれません。
ちなみに、スアによると、この渋抜きに使用したタクラ酒は結構栄養分が残っているらしく
「……畑にまくと、いいかも、よ」
だそうですので、今度液肥ってことにして売ってみようかなと思ったりしています、はい。
ガタコンベ周辺って農耕がかなり盛んですし、テトテ集落も農耕で成り立ってる集落ですし、案外売れるかもな、と、思った訳です、はい。
◇◇
そんなわけで、カルキーンの実と、バックリンの実を目一杯収穫して僕らは集落へと戻っていきました。
いまだにちょっと熱を加えたら爆発すると思われているバックリンの実が籠いっぱいにあったもんですから、村の皆さんは真っ青になっていたんですけど、そんな皆さんにパラナミオが
「大丈夫です、パパが爆発しないようにしてくれました。そしてこんなに美味しくしてくれました」
満面の笑顔でそう言いながら、焼きバックリン~渋抜き終了分~を皆さんに振る舞っていったんですけど
「うん!?なんだこりゃ!?バックリンってこんなに上手かったっけ?」
「ホントだ、すっごい美味しいぞ、これ」
パラナミオから受け取った焼きバックリンを食べた皆さんは、一様にびっくりするやら感動するやらだったわけです、はい。
この日、僕はテトテ集落の皆さんに、干しカルキーンの実の作り方をお教えしておきました。
とにかく、風通しのいいところで乾燥させて、雨露には気をつけるように申し添えました。
僕が元いた世界ではカビ対策として茹でたりすることもありましたけど、この世界はかなり湿度が低いですから風通しと雨露に気をつけてさえいれば、まぁ問題ないでしょう。
出来上がった干しカルキーンは、おもてなし商会で買い取りさせてもらうことにしてあります。
うまく売れて、テトテ集落の特産品になっていってくれたらいいなと思っている次第です、はい。
バックリンの方は、大量のタクラ酒で渋抜きをする必要がありますので、スアの使い魔の森で作業することにして、集落の皆さんには収穫作業をお願いすることにしました。
いままでは、ちょっとした温度で暴発するというデマ~切れ目を入れることなく火で焼くと爆ぜるだけだったんですよね……と、これと合わせて周囲を覆っているイガイガのせいで、バックリンを敬遠していたテトテ集落の皆さんですが、僕が足で挟み込んで実を露出させ、そこに火ばさみを突っ込んで収穫する方法をレクチャーしておきましたので、今後はこの方法で収穫してくれるはずです。
ちなみに、火ばさみはルア工房で作成してもらい、コンビニおもてなしで絶賛発売中なのですが、持参してきていたその品を皆さんに無償提供しておきました。
で、集落に戻った僕達が帰宅準備をしていると……気のせいか、村の一角にでっかい小屋の建設が始まったんですけど……まさかアレ、干しカルキーンの干し場を作っているんじゃ……
そんな集落の皆さんは、
「お任せ下さい、すぐにカルキーンの実を増産してみせますぜ」
そう言ってニカッと笑ってくれました。
ちなみにこのカルキーンの実ですが、一番収穫出来るのは今の時期らしいのですが、ほぼ一年中収穫出来るそうなんですよ。
となると、安定的に干しカルキーンの生産も可能になるし……うん、ホント特産品になってくれたらな、と思わずにいられないわけです、はい。
とまぁ、そんなテトテ集落の皆さんに見送られながら僕らはおもてなし1号で帰宅していきました。
いつものように、集落の皆さんが見えなくなるまで手を振っていたパラナミオですが、皆さんの姿が見えなくなると隣のサラさんにもたれかかりながら眠り始めていました。
今日は元気に森の中を駆け回っていましたし、さもありなんなわけです、はい。
で、そんなパラナミオの横でサラさん、焼きバックリンを食べ続けています。
……なんか、サラさんっていっつも何か食べてる気がするけど……
そんな僕に、サラさんは
「ところで店長殿、今夜のご飯は何でしょう?」
って聞いてきました。
その言葉に、僕は思わず苦笑するしかなかったわけで……