森の恵みがあれこれと その2
おもてなし1号にのってテトテ集落に到着しました。
相変わらず物見櫓には、巨大な垂れ幕がぶら下がっていまして、
右が『歓迎 パラナミオちゃん、リョータくん、スア様』
左が『テトテ良いとこいつでもおいで』
と……なんかどっかで聞いたような台詞が書かれていました。
んで、右の垂れ幕に僕の名前が見えなかったんですけど、近づいて見ると案の定、垂れ幕が長すぎたもんですから僕の名前の部分が地面の上になっていたわけです……いえ、もう慣れましたけどね、この扱いにも……ははは。
ちなみに今回は、いつもの僕、パラナミオ、スアとリョータのメンバーに加えて、遊びに来ているサラさんも同行しています。
いえね、パラナミオが
「明日はですね、山の食べ物を取りにいくんです!」
そうサラさんに話したところ、
「私も同行していいだろうか?」
と、すごく真剣な表情で申し出てこられたんですよ……気のせいか、口の端に涎が一筋流れていたような気がしないでもないんですけど……
村についた僕達は、いつものようにまずは行商からスタートです。
コンビニおもてなし4号店のララデンテさんが作りまくっている温泉饅頭の袋~一袋十個入り~をテーブルに並べていると、その前に綺麗に行列が出来上がります。
皆さん、過不足なく料金の準備もしてくれています。
いえね、みなさん温泉饅頭が目当てといいますか、この後、パラナミオのところに温泉饅頭の袋をもっていって、パラナミオに『はい、あ~ん』って食べさせてもらおうとしている爺様婆様方なのですよ。
なんと言いますか、テトテ集落でのパラナミオは『集落のみんなの孫娘』的ポジションを確固たるものにしているわけです。
で、そんなパラナミオに迷惑を賭けないように、この温泉饅頭購入希望者の皆様には暗黙の約束事があるそうでして、なんでも
・1人1袋しか購入してはならない
・パラナミオちゃんを長時間独占してはならない
とまぁ、そんなルールをテトテ集落の皆さんが独自に決めて、互いに遵守しているそうなんですよね。
そのおかげで、以前のようにパラナミオの前が異常に混雑することもなくなったのでホントにありがたいわけです。
で、パラナミオが集落のお年寄りと一緒に
「はい、お爺ちゃん、あ~んです」
「おぉ、パラナミオちゃんに食べさせてもらうと格別じゃわい、どれ、ワシも食べさせて上げよう、あ~ん……」
と、いった具合で、温泉饅頭の食べさせあいっこをしている姿を見たサラさん。
「……あれはいいものだな」
そう、ボソッといったかと思うと、おもむろにパラナミオの横に自らイスを持って行って座ると
「さぁ、私も『あーん』をさせてやろう。お返しに私にも食べさせてもらうぞ」
そう言いながら、両腕で皆を手招きしています。
なんかその手招きの仕方が、
『かかってこいよ、コノヤロー』
的に感じてしまうのは、気のせいだと思うのですが……
ちなみに、序盤は誰一人サラさんの前には座らなかったんですけど、終盤になるとですね、可愛そうなくらいに落ち込んでしまった……というか、イスに座って真っ白な灰状態になってしまったサラさんを見るに見かねた数人のお爺さんたちが、パラナミオあーんを少し早めに切り上げて
「お嬢さん、ワシにあーんをしてもらえるかな?」
サラさんの前に並んでくれていました。
サラさんってば、若干目をウルウルさせながら温泉饅頭の食べさせあいをしていました。
……そ、そこまで喜ぶっていうのも、ある意味すごいなと思ったわけです、はい。
ちなみに、若く見えるサラさんですが、年齢だけでいえばこの集落の誰よりも年上なんですよね、これでも……さすがサラマンダーといいますか。
パラナミオあーんと、サラさんあーんが終了し、コンビニおもてなし青空市場も商品が完売したところで、さぁお待ちかねの木の実狩りに出発です。
なお、パラナミオが行くというので、
「ワシが案内してやろう」
「いや、ワシが案内するぞ」
「いえいえ、そこはこの私が……」
と、まぁ、すごい数の皆様が同行を希望されたのですが、厳正なるじゃんけんを勝ち抜いた精鋭の皆様10人が同行することになりました。
ちなみに、長のネンドロさんや、おもてなし商会のリンボアさんも予選敗退するほどのガチの激戦でした、はい。
カルキーンの実を見つけてくれたミミィさん達集落の用心棒の皆さんも同行してくれています。
「しかし店長さん、あの渋いカルキーンの実がホントに美味しくなるのかね?」
同行しているお爺さんの1人が首をかしげながら聞いて来ました。
まぁ、こうなると論より証拠です。
「これ、カルキーンの実を加工した物なんですけど」
そう言って僕は、先日作成した干し柿を魔法袋から取り出すと、それを十徳ナイフで輪切りにしていきます。
この十徳ナイフですが、コンビニおもてなし4号店で売り出した品なんですけど、今ではコンビニおもてなし全店で販売していまして、結構好調な売れ行きをしているんですよ。
で、僕は、自分の掌の上で切り分けた干し柿をテトテ集落の皆さんに差し出しました。
最初こそ、おっかなびっくりといった感じで、僕の掌の上から輪切りにされた干し柿を手にしていった皆さんだったんですけど、一度口に運ぶとですね、
「ん!?甘い!? えぇ!?」
「なんでこんなに甘いの!?すごく濃厚で美味しいわ」
と、皆さんびっくりだったわけです、はい。
この世界には、柿モドキと言えるカルキーンが存在していたわけですけど、それを干すと甘みが出るということに、今まで誰も気がついていなかったことになります。
こうして考えると、僕が元いた世界で初めて干し柿を作った人って、ほんと偉大だったんだなぁ、と、変なところに感動した僕だったわけです、はい。
しばらく森の中を進むと、
「あ、ここです」
ミミィさんがそう言って指さした先に、たくさんのカルキーンの木が群生していました。
すべての木にカルキーンの実がたわわに実っています。
「この実は渋いからの、鳥すら食わんのじゃよ」
お爺さんの一人がそう教えてくれました。
まぁ、僕らにしてみれば好都合なんですけどね。
で、僕らは早速収穫を開始しました。
ただ、木に成っているカルキーンの実です。
低い枝の実は手で回収出来ますが、高い所に成っている実はなかなか取りにくいわけです。
で、僕は周囲を見回したのですが……ありました。
ガタコンベの街の周囲で生えているのを見たことがある「竹モドキ」とでも言うべき木です。
細くて長くいて中が空洞になっていて所々に節があるその木を、魔法袋に入れて持って来ていたのこぎりで根元から伐採しますと、枝打ちして1本の長い棒にしてしまいます。
で、先の細い部分を適当なところでぶつ切りにして、平たくした先端部分にV(ブイ)字型の切れ目を入れていき、その真ん中に少し割れ目を入れます。
僕は、そうやって加工した竹モドキを構えると、
「いいか、パラナミオ。よく見てるんだよ」
そう言いながら竹モドキを伸ばしていきます。
で、高い所に成っているカルキーンの実の枝の付け根に竹モドキの先の割れ目を突き刺すと、僕はそのまま竹モドキをグルグルと回していきます。
すると、竹モドキの先に挟まれていたカルキーンの実が枝ごとボキッと折れまして、竹もどきの先にくっついています。
で、竹モドキを倒すと、その先に挟まれているカルキーンの実を枝ごと回収します。
そんな僕の一連の行動を見ていたパラナミオは
「パパすごいです! こんな道具をこんなに簡単に作っちゃうなんて!」
そう言いながら目を輝かせています。
いや、まぁ、これも婆ちゃんから教わったやり方であって、僕が自分で考え出した方法じゃないんですけどね。
で、同行していたみなさんも、僕同様に竹モドキを加工して高い所にあるカルキーンの実を回収しまくっていきました。
当然、パラナミオも、僕が加工した竹モドキを使ってカルキーンの実を楽しそうに収穫しています。
で、まぁ、僕はですね、他にも何か木の実がなっていないか周囲を見て回っていたんですけど……
「あれ?……あれってひょっとして……」
カルキーンの木が群生しているすぐ横に、何やらイガイガの実をつけている木が群生しています。
よく見ると、木の下には結構な数のイガイガの実が落下しているではありませんか。
で、僕はそのイガイガの実を足の裏で押していったところ、イガイガの実がパックリと割れ、中から栗っぽい実が出てきたではないですか。