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目覚めたモノ

 身体中が死ぬほど痛い。
 腕を上げる事も、指を動かす事も出来ないほど痛い。
 ただ、痛みがあるということは、意識がある状態であり、死んではいない。
 あの高い場所から落ちたというのに死んではいないなんて不思議だ。
 身体を動かす事が出来ない変わりに、だんだんと意識だけはっきりするようになってきた。
 身体の自由はほとんどないが、瞼ぐらいならば開ける事が出来る。

「…天井?」

 先ほどまで居た雪山でも空洞の中でも無い。
 竹で編んであるような天井が見える。
 それに、雪山にいた時ほど寒さが無いのだ。
 それもそのはず、ここは何者かが作った家か小屋なのかもしれない。
 だとすれば、見ず知らずの誰かがこの場所まで運んできたのか。
 そんな馬鹿な事があるはずがない。
 助けた者に何の得がある。
 きっとこれは、動けない者を狙った何かだろう。

(なら、ここから早く出ないと…)

 手足を動かそうとするが、身体が言うことをきいてくれない。
 必死にもがいている内に何者かの足音が近付き、中へ入ってくる。

「おや、目を覚ましたんだね」

 そう話してきたのは、白髭を生やした老人だった。

「そういうあんたは?」

「わしか? わしはこの村で村長(むらおさ)をしている者だ」

 笑顔を向けて話す老人に悪意の類いはない事を悟った。
 だが、なぜ自分のような見ず知らずの者をわざわざ助けたりしたのだろうか。

「…」

 自分を助けたとしても何の利益を生む事はない。
 考えれば考えるほど分からなくなる。
 そんな沈黙を破ったのは、老人の後から入ってきた人物だった。

「おじいちゃん。どう、あの人の様子は?」

 ひょっこりと顔を出して現れたのは、可愛らしい少女だ。

「おお。すまんすまん。今は起きとるよ」

 老人は、横になって動けない自分を指差してきた。

「わぁ、本当だ! 良かったぁ」

 自分を覗き込んでほっと胸を撫で下ろす少女に、老人は、何もわからない様子の自分に説明を始める。

「そうそう。この娘は、わしの孫娘でな。お前さんを見付けたのもこの娘だ」

「お、おじいちゃん!」

 照れくさそうに老人の後ろに下がる少女に、何も出来ない自分を救ってくれた事に素直にお礼を言う。

「ありがとう」

「ううん。わたしもたまたま通り掛かっただけだから」

「それでも、見ず知らずの自分を助けてくれるなんて、本当にありがとう」

「ごほん。二人して話すのは良いが、そろそろ夕食の時間ではないか?」

「ああ、そうだった! ご飯の途中だったんだ」

 慌てた様子の少女がドタドタと足音を鳴らしながら台所へ戻って行く。

「そうか、もう夜なのか…」

「その通りじゃ。お主も食うか?」

「食べれるのなら頂きたい」

「良いぞ良いぞ。食事は多い方が良い」

 口を大きく開けて笑う老人に釣られてこっちまで自然と笑みが零れる。

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