起こしてはならぬモノ
やけに空気が冷たい。
寒気が身体中に巡り、眠っていられずに目を覚ます。
明かりのない真っ暗な空間に何かを掴もうと手を伸ばすが、空を切る。
寒気が治まらず、何か暖まる物を探すために仕方がなく身体を起こし、暗闇をふらつきながら壁らしきモノに触れる。
それを頼りに小さな光がある方へ進んで行く。
光はどんどん大きく広がり、辺り一面に光が覆うと寒気がする理由が分かった。
「…雪…山?」
左右を見渡すが、雪に森が広がっている以外に何もない。
それに、全身が雪のせいで気温が下がって寒い。
「なんで、雪山?」
手を擦り、息を吐いて少しでも暖を取ろうとするが、寒いのはあまり変わりがない。
先ほどの暗い洞窟のような場所を振り返り、戻る選択肢もあるのだが、どの道、食料や暖が取れない所では外にいようといまいと変わらなかった。
「さむっ」
口に出しても寒さがどうにかなるわけではないが、声に出すほど寒いのだ。
肩に手を当てて寒気を抑えながら雪山を歩き出す。
◇◇◇◇◇
一歩一歩踏み出しながら進んでみたのは良いものの、右も左もわからない状態では意味がない。
だが、進まなければ何も変わらない。
「痛っ!?」
突然足元に痛みを覚え、すぐに利き足である右足をその辺に座り込んで確かめる。
すると、右足の裏は、裸足のせいで霜焼けて皮が破れていた。
まだ長いこと歩いていないにも関わらず、歩き辛くなるとは、人間の身体は弱いのだと認識させられる。
「さて、どうすっかな…」
上を見上げても太陽の光と木々が見えるだけだ。
しかし、どうにかして夜までに山を降りなければどんな野生の動物が夜活動しているのかわからない。
そのためには、やはり歩き出すしかない。
歩くペースは落ちるものの、着実に進んでいる。
だが、そんな予想をしていたせいだろうか、犬のような遠吠えが聞こえてきた。
「まさか…!」
血の臭いを嗅ぎ付けた狼犬のような犬が唸り声と共に周囲を囲い混む。
おそらく雪山にしか生息出来ないであろう白い毛を纏った狼だ。
また聞こえた遠吠えで囲い混んでいた円が少しずつ狭まって行く。
恐らく次の遠吠えが聞こえてきた場合、襲われるのは確実。
そんな事は何がなんでも避けなければならない。
「くそっ!」
雪を蹴り上げて狼達の統率を一瞬乱す。
統率が取れずに離れた場所を飛び出すように走りだし、狼達の間を抜ける。
すぐに後方から狼の遠吠えと共に雪崩のような足音が聞こえてきた。
武器になりそうな物はなく、ただ足の痛みも関係なく全力で駆け出す。
(くそくそっ! なんで自分がこんな目に…!)
息を切らしながらも走り出した足が突然空に浮く。
真下を見ると、そこには穴の空いた底の見えない空洞が見える。
「うぁぁぁっ!?」
空中から真っ逆さまに空洞の中へ落ちて行く。
長く長い空洞の底へ…。