コンビニおもてなしと、とあるお姉さん
クリスマスケーキならぬパルマ聖祭ケーキの予約が絶好調なコンビニおもてなしです。
で、そのケーキ作成作業に関しても少しずつですが目処が立ち始めています。
店休みの今日、オトの街からラテスさんがやってきます。
ラテスさんは食堂を経営していまして、店に大きなパン焼き釜を持ってるんですよね。
で、食堂の空き時間に、そのパン焼き窯を使ってスポンジケーキだけでも作ってもらおうかと思っているわけです、はい。
スポンジケーキの数さえあれば、あとのデコレーションは、僕とヤルメキス、それに最近手伝ってくれて手慣れてきているテンテンコウ♂と4号店のクローコさん、そしてあっという間にケーキ職人並みのテクニックをみにつけた魔王ビナスさんの手伝いがあればなんとか出来そうですので。
それに、コンビニおもてなし食堂エンテン亭を切り盛りしている猿人4人娘も休みの日は手伝ってくれることになっていますので、デコレーション部隊はどうにかなりそうなんです、はい。
一応、2号店のシャルンエッセンス率いるメイド部隊にもやってもらってはみたのですが……うん、彼女達のことは忘れることにします。
で、厨房で材料を準備して待っていると、
「お邪魔しまぁす」
オトの街につながっている転移ドアが開き、中からラテスさんが出てきました。
「こんにちはぁ」
「お邪魔します!」
その後方から、2人の人物も出てきました。
1人は、見覚えがあります。
前にテトテ集落で見かけた女の子、確かテマリコッタちゃんだったはず。
「わぁ、テマリコッタちゃんです!」
ちょうど僕の手伝いをするといって、気合い満々の様子で厨房にいたパラナミオが、ぱぁっと笑顔になってテマリコッタちゃんのところに駆け寄っていきました。
「お久しぶりパラナミオ。元気そうで何よりだわ」
「はい、パラナミオは元気です。テマリコッタちゃんも元気ですか?」
「えぇ、私も元気よ!」
2人はそう言い合いながら嬉しそうに手を取り合ってはしゃいでいます。
さて、そんなパラナミオちゃんの後方にもう1人。
白い狐の姿で、人の格好……これって人狐(ワーフォックス)っていうんだっけかな。
そんな女性が立っていまして、嬉しそうにしているテマリコッタちゃんとパラナミオの様子を笑顔で見つめています。
「店長さん紹介しますね、こちら私の親友のヨーコさん。家に大きなパン焼き窯を持ってるのよ」
「ヨーコさん……へぇ、僕が元いた世界の人みたいな名前なんですね」
僕がそう言うと、そのヨーコさんは、少々苦笑しながら僕の方を見ています。
「ヨーコさん、どうかしました?」
「あ~……いえ、やっぱいいです。とにかく今日はよろしくお願いしますね」
ヨーコさんはそう言ってペコリとお辞儀をしました。
なんだろう、何か言いかけてやめたような気がしたんだけど……ま、本人がやっぱいいって言ってるんだし、まぁいいか。
で、皆さんには早速、僕が準備しておいた材料を使ってスポンジケーキの作成講座を始めることにしました。
ちなみに、ケーキの型は、ルアにアルミもどきの金属を使って作ってもらっていますので、ラテスさんとヨーコさんには魔法袋と一緒に持って帰ってもらう予定です。
で、向こうで焼き上がったスポンジケーキを魔法袋に詰めて、で、週に1度休みの日に持って来てもらう予定にしています。
コンビニおもてなし本店の厨房で、僕は早速ラテスさんとヨーコさん、それにお手伝いのパラナミオとテマリコッタちゃんの前で説明を始めました。
例によってラテスさんはメモ帳片手に僕の説明を聞いています。
メモを取りながら、フンフン頷いては、僕の話に耳を傾けています。
で、ヨーコさんはというと、僕の説明を聞きながら材料と道具のチェックをしています。
不思議とヨーコさんってば、手慣れているんですよね。
スポンジケーキ作りでは使用しないハンドミキサーなんかを見ると
「スポンジケーキだけならこれはいらないわね……」
と、的確に道具をよりわけてます……全然説明してないのに。
ひょっとしてこの人、見た目は人狐さんだけど、僕が元いた世界からの転移者だったりして。
……って、おい、落ち着けタクラリョウイチ。そんなどっかのライトノベルみたいなご都合主義な展開が現実にあるわけないだろう?
僕はその考えを振り払いながら説明を続けていきました。
で、説明が一通り終わると、早速実践です。
「お手伝いならまかせてね、いっぱい私達をたよってもいいのよ」
「はい、お手伝いいっぱい頑張ります!」
テマリコッタちゃんとパラナミオが気合い満々の様子でそう言っています。
で、実際のところ、オトの街に帰って作業してもらわないといけないので、序盤の作業はラテスさんとヨーコさん本人に頑張ってもらわないといけないので、子供チームには、とりあえず出来上がったケーキを1個与えまして、
「じゃあ君たちにお仕事だ。このケーキを食べて気がついたことを僕に教えてくれるかい?」
僕がそう言うと、テマリコッタちゃんとパラナミオってば、2人揃ってケーキをガン見しながらうその口の端から涎を垂らしています。
「ま、まかせて店長さん。私、しっかり頑張るわ」
「ぱ、パラナミオも頑張ります!」
2人は、目を輝かせながらフォークを手にとりまして
「「いただきま~す」」
と、元気に挨拶をしてから食べ始めました。
よし、これで邪魔者……じゃなかった、小さなお手伝いさん達の足止め工作……じゃなくて、お仕事をお願い出来たので、大人組は大人組の作業に入ります。
スポンジケーキ作りが初めてだというラテスさんですけど、店でパンを作っているだけあって、コツを飲み込むのはすごく早いです。
メモをみながら、いいペースで作業を進めています。
さて、ヨーコさんの方の確認を……
「店長さん、とりあえず10個分作って見たんですけど、いかがかしら?」
って言いながら、すでにあとは焼くだけ状態になっているスポンジケーキの型を前にしてニッコリ微笑んでいます。
「すごいなヨーコさん……完璧です」
「そうですか?ならよかったですわ」
そう言いながらヨーコさんは口元を押さえて上品に笑っています。
「すごいでしょ、店長さん。ヨーコさんってば何だって出来ちゃうすごい人なのよ」
そう言いながら、テマリコッタちゃんがまるで自分のことのようにヨーコさんのことを誇らしげに話しています。
その顔中に生クリームがついているもんですから、ヨーコさんが慌てて駆け寄っていって顔を拭いてあげていました。
その点、パラナミオは……って、こっちもケーキに夢中で顔中生クリームだらけじゃないか。
僕は慌ててタオルを片手にパラナミオへと駆け寄っていきました。
そうこうしながらも、試作のスポンジケーキを本店のオーブンに入れて焼き上げていきます。
「いいなぁ、オーブン。私も欲しいのよねぇ」
ヨーコさんは、業務用のオーブンを見ながらそんなことを言っています。
まるでオーブンを知っているかのように……やはりヨーコさんってば、僕の元いた世界からの転……
……だから、落ち着けタクラリョウイチ。そんなどっかのライトノベルで使いまくられてるような超ご都合主義な展開が実際にあるわけないだろう?
で、待つことしばし。
ラテスさんとヨーコさんの作ったスポンジが無事焼き上がりました。
うん、どれもばっちりです。
ラテスさんのスポンジケーキが若干膨らみがいまいちなのがありましたけど、この程度なら十分売り物に使えますし、数をこなしていけばすぐに慣れていくでしょう。
で、ヨーコさんの方は……そうですね、すでに僕からお教えすることは何もありません。
はっきりいって完璧です。
「じゃあ2人とも、よろしくお願いしますね」
研修を終えまして、僕は改めて2人にスポンジケーキ作りをお願いしました。
2人は
「「はい、頑張ります」」
と、声をそろえて言ってくれました。
「ヨーコさん、ラテスさん、私もいっぱい手伝うんだからね」
テマリコッタちゃんも笑顔でそう言っています
で、また顔に生クリームがついていたもんですから、ヨーコさんが再び慌てて駆け寄っています。
ホント、我が家のパラナミオを見習わないといけないよテマリコッタちゃん、ほら、パラナミオは今度は顔に生クリームなんて……次の瞬間、僕がタオルを持って走ったことで、すべてを察してください。
◇◇
その後、ラテスさんとヨーコさんはコンビニおもてなしの店内をあれこれ見て回りました。
今日は店休日なので、他にお客さんはいません。
なので、2人はゆっくりと店内を見て回っています。
「ヨーコさん、これは何かしら?」
時折、テマリコッタちゃんが店の中の品を指さして質問したりしています。
って、あぁ、それはチャッカマンといって……
「テマリコッタちゃん、それはねチャッカマンっていって、火をつけるための道具なのよ」
「へぇ、そうなんだ。あ、そういえばヨーコさんの家にもあったわね」
「えぇ、そうよ」
……はい?
チャッカマンを知ってる?
なんで? この世界には存在しないのに……・
しかも、家に持っていらっしゃる?
なんで? この世界には存在しないのに……
……やはりヨーコさんってば、僕が元いた世界からの転……って、だから落ち着けと何度言えばわかるんだタクラリョウイチ! そんなご都合主義な超展開はありえない! 絶対にない! ありえないんだからな!
僕は、必死に自分にそう言い聞かせていきました。
◇◇
ラテスさんとヨーコさん、それにテマリコッタちゃん達は店で買い物をした後帰って行きました。
そんな一同を見送った後、僕はパラナミオと一緒に厨房の片付けをしていました。
ちなみに、ヤルメキスはパラランサくんと一緒に式場へ打ち合わせに行っています。
「そう言えばパパ、パパはママと結婚式はしたのですか?」
パラナミオが洗い物をしながら聞いてきました。
「いや、パパとママは式はしてないんだ。その頃ってパパがこの世界に来てまだ間がなくてさ、あれこれ忙しかったから」
「ふ~ん、そうなんですか……」
パラナミオは、しばらく考え込むと、
「そうだパパ! パパとママの結婚式をですね、パラナミオが結婚する時に一緒にやりましょう!」
そう言って笑顔を浮かべました。
……い、いや、ちょっと待てパラナミオ。
そ、そこは普通『ヤルメキスお姉ちゃんと一緒に……』じゃないのかな?
……っていうか、パラナミオの結婚式なんて、パパ、認める気はありませんからね。