19、うわ、すげぇショック!
スキルに拠らない竜の戦闘ってどんなもんなんだろうね。
よくわからないけれど、何事も経験だからやるしかない。
取り敢えず全力でタックルをかましてみる。
速度強化のスキルは持っていないから、これはいつもの調子で行けた。
いつもの調子とはいえ、距離が短いからあまり速度が出ない。
すると、オークキングは小癪にも斧を横向きにして盾のように構えた。
刃先はこちらを向いており、そのまま俺が突っ込めば自滅で真っ二つという位置だ。
「ブモォォォォオ!」
「うるっせー、この野郎!」
身体を横に捻り、急停止をかける。
同時に腕を斧に向けて伸ばし、刃が身体に触れないように構える。
オークキングのいかにも「さぁ来い」と言わんばかりの雄叫びを至近距離で浴びる。
壁に亀裂を入れるほどの雄叫びはスキルだったらしく、威力はそれほどでもないがこれだけ近くで大声を出されれば当然耳がビリビリする。
念話にMPや思考を割く必要が無い分、俺は思い切り悪態を吐いた。
斧を掴み合ったまま、お互いに睨み合う。
素の膂力は拮抗しているらしく、びくともしない。
えっと、こういう時どうすりゃ良いんだ?
いつもならブレスを浴びせているんだが、あれはスキルだから今は使えない。
くそ、普通ブレスって言ったら竜の生体特性だろ? 何でスキルなんだよ。
こう、思いっきり吹きかけたら炎の一つでも出ねぇかな。
「はぁ~~~~~~っ」
「ブモッ?! ブ、ブモッ! ブモォォォッ!!」
あん?
試しにやってみたら、火など出なかったというのに突然オークキングが悶絶し始めたぞ?
両手で鼻を押さえて地面をゴロゴロ。
「てめっ! 俺様の息が臭いってか!?」
なんか無性に腹立つ!
そりゃ、生まれてこの方歯磨きなんざしたことないけどさ!
そんな悶絶するほどじゃないだろ!?
そんなレベルだったら他のメンバーだって臭がる素振りしてんだろうが!
チラッ、と後ろを見たら、目が合ったはずのジルベルタにそっぽを向かれた。
うわ、すげぇショック!
この戦いが終わったら口をすすごう。そうしよう。
それはともかく。
「武器を手放した今がチャンス!」
取り上げた斧で攻撃したいところだが、俺の腕の構造上振り上げることができない。
だが、俺の武器は腕だけではない!
足元で鼻を押さえながらゴロゴロ転がっているオークキングを踏みつけるべく、俺は足を上げ……。
「うゎっ」
思い切り後ろにひっくり返りそうになった。
翼をばたつかせ、尻尾でバランスを取り何とか足を地面につける。
あ、今笑った奴誰だ! 1号か! 後でぶん殴る!
足が短い分、オークキングを踏みつけられるほど高くまで足を振り上げると重力で後ろに身体が引っ張られるようだ。
「ん? 待てよ?」
翼を動かしたことで、普段の動きを思い出した。
スキルが使えない分体術で、と意識しすぎたようだ。
俺は人間ではなく竜なんだから、人間と同じ動きをしようとしているのが間違いだった。
「そいや!」
「ゲェッ」
翼を動かして飛び、転がる豚の腹に着地。
高さプラス俺の体重分が攻撃力。
これはかなり効いたようで、潰れたような声を上げてピクピクと痙攣している。
「とどめだ!」
俺は足で押さえつけ、豚の頭に噛み付いた。
思い出せ、かつて観た恐竜映画の動きを!
俺の武器は、爪や巨体だけに非ず!
顎に力を入れ、首を振り上げる。
瀕死だったオークキングは、ブチブチと筋線維が引き千切れる音の後、豚肉となった。
「うむ、やはり俺様の敵ではなかったな!」
『――≪リージェ≫が経験値2500を入手しました――』
勝利に酔いしれている俺にルシアちゃんが寄って来て、血塗れだった口の周りを拭いてくれた。
初めて戦ったような無様さではあったが、それなりに収穫もあったと思う。
この竜の身体だからこそできる戦い方がある。
巨体を活かしたタックルや、空中からの飛び蹴り。
相手の重さによっては空高く連れていって落とすのもアリだな。
それから、爪で切り裂いたり、噛み千切ったり。
スキルが使えない分威力は落ちるが、尻尾で叩きつけるのもできる。
うん、何とかなりそうな気がしてきた。
「見てる方は面白かっ……グェッ」
さっそくからかってきた1号を捻り潰す。
スキル封じてるからいつもの再生が使えないらしい。ちょっとやりすぎたかな?
倒れたままの1号を膝に乗せて反省会。
「リージェは、最初は危なっかしかったが最後は圧倒的だったな」
「アルベルト、やはり騎士達は帰したほうが良い」
「何故です!? 数には数で対応した方が良いでしょう? 現にうまく連携できていたではありませんか」
後方で見ながらフォローに回っていたアルベルトが、まず各員の良いところを褒める。
が、そこでドナートが騎士達は足手まといだと言い出した。
反感の声や納得の声が騎士達から上がり、ざわめきが周囲を包む。
激高して反論したのは勿論、俺達についていくよう国王から命じられてきたジルベルタだ。
「戦闘で役に立たないというのであっても、皆様の武器修繕や物資搬送などは必要でしょう!」
「いやぁ、それも要らんっちゃ要らんのよな」
ジルベルタの言葉を、俺の膝上で寝転んだままの1号がのんびりとした口調で否定する。
「創世の腕輪の力で破壊不能の武器を作るとか、或いは壊れるの前提で量産するとかすればバトルスミスが危険を冒してまでついてくる必要はない」
1号の言葉に聞き入るように騎士達が静まり返る。
名指しされた鍛冶師たちがそれもそうだ、と悔し気な呟きを溢した。
「となれば、その護衛である騎士達も必要なくなるな。人数が減りゃ大量の物資も必要なくなるわけで。そうなりゃ物資搬送の輜重部隊も要らなくなるな。ついでに言えば何でも入る容量無限の背嚢みたいなの作ってしまえば、そもそも物資搬送に人数が必要ないわけだ」
念話が使えず会話に参加できない俺も頷く。
そもそも俺は最初から騎士達がついてくるのに反対だったわけで、異論はない。
「で、ですが! 我々には、この戦いの顛末を見届けるよう厳命を……」
「なら、ジルベルタだけついてくれば十分だろ。ジルベルタより強い騎士がいればそいつもいて良いけど。いる?」
誰からも声が上がらない。
ハッキリと足手まといだと言われた騎士達は悔しそうだが、実力不足を自分達でも感じているのだろう。
普段はおどけているだけの1号がキツイ言い方をするのは、たいてい相手の身を案じてのことだって俺達は知っている。
何としても王命を果たそうと意気込むジルベルタ達を、安全な場所へ帰らせようとしているのだ。
もともと撤退させるタイミングを図っていたのだろう。
俺達に都合の良すぎるアイテムを入手した今、彼らがついて来る理由はない。
騎士達がすっかりやり込められてしまったところで1号は分体を通じて国王に話をつけ、ジルベルタを除いたすべてのメンバーを帰らせた。
人数が少なくなったことで、俺も自分のレベル上げに専念できる。
8人と2匹になった俺達は、今度こそ先行している暗黒破壊神を追って先を急いだ。