2-10
へのへのもへじのカカーシが一体。
このカカーシは、どんな攻撃手段を使うのか。
一回の戦闘が終わるたびにシャッフルされたカカーシは、最早どれがどれだか分からなくなっていた。
「……Go!」
サイモンさんの合図が飛ぶ。
私は一気に距離を詰める。
「……!」
私から距離を取ろうと、カカーシは飛び退る。
この時点で、中距離か遠距離のカカーシであると目星を付ける。
(でも、このまま離れさせるわけにはいかない!)
離れたらこいつはきっと攻撃をしてくるだろう。
そうさせないために、私の土俵で戦ってもらう。
つまり、うんと距離を詰める。
私の脚は、さらに加速した。
(もらった!)
カカーシの懐に入り込む。
上目遣いに見上げれば、なんとも言えないへのへのもへじが、若干焦っているようにも見えた。
「せぃっ!」
下から持ち上げるようにダガーで切り上げる。
しかし、カカーシが寸前で後ろに倒れるように身を引く。
狙いが狂い、ダガーの刃はカカーシの服を切り裂くだけに留まった。
「あっ」
服を切り裂かれたカカーシは、うんと勢いをつけて、私を飛び越して跳んだ。
後ろに振り返る、その動作がカカーシに余裕を与えてしまう。
「わ、わっ、ととっ」
カカーシから飛んでくるのは弓矢に見立てた水鉄砲。
刺さって怪我をすることは無いが、それなりに威力のある水鉄砲は、当たれば後ろに押し返されたり、体勢を崩されたりすること請け合い。
私の前に戦っていた受験者の中には、それが元で体勢を崩し、膝をついてしまった子もいた。
(でも、これで分かった。あのカカーシは中距離攻撃のカカーシ。うんと遠くに逃げ出すこともないから、距離を詰めやすい)
水鉄砲の軌道を読む。
あれがどこに飛んでくるのか、どこから飛んでくるのか。私の目は、それをはっきりと捉える。
軌道を読み、それを避ける。
しゃがんだり、飛んだり、走ったり。
ああ、なんだろう。
なんだか、身体がとても軽い。
まるで鳥になったかのような錯覚を覚える。
そのくらい、身体がうんと身軽に動く。
これがサイモンさんの言っていた、身体が使い方を知っているってことなのだろうか。
目の前に迫る水鉄砲。避け続けていた中の、最後の一本。
私はそれを、ダガーで切り落とす。
ダガーは水を裂き、水鉄砲は水滴となってダガーの刃に纏わりつく。
「……っ!」
水滴を飛び散らせ、一直線にダガーを振り下ろす。
それは狙い通り、寸分違わず刺さってくれる。
勢いが付きすぎたのか、そのままカカーシ諸共地面へと倒れる。
ゴキッ。
そんな鈍い音が、手を伝って響く。
「……ふぅっ」
カカーシが完全に動かなくなっていることを確認する。
それを確認して、ようやくダガーをカカーシから引き抜く。
倒れた瞬間に、真っ二つに折れてしまった、カカーシの首から。
「……十番、合格だ」
ありがとうございますという前に、私は。
「大変申し訳ありませんでした」
土下座した。
「Oh、DOGEZA! ……いったい何に謝っているんだ?」
「カカーシの首を、折ってしまい……」
「ああ、そんなこと気にしなくていい」
「え?」
渾身の謝罪を気にしなくていいというサイモンさん。
まだ、他に受験者がいるというのに、随分あっさりしている。
「ほら、カカーシ三号。立て」
そう言いながらサイモンさんがカカーシを抱き起こす。
すると、あらぬ方向へと曲がっていたカカーシの首は、ぼきっ、という音と共に、正常な位置へと戻っていく。
まるでそれは、外れた肩関節を戻すかのような御業。
「壊れてもまた正常に戻る、回復機能付きの自動人形だ。オレの妻はすごいだろう?」
カカーシはサイモンさんの奥さん製作らしい。
何気にまた惚気られた気がするが、いつまでもいられないため、元の場所に戻る。
「次、十一番」
「おーし、行ってくるぜぃ」
戻る私と入れ違いに陽夏が中央へ向かう。
すれ違いざまにそう、挨拶のように言ってくれるから、私も彼女に頑張れ、とだけ声をかける。
「いっちょやったるか」
陽夏の手には、まだ何の色も付いていない、ハマドライアドの杖が握られていた。