秀吉の死10
家康が率いる東軍が反転をした。家康の仕組んだ芝居が功を奏したようだ。すでに天海の姿もなく鼠も消えた。だが家康の紅軍はゆっくりしたものだ。時を測っているのだ。狗は高虎の軍から離れて山に中に入る。合図の笛の声が聞こえた。これはぬんじゃ出ないと聞こえないのだ。
藪の中から顔を出したのは蝙蝠が使っている下忍だ。
「三成は関が原に向かっています」
ともにここを戦いの場として決めていたようだ。蝙蝠から渡された地図の控えを渡す。
「元々三成が陣地を決めたようですが、最終的には各武将がめいめいに決めたと言うことです」
同数らしいが西軍はまとまりがないようだ。
「西軍はそれぞれが個別で戦う形になっていますし、どうも調べたところ戦闘意欲のない武将も多いのです」
蝙蝠が手のものを潜ませて調べたようだ。それに比べて東軍は家康の軍だ。どこか昔同じ風景を見たと狗は思った。あれは天王山の戦いだった。あの時の光秀が三成なのだ。今の天海は光秀だが中身は果心居士なのだ。
「とくに毛利軍を見張るのだ」
狗は伝えると軍を追いかける。追い付くと高虎の馬の傍に寄る。
「この地図を家康殿にお持ちください。西軍の配置図です」
「まさか?」
「すでに家康殿は東軍の配置を天海殿の密偵が調べて決めているのです。とくに毛利の動きが鍵となります。それに積極的に打って出ない西軍には手を出さず三成軍を攻められることをお勧めします。でもこの陣形では大谷殿が要注意です」
どうも厳しいところに当てられているようだ。高虎は馬を走らせてその地図を家康の届けに行く。その後ろに狗は側近として付く。地図を先に受け取った家康はすぐに招いた。
「いい部下を持っているな?」
と家康は機嫌がいい。
「戦いに間に合うように秀忠の軍を出発させた」
と言うことは倍以上東軍が有利になるわけだ。三成は上杉が追いかけても戦ってくれると思っていたのか。どうも頭の中で戦いが先行しているようだ。
だが家康も三成に勝っても秀頼を担ぐ大坂城が残っている。まだ戦いは始まったばかりだ。次の次を考えるのが家康であり天海なのだ。狗はどこまで高虎と共にするのかも考えなければならない。