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秀吉の死2

 一行は総勢30人で家康のお墨付きが付いている。その中には蝙蝠と鼠が入っているが、柳生の侍が10人混じっている。参ったことにその頭が京之助だ。出来るだけ言葉を交えないようにしている。名護屋に入って主君である秀保を訪問する。だがお目見えにもほとんど話をしない。
 狗は蝙蝠と鼠を使って情報を収集する。もう何隻も朝鮮に行くまでに水軍に物資が沈められているが、三成はすべて送られてものとして報告しているようだ。だから当然現地は飢餓状態になっているし、鉄砲の玉も底ついていると言う。
「戻て来た負傷兵に聞きましたが、もう敗戦状態だそうです。とくに反三成の勢いが凄いです。戻ってきたらすぐに戦争になる勢いです」
 蝙蝠が報告する。
「でも事務方はのんびりしたものです。現地とは無関係に勘定や書面のやり取りに終始しています。我が殿の秀保殿の評判も良くありません」
 もう豊臣政権は土台がぐらついている。まさに名護屋がそれを現せている。ここの事務方はすべて三成に向いている。戦争を始めた秀吉はもうこの場から離脱している。
 この時柳生の侍から呼び出しがある。狗が連れられて離れの部屋に連れられて行く。部屋には京之助が酒を飲んでいる。
「ここには服部も柳生もいない。上手く化けたものだな狗?」
「やはり分かっていた?ここで始末するか?」
 1対1では勝てない。
「確かに天海殿の警備をしてきた。だが狗を切ろうとしたことはない」
 確かに対決してもわずかに的をずらせている。これは狗も分かっている。
「宗矩殿は?」
「知らない。だから今回この役を任せた。それで私は敢えてこの役を買って出た。今宗矩殿には道場に帰ることを申し出ている。剣だけにこれからは生きたいのだ」
「私も悩んでいます。だから今回は家康殿に乗ることになったのです。でも生きる先が見えません」
「まあ飲め」
 京之助が狗に酒を注ぐ。

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